第92話
現在ともにダンジョン攻略中の二パーティーと、冒険者ギルドと、ラダバナ常駐騎士団と魔導具も使って情報を交換し、クリフ今後の予定を調整する。
決定事項となった予定を赤雲白岩渓谷ダンジョンで最後に聞いたのが、異世界人組だった。
間引きの終了している四〇層まで全員で移動し、まず転移魔法陣を使えるようにする。クリフは転移魔法陣を使えるが、最短移動させるために引率してくれるそうだ。
赤雲対策にみんな耐性アイテム盛り盛り装備になっている。
無事魔法陣の登録が終わると、誰がどこの層を攻略するか決めていく。
「彼女が癒し系じゃなくて疲労系なんだよな」
「サイキはその何もしなければ癒し系に見えない事もない女から、癒やしてくれる胸の持ち主に乗り換えたのね」
エイコはクリフが自動人形とアオイに教えて作ったピザにかぶりついたところで、メイとコータの話に参加するには口がいっぱいだった。
「イヌイさん? 何かございましたでしょうか?」
「ないわ。ダンジョンに来てから、一月以上彼氏に会えてないってだけよ」
「メイとカレンは一週間くらいラダバナに戻って休んできて。間引きの終わった頃にはもう一回来てもらって魔法陣登録だけはしてほしいが」
丸太のイスに座り、味を犠牲にした疲労回復バフ付きの手のひらサイズのバーをかじっていた男は痩せてきていた。
「特にメイは、ここのダンジョンにいるのがとばっちりだしな」
カレンとコータはもう撤退したが、戦闘系スキル持ちの冒険者たちに合わせたかったらしい。二人とも彼らに誘われていたので、今後は一緒に活動することもあるだろう。
「エイコはなんか思ったのと違うが、ゴーレムを使えるから決定だったが」
ヤフナスに合わせて、できれば後任に育てたかったそうだ。
「メイだけよそのダンジョンに行かせるよりは、仮のパーティーとして一緒の場所の方がマシかと思ってな」
安全には留意しているが、モンスターの間引きは危険度が高い。もともと難易度が高くて生産職に嫌厭されているダンジョンがより危険な状態になっており、よそのダンジョンでは今年もすでに死者が出ている。
臨時パーティーで、相性が悪いと悲惨で、死者や重傷者の交代の臨時加入も精神的にきつい。
新人ソロだと扱いがどうなるかわからない。が、今ほど長時間拘束されることはなく、ランクに応じたメダル納品はメイもカレンすでに終わっている。
「レシピファイルが集まったら休ませてもらうわ」
メイもカレンも必要数まであと少し。数日中には集め終わる予定だ。
「ダンジョンの外に出るなら通信実験よろしく」
ダンジョンの中と外では連絡が取れないのはすでに実験済み。ダンジョン内同士だとエイコが攻略している範囲と通信可能範囲が同じになっている。
レシピが集中して出た一/七〇〇〇レシピファイルは、集めて見ると通信端末と通信基地局が作れた。
スマートホンはムリだが、そのうちガラケーのある生活くらいはできるかもしれない。通信端末の機能を上げるには一/一〇〇〇レシピファイルを集めてバージョンアップをする必要はある。
最初、文字のやり取りしかできなかった物がバージョンアップで音声のやりとりができるようになった。
家に基地局を設置して、どのくらいの範囲でやりとりできるか調べてもらう予定。通信端末はトミオたちの分も用意しているので、細かく調べてくれるだろう。
ゴーレムと自動人形が供給してくれるメダルのおかげで、一/一〇〇〇〇レシピファイルもすでに覚えたあとだ。ただ、ここのガチャ、分母が千をこえるレシピが次から次に出るため、かなかな全部集めたという状態にならない。
必要になるレシピが多いと作るのに必要な素材も多く、材料を集めるのも大変だ。
レシピ別に収納アイテムを用意して、エイコは材料を溜め込んでいる。集めても集めても足りないと、ガチャの前で騒いでいたら、蒸留酒一本でよい情報をやると言われた。ヤフナスにお酒を捧げると、生産職専用ダンジョンは星六つを超えると採取できる場所を有していることがある。
赤雲白岩渓谷だと、四〇層を過ぎたあたりからポツポツとあるらしい。
鑑定と目利きを使い、クリフとコータに手伝ってもらって採取場所を探した。四四層で発見し、採取用自動人形二体と、回収用のゴーレムを交代て運用するために二体配置する。
取り尽くすと採取場所が変更になるようなので、鑑定できる人形の大量配置が必要だ。
家に帰ったカレンに、ダンジョンの外へ出てから通信端末で、埴輪と土偶の発注をかける。
「どっちも最低一〇〇。多ければ多いほどいい」
「はぁ、これネタじゃないの?」
「藁人人形より、そっちが丈夫なはず」
五日後、二〇〇体ずつ持ってきたカレンは優秀だと思う。半分くらいは耐性がついた物もあるので、がんばってくれたようだ。
「これで使えるのよね?」
「うん。ありがとう」
埴輪はゴーレムで土偶は自動人形になる。何が違うのか謎だが、使えるなら問題ない。
「オトナシ、お前は彼氏を労れよ」
「彼女にお弁当もらって、マウント取りにきたの?」
確実に自分で作るより不味いお弁当を用意されて、喜ぶものなのだろうか。問い詰めれば、コータは視線をそらした。
エイコは錬金術で作り、材料があれば失敗しないドライフルーツとミルクティーをクリフのために用意する。アオイも欲しがるので作ってあげた。
「どうぞ」
「ありがとう」
困ったようにクリフが笑う。
「今年はこれでも余裕がある方なんだ」
例年なら時間経過で、赤雲白岩渓谷ダンジョンに集めらる冒険者は徐々に増えていく。それが逆に減らせたのだから、他のダンジョンも余裕ができた。
ヤフナスたちにしても、ダンジョンボスには挑まない。ボスを倒すのが間引きには効率がいいらしいが、倒せないそうだ。
ダンジョンの攻略も六〇層までで、それより奥には行かない。直接必要な階層で間引きできるならしたほうがいいが、それをすれば死者が出る。
長年このダンジョンと付き合ってきたベテラン冒険者は、六一層とダンジョンボスのいる六二層にはもう立ち入らないそうだ。冒険者ギルドも騎士団も攻略を強制する事もない。
それだけの血が流れたから、どれだけ効率が悪くても、六〇層までて間引きする。それがここのダンジョンの習慣になっていた。
手に入るレシピと素材から、エイコは思うことがある。けれど、それを試すために死地へ行けとも、行くとも言えない。
三桁に到達した藁人形。その半数以上を壊されながら、四四層をくまなく調べてた。
地上付近の採取場所は一ヶ所しかない。取り尽くせばまた、その一ヶ所を探さなくてはいけないが、崖の上の方は採取場所が複数あった。
そして、崖の上は薬草や花、卵が採取できる。そこで、相手にしなくてはいけないモンスターは蛇と鳥。赤雲は立ち止まっていると寄ってくるのは谷底の道と同じだった。
明らかに崖の上を通った方が攻略しやすくなっている。
「人は空を飛ぶべきか」
「新しいガーゴイルの話?」
「そうね、まず鳥型モンスターからガーゴイルで制空権を得ないとダメよね」
「何? また何かやらかすのか?」
両肩をがっしりとつかんで、クリフが見つめてくる。
「空には
クリフに複雑な顔をされた。なんとか表情を取り繕い、口を動かそうとしたところで周囲が騒がしくなる。
転移魔法陣で戻ってきた集団は、血まみれの人を連れていた。
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