第90話

 初日にお酒を飲んだ錬金術師は、授業料お酒で、ゴーレムの使い方を教えると言い出した。おそらく、きっと、貴重な機会になる。

 蒸留酒一本で一刻二時間、授業を受けることにした。


 ゴーレムはロボットらしい。ロケットパンチからの、爆発。モンスターに抱きついてからの自爆と、爆発兵器のようだ。

 爆発させるゴーレムは素材を安い物で作るそうで、砂利混じりの土をお勧めされる。制御しなくてはいけない動作も少なくて済むので、魔石の質も最低の物でいいそうだ。


 今まで作ったゴーレムを爆破するのは嫌なので、爆破させるならそれ用に作らなくてはいけない。けれど、人型の物が爆破されるのは感覚的になんかイヤ。

 嫌な気分にならない物に変更したい。


『主、爆破させなくてもブレスあるから』


 そんな物はいらないと、アオイは主張する。


『モンスターさえ集めてもらえればいい』


 そうすると、モンスタートレインできるゴーレムを増やせばいいのか。悩みながらガチャをしていたら、藁が出た。

 ゴーレムをやめて藁人形にしよう。そんな事を考えていたら、なぜか案山子かかしのレシピが出た。


 これは案山子を作れという思し召しだろう。案山子はゴーレムの核ではなく、自動人形の核が使えるみたいだし、自動人形の実験をもやってしまおう。

 さっそく作っていれば、待ち時間にアオイがメダル集めに行ってくれる。


 ガチャして、作って、ダンジョン攻略して、疲れたら寝た。ご飯は全員向けに用意された時に食べているので、一日の感覚がなくなり、外にも出ないので、明るさの変わらないダンジョンにいると昼か夜かわからなくなる。

 どうもみんな、寝たい時に寝るし、作りたい時に作っていた。いつでも寝ている人か、物作りしている人がいるので、余計に昼夜の感覚がない。


 エイコは現在七層を攻略しており、五層攻略に二日と半日かかったので、ダンジョンに来てそろそろ一週間は経っていそうだ。

 たまにメイやカレンとは食事で一緒になるが、クリフと一緒にいた記憶がない。


 米は炊ける。塩おむすびまでなら、自力でどうにかなるが、エイコは焼きおにぎりが好きだった。

 肉料理ばかりで飽きてもおり、魚が食べたい。みそ汁欲しい。肉ならせめて照り焼きにしてくれと、切実に願う。


 クリフはいない。が、冷凍庫にはさばいてもらった魚がある。素材だけなら、エイコの欲求を満たせる物が存在してた。


 元の世界で、エイコはロミオの名を呼ぶジュリエットが理解できなかったが、今なら理解できそうな気がする。エイコは今、この場にいなくてもクリフの名前を呼びたい気持ちでいっぱいだった。

 ロミオとジュリエットの再会に必要なのは薬か。なんて事つらつら考えながらガチャをしていたら一/三〇〇レシピファイルが出た。


 その程度なら、そのうち集まる。気にせずにガチャを続け、そろそろメダルがなくなる頃、アオイが戻って来た。


「アオイ、料理できる?」

『主、自動人形に覚えさせるのではなかったのですか?』


 案山子とか、藁人形とか、違うものを作りすぎていて忘れていた。


「服がなくて作りかけになっていたわ」

『主が作れる服を着せて、まず完成させよう』


 服なら着替えさせればいいとアオイに言われ、エイコは騎獣服ならレシピを覚えていた事に思い至る。


『主、そろそろ寝よ。食事しないなら寝て下さい』


 ガチャが終わると、アオイがそんな事を言ってきた。デーブルに並ぶ料理を見て興味のひかれなかったエイコは寝る事にする。

 そういえば、最近いつ寝たのだろう。さきほど寝だばかりではなかっただろうか。


 簡易住居のテントを出し、テントの中を暗くして横になればすぐに眠りに落ちる。




 起きるとクリフがいて、みそ汁を作っていた。よそわれたみそ汁の具に白身魚がはいっている。

 食べている間に焼きおにぎりも作ってくれたらしく、お皿に二つ並べてくれた。


「ごちそうさま」


 エイコが食事を終えるまで、クリフはずっと黙っていた。食事が終わるのに合わせてメイとカレンとコータがテント入って来る。どうやらアオイが呼んだらしく、最後にアオイが入って来た。


「エイコ、問題です。今日はいつでしょう?」


 いつ?


