第88話

 ダンジョンに到着したのを、エイコはアオイに起こされて知った。

 移動中に役割分担の話があったそうで、エイコは決定された事に従う。寝ていた人に拒否権がないと言うのもあるが、起きていたからと結果が変わりそうな内容でもなかった。


 詳しい事はアオイが聞いているそうで、とっても役立つ従魔にドライフルーツをあげる。

 二の腕や肩を甘噛みされると怖い。雛の時と違って歯も牙もある。服に穴もあけていないから、力加減はできているのだろう。

 冒険者用の防具でもある丈夫な服だから、穴があいてないだけとは思いたくない。


 クリフをリーダーにしたエイコたちの受け持ちは一層から三〇層。一層から五層が、メイとカレン。六層から一〇層がエイコとアオイ。コータが一一層から二〇層で、クリフが二一層から三〇層まで受け持つ予定になっている。

 三一層から攻略するのは生産職では珍しいCランクパーティーの人たちだ。クリフの間引きが速ければ、ここに手伝いに入る。

 五一層から攻略するのは、ラダバナ周辺では唯一生産職でBランクの人たち。普段はもう冒険者をやっていないが、モンスターの間引きの度に結成する事になる臨時パーティーで、熟練者集団なだけあり、平均年齢も高い。

 成人した子どもがいる人もおり、一〇代ばかり連れてきたクリフに、仕切りに大丈夫かと問いかけている。


「一層担当者は炎魔術持ちだ。攻撃の隙を埋めてくれる相手がいれば倒せないモンスターはいない」

「六層は従魔持ちか」

「崖の上と空飛ぶモンスターを先に対処してしまえばいい。対応できなかったら従魔にブレスで殲滅するか逃げろと教えてあえる」


 クリフの信用が、アオイに傾いている。ここは彼女のことをよく理解している彼氏と喜ぶべきが、彼氏の信用を無くしたと嘆くべきか。


 どっち?


 寝起きの頭じゃ決められなくて、悩む。


「一一層から任せたヤツは槍スキルと身体強化持ちだ」

「その組み合わせで生産職か」


 生産職として不遇ではあるが、ここに呼ばれたCランクパーティーの人はみんなそんな戦闘職よりのスキル持ちらしかった。

 稼ぎとしては職業スキルを使うより、冒険者をしている方がよい人たちらしい。


 戦闘職には生産職だからと拒否られ、生産職から不憫と憐れまれ、普段は肩身が狭いそうだ。

 ダンジョンの間引き対象選定のために調査の指名依頼も受けているそうで、生産職専用の高難易度ダンジョン関連では重宝されているらしい。


 ここのダンジョン。モンスターを倒すと倒した数だけガチャメダルを残す。モンスターの討伐状況を知るために、メダルを必ず拾うように注意される。


 クリフと異世界人組以外は転移魔法陣で、持ち場に移動した。エイコたちはみんなで一層に行く。

 まずはモンスターの間は引き初心者たちのために、クリフがモンスターを倒しすぐにリポップする状況を見せる。何回も倒しているとポップしなくなるので、メダルは出なくなってから拾うように説明していた。

 一層ならモンスタートレインしない限り、集団にはならないようで、確実に倒してから移動するように繰り返す。


 メイとカレンは今日一日一層で様子見をして、先の層には進まないそうだ。


 白い岩が壁のように連なり、谷間を作るこのダンジョンはその名が示すとおりに赤い雲が上空にある。

 一層に出てくるのは四つ足の獣ばかりで、二層からは崖の上部から蛇が落ちてくるそうだ。

 メイとカレンを残して、クリフの案内でエイコとコータは先に進む。三層で鳥がふえて、四層で地上にいる獣の数と種類が増えた。五層は四層と似た感じだったが、フロアボスがおり、大きな岩のモンスターが階段を守っている。


