第94話

 クリフは薬の事にはまったく触れないで、今後の予定の話をする。 

 ケガの原因は徘徊ボスが出たからだそうで、クリフはそっちの討伐に参加するらしい。ケガした人とクリフの担当場所を入れ替えるが、ケガしたく人はもうダンジョン探索は無理そうなので、実質エイコとコータだけになる。


「わたしも五一層より先に進みたいって言ったら可能?」

「理由は?」

「五〇層までならゴーレムと人形に任せられる。深い層の方が採取した物の質がいい」


 四〇層前半と後半でも採取物の質が違う。どうせなら、より良い物が欲しい。


「自力で攻略できるなら、止めないよ。到達できる人が増えるのは歓迎だ」

「なら、行く」


 エイコが五一層に到着したら、ヤフナスたちはダンジョンで二日待機。その間にエイコが問題なく五一層以降の間引きができるなら、彼らの仕事は終了になる。

 もともとやらなくていいならダンジョンに来ない人たちだ。今は、ゲカ人を出したばかりで、仕事が終わるのは歓迎らしい。




 赤雲白岩渓谷ダンジョンの間引き期間は約二ヶ月に及び、エイコはその間にダンジョンボス討伐を果たす。討伐したからこそより強く、空へ飛び立たないといけないと実感した。


 渓谷の合間を行くより、空を飛んでいけば圧倒的に攻略難易度が下がる。そして、ずっと討伐されることのなかったダンジョンボスは全長三〇メートルくらいの石像で、一〇階建てのマンションが棍棒を振り回しているような物だった。

 このダンジョンボスの弱点が頭部と胸部。弱点範囲が広く二つもある点を思えば、戦闘職専用ダンジョンに比べれば難易度が下がるらしい。

 しかし、ほとんどの生産職の人は数メートル上空でさえ攻撃手段がない。


 板状ゴーレムで、棍棒の届かない上空から魔術を打ち込めばほぼ頭か胸に当たる。それに気づいてしまえば、ダンジョンボスは脅威ではなく、討伐という作業に変わってしまう。

 倒せば金メダル確定。ダンジョンのモンスターとしてはかなり珍しく、討伐後も身体が消えないため素材が回収できる。そしてこの石材こそが一/一〇〇〇〇レシピの必要素材だった。


 長らく討伐されていなかったため、このダンジョンボスはポップ待ちする必要がない。エイコはクリフとコータに素材回収を手伝ってもらう事にする。

 コータは魔術スキルがあるのでそれで対応し、クリフは収納アイテムでゴーレムを運び頭上から落とす。クリフの狙いは悪くないし、多少であればゴーレムが軌道修正してくれる。