「エイコは今、ダンジョンの何層を攻略していますか?」


 どこ?


「寝る前、最後に食事した物は?」


 こばん?


 エイコは何一つ、答えられないままいた。クリフが大きなため息をつく。


「質問を変えます。あの人形は何?」

「料理人形」

「ロミジュリ薬って、何?」

「仮死になるかもしれない薬」


 一/三〇〇レシピを集めると、そんな名前の薬のレシピになった。


「コータ」

「ウソはないです。ないからこそ、何でロミジュリ薬なのか疑問だ」

「えっ、最近クリフとすれ違ってるなって、思っている頃に出たレシピで、バルコニーはないから崖の上でわたしも、おぉクリフって嘆けばいいのかなと、思っていたような?」

「エイコとクリフにロミジュリ要素はないわよ」


 メイが図々しいとばかりに否定し、カレンも同意する。


「うん。エイコまず実家がないもの」

「お付き合いに反対している人もいないよな?」

「それはヘンに盛り上がったら困るからみんな見守っているだけよ」

「トミオさんたちはそういう感じなんだ」


 同郷三人はエイコに、ジュリエット要素はないと否定する。


「ロミジュリってなんなんだ?」

「故郷の有名な恋愛物語」

「仲の悪い両家の息子と娘が駆け落ちしようとする話」

「その物語のどこに薬か出てくるんだ?」


 クリフの問いにコータが答える。


「たしか、家から抜け出すために仮死状態になる薬を飲むんだよ」

「へー、そんな物語の事を考えて出るのが仮死になるかもしれない薬ね。ガチャがエイコに甘いな」


 クリフは作り笑顔でエイコに薬の現物を要求する。


「鑑定しても、ふざけた名前のままか。効果は毒でなないと出ているが、君らはどうだ?」

「オレは飲めたら死なないです」

「わたしは飲み薬」

「上質な薬。珍しい」


『主は?』


「効果、急死に一生を得るかも。使用条件、飲用可能な状態で、生命維持に必要な肉体があること」

「ギャンブル感が上がったわね」

「使用条件が血生臭そう」


 同級生の女二人は、残念な物を見る視線を向けてきた。もしかして、これが彼氏のいない女の嫉妬。


「まあ、オトナシに悲劇のヒロインは向いてないよな。人魚姫より人魚姫に薬を渡す魔女向き」

「エイコが人魚姫なら王子助けなさそう」

「王子単独で海に落ちたらギリありかも、船ごとなら、船の荷物に意識が向いて王子に気づきそうにない」

「ひどい。恋人のいない人の僻み?」

「ない」


 メイに即答された。


「彼氏できたし」

「えっ、聞いてない」

「言ってなかったから。エイコの旅行中にできたの」


 そこからメイが惚気出す。

 アパートを出た頃から、冒険者ギルドの職員に言い寄られていたらしい。そんなにラダバナの町にはいないから、ちゃんとお断りしたし、そうそう会わないからメイは特に気にしていなかった。


 それが先月くらいに再開すると付き合いを強要して来たそうで、困っている所を助けてくれたのが現在の彼氏になっている人。お仕事は布を売っている店の店員だそうで、メイが染めた布も買い取ってくれている。


 先月の冒険者ギルド職員はポーション目的ではとか、その店員メイの布の独占契約狙ってないかなとか、疑うところはある。でも、真っ当な金額で布を買い取ってくれているなら、悪い関係ではない。

 地縁も商売実績もない人が商売を始めるのは難しく、人との縁ができるのは悪いことではなかった。


「真っ当な買取している人ならその内紹介して」

「うん。もともと入婿狙いで商家のお嬢さん狙いだったみたいなんだけど、わたしもあと少しがんばれば自力で店までそうだから、お店持ちたいって夢、わたしでもかなえてあげられそうなのよね」

「結婚詐欺? 将来夫婦になるんだからって相手の名義にしたらダメだよ」

「エイコに言われたくない!」


 ケンカになった。

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