第98話

 エイコは自らの欲望に正直に行動する。


「作りたい物の模型があるのですが、出してもいいですか?」


 いきなり収納アイテムから物を出すと、暗殺を疑われる。クリフの話をちゃんと覚えていたエイコは許可を取ってから取り出した。


 模型の飛空船や気球を、いくつもぷかぷかと浮かばせる。浮いていることに驚いている人もいるが、反応のない人も多い。

 手で持てるくらいだし、これはオモチャだ。


「これの人が乗れる大きさの物を作りたい。どこなら作っていい?」

「作らないという選択は?」

「国を出ろってことかしら?」


 雪の中の移動は大変そうだから、移動するとなると急ぎになる。たぶん、南の隣国へ移動するよりは、北の管理されていない未開の地の方が近い。


「レシピとスキルがあるなら、作らなくてはならないでしょう?」


 人がいない地へ移動した方が、規制がなくて楽かも。どうせ雪で家に閉じこもるなら、未開の地で閉じこもるのも大差なさそう。

 これは、使い道が微妙だったキャンピングカーの出番だ。


「場所は用意させましょう」


 申請するための人も出してくれるらしい。きっと監視のためだが、申請手続きなんて面倒なことをしてくれるなら、監視でもスパイでもどうだってよかった。

 作るのを邪魔されないかぎり、エイコは寛容でいられる。


 いつどこで作っていいかが決まったら知らせてくれるそうで、そういう調整事にエイコは面倒そうだから参加しない。作れる部分だけ作って待っていればいいだろう。

 そして、待ちきれなくなったら未開の地へ。今のところ、そうなる前に準備を整えてくれそうではある。


 順調に作れたなら、春には赤雲白岩渓谷ダンジョンで、素材を集めなくてはいけないかもしれない。

 もう素材回収方法は確立しているから難しい事ではなく、単なる作業。単調な作業はあきるが、嫌にならないようにガチャが刺激を与えてくれるだろう。


 にこやかにお茶会は終わったが、相互理解にいたれた気はしない。今後も無害だとエイコはアピールを続けなくてはならないだろう。

 お酒とポーションセットで、懐柔できればいいがそれも難しくそうだった。


 家の中や庭で作れる大きさな物を作り、場所が用意されるまで待つことにする。待っている間に、お酒の注文をされた。

 食材に余裕がある物なら作るが、食料を備蓄しないといけない冬前に優しくない。その分料金を上乗せしてくれるらしいが、料金の上乗せより食材を出してくれる方が負担は少なくて済む。