 棍棒で叩き落とされなければ、討伐できてしまいクリフは死んだ目をしていた。


「今までの苦労はなんだったんだろうな」


 六一層超えてからの移動困難さに泣かされ、ダンジョンボスを前にして絶望を味わい撤退するしかなかった日々をクリフが吐露する。

 コータは根気よく話を聞いたが、エイコは回収された素材に夢中だ。


「ああいう子だから、ダンジョンも攻略できたわけで、嫌わないでやって、な?」

「仕事の功績としてはいいから、なんか好きそうな物作るよ。うん」


 クリフがおやつに作ってくれたガトーショコラを、エイコはにこにこと食べる。


「ここのダンジョン楽しいね」


 そんな発言でエイコは、ダンジョンに派遣されて来ていた冒険者ギルド職員や騎士団所属の者をドン引きさせた。


「そろそろ冬籠の準備が必要だから」


 そんな言葉でクリフはエイコをダンジョンから引き離す。春のモンスターの間引きは、エイコ一人でいいのではと、言われてしまう。

 それもありかなと内心思いつつ、承諾はしない。その頃、他に興味のある物がなければやるが、同じダンジョンばかりではなく、他のダンジョンにも行きたかった。


 食事を作るのがクリフで、風呂とトイレを作ってしまえば、長期間家に帰らなくても平気だと判明もした。エイコとしては収穫の多い依頼となったが、同行者たちの疲労は濃い。


 帰路の獣車で揺られ、揺れが嫌になったので絨毯を出し、作業スペースを確保する。行きと違って帰りは空間に余裕があった。


「空を飛ぶ物といったら、何かしら? 城? クジラ?」


 エイコのつぶやきに嫌そうにコータが答える。


「雲とか、飛行機とか、もっと無難な物があるだろ?」

「ここ異世界だよ。もっと夢のある物考えてよ。ドローンは夢があるかな?」

「ドローンはないだろ? ゲームなら飛空艇とか移動要塞とかあるけどな」

「あぁ、飛空艇いいね、移動要塞と城って別物?」

「似たようなもんだろ?」


 ダラダラと話しながらエイコはダンジョンで壊れたゴーレムや自動人形の修理をした。破棄するしかないほど壊れている物もあるが、直すより作った方が早いと放置されていた物も多い。

 家で全部は使えないほど数が増えてしまったので、収納アイテムにしまっておく。けれど、ゴーレムも自動人形も稼働させていれば経験を蓄積できる。

 死蔵させておくのは、もったいない。


 構想を練っているとラダバナに到着する。冒険者カードの確認は兵の方が獣車の中へ来てやってくれた。

 全員の手続きが終わると、獣車が動き出し、再び止まったのは冒険者ギルドの前だった。


 冒険者カードのランク変更があるそうで、手続きが終わるまで待つように言われる。コータがEランクで、エイコがDランク、クリフがCランクに変更になるそうだ。

 先に戻ったメイとカレンもEランクになっているらしい。


 ダンジョンの間引きに参加していると功績ポイントが貯まりやすいそうで、本人の強さに問題がない範囲まではランクが上がりやすくなっている。

 強さだけなら、赤雲白岩渓谷のダンジョンボス討伐でAランクまで上がれるそうだ。足りていないのは冒険者ギルドに対する信用と功績。どちらも長く属して問題を起こさなければ得られる。


 コータは気が向けばランク上げするつもりらしいが、エイコは興味がない。むしろ、ランクが上がると求められる協力が増えるので、もう上げなくてもいいとすら思っていた。


「僕、騎士団の方に行かないといけないから、家にいつ戻れるかわかりません」


 早ければ夕方には戻るが、数日かかるかもししれない。


「アオイ、ごはん食べないでも、寝てないでもいいから、困ったら呼びに来いよ」


 もうクリフはエイコに注意なんて無駄な事はしなかった。


『焼きおにぎりとみそ汁とピザは覚えた』

「うん、上手にできるようになったな。家に帰ったらユウジに教えてもらえ」


 カードができるより先に、今回の指名依頼の報酬計算が先に終わった。

 指名依頼だったので、ランクにあわせて日当がある。それからモンスターの討伐数に応じた出来高報酬があり、上限は一万体まで一体一〇〇エルでそれ以上はない。

 討伐数として数えられる銅メダルの数が一〇万枚超えのエイコからすると、一体一〇エル以下で間引いたことなる。


 報酬としてはかなり渋いのが、間引き指名依頼だ。それを補うようにメダルは数えるだけで、冒険者ギルドが取り上げることはない。

 エイコは利用しなかったが、ガチャで出した物はその場で買取もしていた。報酬の一部扱いなので、何であろうと買取拒否はしない。


 間引き対象ダンジョンから買い取られて送られてくる物が、これからくる冬を越えるのに必要な物質となっていた。それはラダバナだけではなく、周辺地域にも必要ない物で、仮にモンスターがダンジョンから吐き出されなくても同じような行動をすることになるだろう。


 実際、間引きノルマを達成した冒険者向けに、食料品や暖房に使える物が出やすいダンジョンに多くの依頼が出ていた。

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