 六層はフロアボスの小型モンスターがおり、岩壁かと思ったらモンスターだったり、通り抜けた後、襲ってくるなんてことが発生した。

 そんな場所にエイコを置いてクリフとコータは先に言ってしまう。

 今日は先に進むより、五層と六層の間にある転移魔法陣近くで、いつでも戻れるように退路を確保して攻略するように言われた。


 ダンジョンでのエイコの移動は基本、板状ガーゴイル。どうにもならなくなったら上空に逃げて、鳥を中心に倒す。その間に地面いるモンスターをアオイにブレスで一掃して転移魔法陣で逃げろと言われている。

 午後からの攻略で、そんなことが三回起きており、アオイが一掃したあとメダルを拾ってガチャボックスのある広場に戻る。


 間引きの間、ダンジョンに常駐しているギルド職員にメダルを数えてもらってからガチャをした。

 カウントしてもらったメダルは使ってから攻略に戻るのが、間引き中の決まりになっている。すぐに戻りたい人はメダルを数えてもらわないそうだ。


 ガチャしながらおやつ休憩もしているので、長々と広場にいる。けれど、攻略に行っている人には戻ってこない。どうやらみんな順調らしい。


「一回ごとにメダルが一〇〇枚近くありますからね。いいペースですよ。ムリしたらダメですからね」


 メダルカウント係は励ますのも仕事らしい。にこにこと指でバツを作りダメですと繰り返した。

 モンスターの間引きは数日で終わるような物ではないから、焦らないようにも言われる。


 でも、エイコは一/一〇〇〇〇というレシピファイルを出してしまった。

 これから四回目の攻略に向かうわけですが、それが終わっても今のペースだと一〇〇に届くかどうかだろう。

 間引きが順調に進めばモンスターが減り、手に入るメダルが減る。 


 四回目を終えて戻ってくると、だいたいみんな戻ってきていた。メダルのカウントが終わった順にガチャしているそうで、待っている間に夜ご飯となる。


 ご飯準備や夜間の見張りは、一緒にきているギルド職員や騎士団所属の人が行う。クリフは冒険者枠での参加なので、ご飯準備に参加しないと知り、エイコはがっかりした。


 パンとおかずが数種類ずつあり、スープが二種類準備されている。自分で好きな物を持っていくセルフ形式で、食べる場所も決まっていない。

 仕事の話をしていそうなクリフは避けて、メイとカレンが座っているテーブルに行く。


「そっち、どんな感じ?」

「上から落ちてくる蛇が恐怖」

「蛇、いるんだ」


 メイが顔を引きつらせる。


「二層からいるよ。数少ないけど」


 すぐポップするので、倒しても倒してもいなくならないのがツラい。

 上から落ちて来るのを火の矢で打ち抜けば倒せるが倒したらまた降って来る。これは地面放置すべきかもと思ったが、アオイがブレス一層をしてしまうと、ボトボト落ちて来るようになる。


 一体ずつ倒した方がマシだと、エイコは結論を出した。見つけたらすぐにる。これが一番視界に入れなくてすむ。

 倒せばモンスターはみんなメダルだ。元の姿なんて気にならない。


 食事中に順番が来たようで、カレンがガチャに行く。


「メイ、服、作って欲しいんだけど」

「どんな?」

「等身大くらいの人形のメイド服」

「それはできるけど、エイコ人形まで作っちゃうんだ」

「カレンがはやく埴輪と土偶を作ってくれれば服はいらなくなるかもしれない」

「アレ、ネタじゃないの?」


 ネタのつもりで手に入れたが、使えるかもと気づいてからは作ってくれるのを待っている。


 そういえばメイにお土産を渡してなかった。お土産だと、レシピを三枚渡す。

 カレンと違って、メイはいきなり覚えるようなことはしなかった。作れるようになるのが三枚とも形の違う布鞄だと理解してから魔力を流す。


「ありがとう。まともな物でホッとした」


 カレンが戻って来ると、メイがガチャに向かった。

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