赤雲白岩渓谷ダンジョン 難易度⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

第87話

 冒険者ギルドからの指名依頼。招集は三日後で、メイとカレンも指名されている。クリフはそこにコータも混ぜ込む。

 クリフと異世界人たちパーティーとあと二つのパーティーで、一つダンジョンを受け持つ。

 ラダバナ周辺で、もっとと難易度の高い生産職専用ダンジョンは、毎回モンスターの間引き対象ダンジョンに選ばれている。なので、選ばれるパーティーはだいたいいつも同じ。今回は同僚ではなくクリフが異世界人とパーティーを組む事になるのが珍しいくらいだ。


 ほぼ強制に近いこの依頼。断ろうとすると、同意が得られるまで個室で長い説得をされるらしい。どうしても嫌なら、招集日当日に現場へ行ってからサボるしかないそうで、モンスターの間引きに関しては悪質な対応をすると、ギルドカード剥奪もあるそうだ。


 冒険者ギルドの存在意義にダンジョン管理がある以上、冒険者ギルドに所属するものはダンジョン管理に協力しなくてはならない。そんな冒険者ギルドの存在意義に抵触するので、処罰は厳しくなりやすいそうだ。


 そんな三日後のことより、家に帰りたい。お風呂にも入りたい。

 詳しい話は必要になったら、クリフが教えてくれるはず。自らの欲求を優先して冒険者ギルドを後にする。


 家に帰ったエイコは誰にもただいまとあいさつすることなく、風呂場に向かう。清潔魔術とは満足感が違うと、エイコはゆっくりとお風呂を満喫した。


 今日はもう寝ていいだろうか。まだ明るいが、昼寝からの翌朝でもいい。そんなことを思いながら、エイコの胸の前辺りで飛びながら甘えてくるアオイの首や顎辺りを指の背でなぜてやる。

 ノロノロとした歩みで玄関に向かえば、メイが仁王立ちしていた。


「風呂に入る前に説明していけ!」

「えっ、顔見たらメイもわかる相手でしょ?」

「わかるからダメなの」


 マナミがやらかした相手の周辺にいる人には、メイはマナミ一派に思われているらしい。


「オレは気にしないって言ったんだよ? この世界で得たスキルで、人間性はある程度わかるからさ。まあ、オレは直接的な被害者じゃないから、イヌイの罪悪感は減らしてやれないけどな」


