第103話
ラダバナにはいくつもの本屋があるらしく、クリフは比較的大きな本屋に連れて行ってくれた。
本の値段は数千エルから数十万エルと幅広い。とりあえず、この世界でよく知られている絵本と童話を手に取る。
たぶん、このあたりは一般常識として知っておいた方がいい。最近人気の物語は家で見かけた気がするのでパスして、図鑑を探す。
絵が綺麗な本なら見て楽しいし、内容がわからなくてもありだ。パラパラとめくって気に入った物を数冊選ぶ。
異世界言語は、古語も訳してくれるようで、読めない本はなさそうだ。せっかくなので、古そうな本も数冊選んでおく。
本を鑑定しても、本としかわからない。題名読めば、題名がわかるようになるが、あまり役に立っている気がしなかった。けれど、稀に呪い、触ると危険という表示が出るので、鑑定をしないという選択もできなかった。
暇つぶしになればいいので、広く浅く本を選んでいく。気になる物ができたら、次からはその関連本を探すが、今のところ詳しく知りたい魔導具についての本はあんまりなかった。
次点で錬金術だが、こっちはたくさんある。ただ解読しないといけない系のが多いので、手を出すのは解読のいらない入門編だけにしておく。
未だに全解読できていない錬金術本があり、その解読の手がかりになればいいと思う。なんか後世に自らの研究成果を残したいが、研究に苦労した分簡単には教えてやらないという意志を解読必須本たちから感じる。
けれど、再現不可能魔導具図鑑なんて本を見つけると、解読すれば答えがあるだけ錬金術はマシだと思えた。
外観図だけじゃなく、内部構造の情報よこせ。ダンジョンでレシピ入手の必要があるのに、入手したダンジョンは既に枯れてないとか、本気で再現させる気のない図鑑。立ち読みして、いらねぇと思ったのに、魔導具関連本が少なすぎて購入を決める。
完全に同じ物はできないだろうが。似た物ならできるかもしれない。ほぼ役に立たなそうとは思うが、お値段三〇万エル超えの本なので役に立ってほしいと願う。
せめて、ちゃんと読もう。
クリフには冒険者の道具図鑑や武器図鑑を勧められた。金策に良さそうなので購入を決める。ついでに防具や装飾品の図鑑も購入した。
五〇冊弱で約三〇〇万エルが、高いのか安いのかわからない。今日、得た収入からすれば安い気もするが、冒険者として得られる収入を考えると高いかも。
少しだけ悩んで、今お金に困ってないし、雪に閉ざされた間の自己投資だとでも思っておく。それに、本は買取もしてくれるから、資産でもある。
あんまり換金性はよくないらしいが、きっと、無駄な買い物ではないはず。
お買い上げした本を収納アイテムにしまい、店を後にする。いっぱい買ってくれたからと、まったく値引きしない代わりに絵本を三冊くれた。
クリフの説明によると、絵本は古語で書かれており、子どもに読み聞かせる絵本なのに子どもには理解しにくい言葉で書かれているらしい。これまた不良品資産を押し付けられたようだが、古い時代の絵本にしては色は綺麗だし、絵本による時代の変遷を知るのもいいかもしれない。
通りを歩き、休憩がてらカフェに入る。昼には少し早くて、暖かい飲み物を頼んだ。
「次、どこか行きたい所ある?」
「楽しそうな物を売っている所って、どこだろう? 冒険者ギルドと商業ギルドで魔物素材は買いたいけど」
「家具でも見に行く? 家具なら魔導具に改造できるんじゃないかな?」
「できるけど、作ってもあんまり楽しくない」
需要とか労働時間を考えたら、収益的には既製品を使った方がいいのだろう。仕事なら仕方なくやるが、今のところそんな仕事をする必要はなく、あえてやりたくもない。
