第91話
人の事より我が事。
そんな言葉に要約されるようなブーメランの応酬をする二人。そんな二人を横目に、クリフはアオイにせがまれて、エイコのための料理を作る。
魚料理と塩おむすび以外のおにぎりをアオイは要望した。
「ここは勇者らしく、オレがハーレムを作るべきか?」
「「ない」」
軽い冗談のつもりが、エイコとメイのガチ拒否にコータはへこむ。
「わたしは、ありです」
カレンの言葉が、不毛な喧嘩に終止符を打った。
「元借金奴隷って、信用度低いの。借金奴隷になるのは実家が貧乏か本人がやらかしたかのどっちかだがら、家同士の結婚とか地縁目的の人には拒否される」
愛人待遇で最良の結果らしい。関わりがあることすら迷惑という態度の人もいるそうだ。
カレンが自ら元奴隷なんて自己紹介していないのに、いつの間にか知られている事が多い。
「価値観も同郷の方がストレスなくてすむし、トミオさんとユウジさんは精神年齢的にハードル高いし、ショウさんとサイキくんならサイキくんかな」
「胸部装甲はサイキの趣味よね」
「ハーレム発言も言っただけぽいか」
女三人の視線にさらされ、コータはたじろぐ。
「サイキくん、元奴隷の女はイヤ?」
コータが返事をないうちに、カレンは言葉を重ねる。
「わたしを買ったのはエイコたがら、女としては新品だよ」
カレンが一歩距離を縮める。
「サイキくんなら、ウソかどうかわかるでしょ」
エイコとメイはこそこそと話す。
「ウソはなくても計算はあるわ」
「ウソと腹黒いのも別だと思う」
邪魔すると危険と判断した二人は、クリフにおやつをもらいに行く。
今日のおやつは焼き煎餅と揚げ煎餅。クリフがエイコに会う前から持っていたガチャで得たレシピであり、味の変化はトミオたちから聞いて増やした。
「お付き合い始めそうね」
「イチャつくならテントの外にしてほしい」
ここはエイコの休憩所だ。イチャつくために居座られたくない。
「ガチャでカカオ出てるから、家に帰ってからでいいから、ココアとチョコレートにして」
「わかった。そういえば、メイド服どうなった?」
「色違いで三枚作ってるわよ」
「助かります」
パリポリ煎餅を食べながら、エイコとメイはケンカの終了を確認しあった。互いに謝罪はしないけど、感謝は伝える。
「アレはアレでもう仕方がないから、新しい人形に着せるわ」
「ある意味モンスター料理しているよね。なんかこう、殺戮人形みたいだけど」
「アレ以外は指示通りメダル拾いしてくれているのよ?」
同一条件、同一工程で作られても、規格外品という物はできてしまうものだ。できてしまった物は仕方ない。それに合わせた運用をするだけだ。
「睡眠不足で、食事に不満を覚えていた頃に作ったのよね? アレ」
あー、あー、あー聞こえない。
「僕は、お腹すいたくらい自発的に声かけて欲しかったな。幼児でもごはんくらい主張してくれるよ?」
クリフは悲しそうな顔を作る。
「僕は、その程度の事を言ってもらえない男なのか?」
「い、今、甘えてます」
「今回はクリフさんが悪いよ」
めずらしくメイが味方をしてくれる。
「甘やかして、ダメな子に育てたのに、目を離したらやらかすに決まっているじゃない」
味方って、なんだろう。
「食事は用意されているから、大丈夫だと思ったんだよ」
「エイコは料理下手っていうより、舌が贅沢なのよ。腕と舌が要求する合格点が乖離しているから自炊できないの」
ここで提供される料理は不味くはないが、満足感はない。そのせいで、食べるのが面倒に感じてしまった。
メイによると、エイコの料理は料理スキルがない冒険者上がりの戦闘職の人が始めた店と同レベルらしい。
「甘やかして堕落させたんだから、手を離すなら、自立させてからにして下さい」
「わかった。アオイと人形を育てるよ」
「えっ、わたしは捨てられるの?」
クリフが真面目な顔をして告げる。
「冬場に遠出の仕事になると、数日では帰ってはこれない」
吹雪かれると移動不可能になるそうだ。
「ここ以外も気になっているダンジョンがあるから、そっちに移動するかもしれない。でも、エイコはメダル集めないといけないから、ここから動けないだろ?」
それで焦っていたのもあり、攻略を優先したそうだ。
「どうにもならなかったら、専属で料理できる人を呼びます」
「あっ、クリフさん。待って、移動してもらうなら、三一層から任せた人たちにしましょう」
将来尻に敷かれると思われるほどカレン押されていたコータが、こっちに逃げて来た。
「三〇層以下までは、エイコのゴーレムとアオイに任せればいいんですよ。戦力が足りないなら作ればいい」
「コータ。お前、職業為政者系だろ?」
「おかげで召喚された国では邪魔者扱いですよ。無理矢理喚んどいて、ひどいですよね」
戦勝の褒美に土地をあげても、勇者ではあつかいきれない。土地の管理者に都合のいい人を用意すれば、好きにできると思っていたところに、土地管理のできるスキル持ち。
「職業、国王っていうのもあるからな。そういうのは見つかると殺されやすい。追放で済んだのはいい方だ」
「そこは理解しているので、地位を求めるつもりないですよ」
クリフは見極めるようにコータを見る。
「彼らを動かす理由は?」
「ここのダンジョンが向いていないからですよ。ここのダンジョン、攻略にゴーレムがいるんじゃないですか?」
「どうしてそう思う?」
「冒険者としての強さならCランクパーティーの方が上です。Bランクパーティーの方はここのダンジョンの指名依頼だけで長い期間をかけてランクを上げたと言っていましたから」
彼らでなくてはならない理由があり、彼ら以外のパーティーは毎回同じダンジョンに呼ばれてはいない。
「おそらく、ここのダンジョン特化の彼らが一番気にしているのかエイコだ。最初は酒狙いだと思ってたんですが、彼らが冒険者を引退するには後任がいる。その条件に合うのがオトナシだと考えたら、必要なのはゴーレムかなと」
パチパチパチとクリフは手を叩いた。
「赤い雲に人が触れると、なんらかの異常がでる。毒や眠気、麻痺が比較的出やすい。それから、岩のモンスターが爆発するようになるな」
「全部、オトナシなら対応できますね」
万能薬と耐性アイテムがあればよさそう。どっちも作れるし、生産職で盾役ができる人なんてほぼいない。爆発に対処するにはゴーレムが良いのだろう。
アオイに預ける料理を作り終わると、クリフはテントから出て行く。
「話し合いしてくるから、ダンジョン攻略に行かないで待ってて」
ガチャはやっていいそうなので、自動人形がメダルを拾い、貯金箱のようにメダルを貯め込んだゴーレムが戻って来るのを待つ。
満足のいく食事を得たせいか、ぼんやりしていた頭がしっかり動き出す。エイコは一〇層まで攻略だけなら終えていた。
各層にゴーレムと自動人形を配置して、現在はモンスターの間引きをしつつメダル集めに勤しんでいる。
ゴーレムや自動人形に異常がないか見回りはアオイがやっており、エイコは作るか、ガチャるか、修理に出向くかぐらいしかやっていない。
ぼんやりした状態でもケガなくいられたのは、モンスターの相手をしていないから。
栄養と休養は大事。大事だからこそ自動人形を作りましょう。きっと、メイド服を着れれば、ゴーレムに騎乗して暴れ回るなんてしないはず。
エイコが元気を取り戻していた頃、クリフは疲労を溜め込んでいた。
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