 メイの背後からやってきたコータはちょっとだけ困った顔をしていた。


「オレからしたらオトナシとイヌイが仲良い方が意外だ」

「この世界で、最初に会った同郷人。元の世界でも、学校外でマナミがいなかったら、話す程度には交流あったし」

「マナミといるのは気合がいるのよ。いつ自分が蹴落とされる側になるかわからないから、エイコは息抜きにいいの」


 教室の真ん中で、大声笑う集団。まるでそこが世界の中心てあるかのように、君臨していた。


「イヌイはマナミがいなければ、ちょっと制服やら髪の色で校則違反する程度だったんだろうな」


 言いたい何かを飲み込んで、コータはメイをそう評した。メイも黙り込むから、今後の付き合い方は当事者の二人に考えてもらうとして、家主として言っておく。


「二階は女用。上がってこないでね。住む部屋はトミオさんにでも相談して。家賃は適当に労働でも情報でもいいから払ってくれればいいから」


 二人の横を通り抜け、リビングへ行く。


「ただいま」

「おかえり」


 ちょっと家とか庭をいじった話をトミオたち聞く。よきに計らえと言うべきか、勝手やっちゃってというべきか。エイコが使う部分を改悪されないかぎり興味がない。


「カレン、お土産」

「何? レシピ」


 収納の腕輪から出したレシピの束を渡す。


「陶芸レシピなんて珍しいのがあったから、買ってきた」

「ありがとう」

「さっそく覚えて、作ってね」


 レシピに魔力が流され、消えていく。きっと作り方を覚えたら、作りたくなっているはず。


「ねぇ、何コレ? ハニワ? 土偶? 土器なの⁉︎」


 この驚いた顔を見ると、買ってきてよかったと思う。


「きっと、新境地が開けるよ」


 エイコとしては真面目に、埴輪と土偶が欲しい。ゴーレムか自動人形に出来そうな気がするので、作ったらもらうと決めている。

 それに、レシピ覚えたなら、絶対一回は作ってしまう。エイコは作らずにはいられないから、きっとカレンもそうだ。


「特産物とか土産物ぽい物はなかったので、救急箱的な物を作ったのでどうぞ」


 ペンダントトップの魔石が、収納アイテムになっている。中身はポーション三本とマナポーション一本と解毒薬と傷薬(軟膏)。


 モンスターの間引きは、現在ラダバナを中心に活動している冒険者全員に対して求められる協力だ。

 対象になるダンジョンは生産職専用ダンジョンの割合が高いため、指名依頼にしてまで対応できる人を高難度ダンジョンに送るようにしている。

 しかし、Fランクの戦闘職でしかないトミオたちに求められている協力は、対象ダンジョンを期間中に一回以上訪れ、銅メダル三枚以上入手という程度だった。


 無茶しなければ大丈夫らしいが、何が起きるかわからないのがダンジョン。備えあれば憂なしと、準備してみた。


「モンスターの間引きが終わるまでは、できれば売らないで下さい」

「心配してくれた善意は売らないよ」


 少し照れたようにトミオは受け取ってくれる。


「お守りとして大事にします」


 微笑んでユウジが受け取る。


「あっ、この世界のお守りの効果はわからないけど、加護をもらっている神さまにお祈りに行くと、一言もらえる」


 驚かれる中、異世界人は声を聞きやすいと付け足しておく。


「売らないから、ありがとうな」


 ぶっきらぼうにショウは受け取り、男たち三人は神殿にいつ行くか相談を始める。そんな中、コータだけが戻って来た。

 メイにはまだ、お土産を渡せそうにない。急ぐ事もないかと、本人が顔を見せるのを待つことにする。


 渡す物を渡したのでエイコは部屋に下がり、清潔魔術をかけ窓を開けた。見られたくない物や触られたくない物は収納アイテムに入れて管理している。

 部屋の換気くらいメイかカレンに頼んでおけばよかった。


 部屋の絨毯に横になり、帰って来たのだと実感する。ここを帰る場所として認識できるくらいには、この世界に馴染んできたらしい。


 指名依頼までの期間を、休養日にしてエイコは気ままにゴーレムを作った。自動人形はまだダンジョンで使えるほどじゃない。こちらは指名依頼が終わってからになるだろうか。


 ただ、ゴーレムも自動人形も錬金術師なら作れる。なのに、作れば職業スキルに満足感がある。

 そんな事を思いながら出来上がった物を見ていたら、鑑定スキルを使っていた。半分くらいが魔導ゴーレムになっていて、二度見する。

 差がわからないが、どうやら別物に改造されていたらしい。どうも、改造した方がスキルの満足感が高いようだ。


 板状ガーゴイルも魔導化できるのだろか。そんな好奇心に囚われて、睡眠を忘れて指名依頼日を迎えたら、クリフの視線が冷たい。

 クリフの優先順位一位は絶対仕事だ。モンスターの間引きに騎士団も動いている。クリフにとっては冒険者としての仕事だけではなく、本業としての仕事でもあった。


「移動中寝て、体調整えます」


 浮く絨毯を出して、エイコはすぐ横になった。


「え゛」


 ダンジョンへ向かう獣車の中、カレンがひどい声を出した。同じダンジョンに向かう人、二〇人くらいが乗っており横になる場所はない。あと、寝心地の問題らかエイコは絨毯を出したのに、カレンに批難される。


「話は到着してからね」


 メイとコータの間に座った、すがるようなカレンの視線の意味をエイコは知らない。今言わないなら、聞かなくてもいいのだろうと、眠りに落ちた。

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