素材さえあれば、家具は錬金術で作れるし、家具こそ図鑑が有れば模倣できてしまう。家具の装飾は完全に同じにできないかもしれないが、そこまでエイコにこだわりがなかった。
「贈答用になんか作っておいた方がいい?」
「家具は引っ越しする相手に贈ることもあるけど、近親者以外にはあんまり贈答用には使わないね。家具よりは手鏡とか宝石箱なんかに隠し収納場所を作ってあげた方が喜ぶかな」
時計や櫛なんかもいいらしい。
贈答用は、ストックを用意しておいた方がよさそうな気がする。基本はお酒でいいような気もしているが、準備しておくなら種類は少ないよりは多い方がいいだろう。
「それなら、小物類は見たい」
時計はレシピがあるから作った。置き時計も絡繰時計も懐中時計も作れる。ただ、レシピ通りに作って、今の流行りなのかどうなのかがわからない。
「時計も鏡も頑張れば飛ばせそうなんだけど、需要あるかしら?」
「飛ばす?」
「ビュッンって飛ぶんじゃなくて、空中に浮遊する感じ?」
エイコが首輪傾げると、クリフは一緒に首を傾げてくれた。
「その需要は商人に聞いた方がいいよ。浮く絨毯は需要があったんだろ?」
「リクシンさん、お店にいるかな?」
雑貨を見ながら奴隷商へ向かい、店主がいるようなら話を聞いてもらうことにする。いなければ、商業ギルドで聞くか、現物を作ってオークションに出してみよう。
気楽にお店を巡り、昼食を食べた後、奴隷商店へ行くとリクシンがいた。
「待ってたよぉ」
なんの約束もしていなかったはずだが、待たれていたらしい。
「君にお勧めのコがいるんだぁ」
また押し付ける気だ。今回のコは高いから店頭では見せられないと、店の奥に案内された。
「そういやぁ、獣人を見たことあるかぁ?」
「ないよ」
「じゃぁ、まずは見て驚けよぉ」
そうして見せられたのは、二足歩行する犬だ。完全に顔が動物。めちゃくちゃゴールデンレトリバーぽい。しかもなんか、賢そうに見える。
連れてこられた奴隷を回りをぐるぐるして、エイコは全方位から眺めた。見る対象にされた方は困った顔をしており、尻尾が垂れ下がっている。
「獣人って耳とか尻尾だけかと思ってたんだけど、違うのね」
「そっちの方がぁ、多いぞぉ」
完全に動物顔は少数派だそうで、その希少性から奴隷としてのお値段も高騰しているらしかった。
「こいつのお値段五千万でなぁ、一族まとめ買いで二億でどうだぁ?」
「億のお金は持ってない!」
借金してまで奴隷を買うような、ギャンブル精神を持ち合わせていないエイコは叫んだ。
「金策の相談にはのるよぉ」
「リクシンさんとこでお金借りたら借金奴隷にまで落ちそうだから嫌だ」
「ひどいなぁ」
まったく傷ついていない顔で、リクシンはニヤニヤ笑う。
「リクシンは金貸しが副業だから、金利はかなり優しい方だよ」
だいたいリクシンのところより金利が数倍高いそうで、十倍超えなんてところもあるそうだ。
「金利って法規制されてないの?」
「ない」
クリフは即答し、エイコはヤバさに顔が引きつる。
エイコは算数が得意だった。小数点以下の数字もパーセントについても理解できている。そのせいか、
子どもでもやらかしてしまえる通信端末を持たせる以上、必要な知識として理解できないならガチガチに規制のかかった子供用しか持たせないと言われて頑張った。
金利をいくら払っても、元金が減らないと借金はなくならない。その結果、借りたお金の何倍も払ったあげく借金が増えるなんて事態も発生する。
そしてこの世界、自己破産なんてものはない。行き着く先は借金奴隷だ。
人生を担保にした借金なんて嫌すぎる。しかも、金利にのせいで返済はほぼ不可能。エイコはぶんぶんと顔を横に振って拒否した。
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