 まだ移動できるし、家の中ばかりも飽きるから、食材調達がてらエイコはダンジョンへ行くことにする。

 誘えば、メイとカレンも来たが、クリフは忙しいそうで来てくれない。


 一緒に行く相手がアオイだけなら近くのダンジョンを日帰りにするが、一緒に行く相手がいるので少し遠い所にする。

 職業関連の素材が出やすいダンジョンらしく、冬の引きこもり期間中に使う素材をメイとカレンは手に入れたいそうだ。


 相性の悪いダンジョンなら、一泊二日。相性が良ければ、満足する素材が集まるまでの予定でダンジョンに向かう。

 移動にはクリフが獣車を用意してくれたが、たぶん監視のための人。獣車二台に、運用する人が五人は多すぎ。ダンジョンの中までついてくるのだろうと予想はできた。


 面談な手続き関連をやってもらえるのはいいが、常に張り付かれているのは鬱陶しい。おそらく、こちらに気づかせないで監視もできるのに。隠す努力皆無なのが手抜きすぎだ。


「扱いが雑じゃない?」


 作ってもらったアップルパイ的な物を食べながら、カウンター越しにクリフに苦情を入れる。


「獣車を用意しないと、ガーゴイルで移動するだろ?」


 獣車が二台なのは男用と女用という意味もあるが、移動中の監視者の心労軽減のためでもあるらしい。

 女の子三人で使えば、移動中何をしていても大丈夫だと爽やかな笑顔で告げる。他の視線があるときは手加減必須と言われたが、何のことかわからない。


 移動中にメイに聞けば教えてくれるだろう。

 不満顔のエイコにクリフは保存容器に入れたお菓子を渡す。


「ダンジョンで食べられるように多めに作ったから」

「ありがとう」


 いそいそとエイコは保存容器を腕輪に収納する。お菓子を食べいる間に、ダンジョンに持っていける食事も作ってくれるそうで、エイコは笑顔を取り戻す。


「長引いた時のために、多めに作っておくからね」


 余ったら家に帰ってきてから、クリフのいない時に食べてもいい。初期に作った物より、長く保存できるようになった容器をクリフに渡す。


「こっちに入れて」

「あー、エイコはまだスキル成長中か。新しく作った方が性能がいいんだね」


 ちょっと遠い目をしてから、気を取り直し、クリフは料理に勤しむ。


「僕は何も考えないで料理している時間が好きだと、最近気づいたよ」


 ご飯もおやつも足りないよりは余るくらいの方がいいと、クリフたくさん作ってくれた。そのおかげか、一泊二日どころではなくダンジョンに長いする事になる。


 行った先のダンジョンが草原フィールドで、エイコはここで組み立てればいいかと思ってしまった。

 ガチャ目当てでメイもカレンも長居することに反対しなかったし、長く滞在する。


 少々大きくても空に浮かせるのは問題なかった。考えなくてはいけなかったのが空にいる魔物対策。形状としては好きではないが、虫型ゴーレムは空を飛べる。

 鳥型より特化した機能もつけやすく、優秀なのたが、エイコは虫は嫌いだ。

 トンボ型と蜂型を作りはしたが、背中側からしか見たくない。コスト的にも虫型は優秀で、妥協する。


 虫型を避けると鳥や竜になるが、鳥は虫型ほど特化させられないし、竜型は万能タイプの機能になるので製造コストが高い。どっちも少しは作ってみたが、常時使用で、数がいるとなると虫型を選ぶしかなかった。


 せめてもの抵抗として、カレンに可愛らしくデフォルメしてもらう。


「蜘蛛と蛇もデフォルメして」


 リアルな形状はどれも好きになれないが、機能特化させると使い勝手がいい。メンテナンスの度に嫌にならないように、許容できる造形の物を作ってもらった。


「こういうの、ユウジさんの方が向いてるよ」

「あの人はリアルなの作りそうで嫌。なるべく可愛くしてほしいの!」


 リアルから極力遠ざかったゆるキャラみたいなのって、頼めばどうにかなるかもしれない。


「ガーゴイルのときみたいに平べったくしちゃえば? あそこまで形変えて大丈夫なら、板にそれっぽい模様つけとけばいいんじゃない?」


 メイの助言により、平べったいゴーレムを作ることにする。円盤にちょっとした突起をつけて、模様をつければゴーレムとして機能した。

 メンテナンスの度に嫌悪感は持たなくてすむし、ちょっとの変更で機能特化させて作れるのがいい。


 少し大きめで、出力を上げて作ればガーゴイル同様に移動でも使えそう。そっちはダンジョンじゃなくても実験できるから、運用実験は後にした。


 ここのダンジョンにはあまり空中戦のできるモンスターはいないので、仮想敵としてアオイに協力してもらう。アオイにケガさせたくはないから、攻撃実験はやらないし、壊されたら嫌だから飛行実験ばかりだ。


 飛空船もゴーレムも、空を飛ばすだけなら問題ないと思える。あとは運用しながら確かめるしかない。アオイがいれば空中戦でもどうにかなりそうだが、アオイに頼りきりという状況にはしておきたくなかった。


 飛空船もゴーレムも魔力供給すればずっと飛ばせるが、アオイには睡眠がいる。長期運用を考えるなら、アオイがいなくても対応できるようにしておきたかった。

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