クリスマスらしきイベント
第99話 クリフはクリスマスを理解するのをあきらめた。
「クリスマスってどういうもの?」
女の子たちがダンジョンへ向かった夜、クリフは男たちに問いかけた。
「エイコからは肉を食べてケーキ食べる日とは聞いたんだが、メイは当日まで部屋を飾りつける行事と言っていた。カレンはエイコがダンジョンに出かけてから男連中に聞くといいと言われたんだが」
コータに視線が集まり、つられるようにクリフもコータを見る。
「期待されてるぞ、コータ」
「温室借りていいですかね?」
「なら、クリフは離れか? エイコはあんまり期待してなさそうだが」
「コータがやらなければ気にしないが、カレンは期待していそうだからな」
「期待してなければ、ダンジョンに出かけてから聞けとは言わないだろ」
トミオ、ユウジ、ショウの順で発せられた言葉で、クリフにとってクリスマスがより謎なものになった。
「二四日の夜は恋人同士で楽しんでもらって、全員でのプレゼント交換は二五日ですかね?」
「それでいいだろう。子どもいないから予定調整はどうとでもなるからな」
「あー、お父さんとしてはやっぱり大変だったんです?」
「サンタクロースへの手紙は親の恣意が混じって子どもの想定外のプレゼントになりやすいからな」
元の世界では父親だったトミオと元の世界には恋人がいたユウジの会話を聞いて、クリフはますます何なのかわからなくなる。
「あっちは家族用のクリスマスの話だか気にしなくていい。クリフがやるべきは恋人用のクリスマスだから」
ショウによるとクリスマスは種類があるらしい。ただ、友達用や恋人用でもプレゼントは大事なようだ。
エイコが欲しがる物なんて食べ物しか浮かばない。次点で素材は喜ぶかもしれないが、かなりの量を溜め込んでいる。よほど珍しい物でなければ、プレゼントしても忘れられそう。
見た目の凝った料理でも用意してみるか。それから、恋人らしいプレゼント。コータは装飾品にするらしい。
実用品としての装飾品はエイコが作れてしまう。どうしたものかと相談すれば、恋人同士の記念品になる様な物を勧められた。
準備する事がいろいろあり、クリスマスを過ごす相手と準備期間を含めて楽しむものらしい。その相手はダンジョンに行ってしまっているが、相手の事を思いながら準備すればいいらしかった。
しかし、エイコは恋人のことを考えながら、ダンジョンで過ごしているとは思えない。食事の時間なったら思い出してくれる程度ではないだろうか。
ダンジョンでケガをする心配はしていないが、ダンジョンガチャで何を出すかは心配していた。
クリフはダンジョンへ向かった監視員から連絡を受け、まだまだ恋人の事を理解していないと知る。
ダンジョンの中でどんなスキルを使っても罰せられる事はない。立証できるなら、殺人や強盗といった罰せられる事案はあるが、それでもかなり難しい事例だ。
それに、生産職がダンジョンの内で何かを作り、使うことを罰する法はない。そんな法を作れば、生産職はダンジョンの攻略ができなくなってしまう。
ダンジョンの攻略に必要だと主張すれば、他の冒険者を害さない限りだいたい何をやっても許さる。
ダンジョン内で組み立てたなら、余程作りたかったのだろう。許可が出たら直ぐ作れるように準備していたのは知っていたが、許可待ちできなくてダンジョンでやらかすとは、クリフは想定していなかった。
我慢させてこちらの枠にはめるのは無理だと、早々に上の人たちにも理解してもらいたい。
監視体制を築いて好きにさせた方が、よほど労力は少なくて済む。遠方でやらかされると報告を聞くことしかできない。
直ぐそばにいたところで、止めるなんてまず無理だ。止めたら止めたで、別の方向でやらかすだけだろう。そのくらいクリフは達観していた。
なんらかの思想を語るでもなく、国や町に対して何かするわけでもない。やりたいことを好きなようにやっているだけの子ども。
エイコ単独で危険な存在にはならないが、悪い男に利用されれば即反乱軍を作れそうなのが困る。
胃薬を作ってくれる優しさより、胃薬がいらない気遣いができる彼女が欲しい。ただ、そんな要望をだしたら、またよくわからないことしそうなので、クリフは沈黙する。
食事を美味しく食べてくれるところだけは、クリフにとってエイコは理想の彼女だ。
大抵のことは容認できるし、少々問題を起こされても対処できる。そのくらいには自らは優秀だと自惚れていた。
しかし、このところ過剰な自信だったと、自己評価を下方修正し続けている。まさか、お遊びみたいな彼氏彼女ごっこで、自信喪失する日が来るとはクリフは考えていなかった。
彼女の行動は想定外の事が多くて、先読みなんてできない。ただの彼氏としてはそれを面白がっていられるけど、仕事としては頭を抱えてしまう。
やっとダンジョンから帰ってきた彼女らは、空を飛んでいる。本当に、城壁内の家に住んでいなくてよかった。
外でもあんまり良くはないが、城壁内に空飛んで入られるよりはいい。
クリスマスといえばサンタクロースらしく、サンタクロースと言えば空飛ぶトナカイらしい。ただ、彼女たち三人の中にトナカイの正しい形状がわかる人がいなくて、埴輪の馬に角をつけてソリを浮かせたらしい。
「サンタクロースって、なんだ?」
「子どもに夢を与える空飛ぶおじいちゃんだよ。夢工房で作ったプレゼントを子どもの夢に届けるの。夢から現実に持ってくるのに保護者というか親の協力が必要で、なんか違うプレゼントになりやすいんだけどね」
にこにことエイコが説明してくれる。そんなサンタクロースが使う空飛ぶソリを模倣したらしいが、トナカイの造形がわからなくてソリを引くゴーレムがおかしな事になっているそうだ。
「埴輪の馬に光る鼻と角か。努力は認めるが、トナカイではないな」
しみじみとトミオはつぶやき、作れるかどうか試すためユウジはカレンに粘土を要求していた。
「絵でしかトナカイって見た事ないから、違うのはわかっていてもなおせなかったの」
作ってくれる事を期待していたようで、カレンは直ぐに粘土を出す。
飛ぶソリを引いていた光る奇妙な物体は、異世界人たちにとっても失敗作らしい。埴輪の馬は前に見たから、トナカイには角と光る鼻が重要なようだ。
おそらく、飛ぶのも大事だろう。エイコは。
クリスマスはプレゼントが重要で、子どもにはサンタクロースからプレゼントがあり、サンタクロースは空を飛ぶ。いや、空を飛ぶのはトナカイという存在か。
ここには成人済みの人しか住んでいないのに、子どもにプレゼントを与えるサンタクロースを模倣するほど大事らしい。
そして、恋人用に友人用に家族用と、関係性別に行う事が違う祭事。いくら話を聞いてもわからないと、クリフは恋人用はコータを見本に模倣して準備する。
翌日の友人用は、エイコ以外の人もいるから、周囲を見ながら真似をすればいい。何か失敗があった時に誤魔化す用に食べ物を余るほど作っておくとしよう。
美味しい食べ物があれば、エイコはそれだけでにこにこと笑ってくれる。
そういうところはとってもいい子。
クリスマスを理解する事より、クリスマス料理や菓子を覚える事にクリフは尽力した。
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