第82話
簡易住居で夜を明かしたのはエイコとアオイだけだった。コータは一月くらい訓練を受けており、夜営の仕方も習ったらしい。
ダンジョンに行くまでは他の勇者と同等の扱いで、戦闘職ダンジョンに入れなかったあたりから待遇が変わったそうだ。
現在は手切金をもらって国を出ようとしところで、南方は戦争になりそうだから北へ向かったらしい。
「北は獣人いないんだよな?」
「南で獣人差別しているからな、北までたどり着けない」
南で獣人差別があるのは、南の国境付近で争いが絶えないせいもある。どちらも戦争の度に相手の国の人を奴隷にしてきたそうで、どちらもの国にも差別があるそうだ。
殺し合いと奪い合いの結果、拗れに拗れた関係になっているらしい。
「憎しみ合うばかりでは血が流れる。憎しみはすぐに忘れられなくても、互いに手を取り合い発展する未来もあるっていう思想あるらしんだが、相手国に捕まえさせて奴隷なったあとしばらくしてから救出すると、過激派ゲリラになって相手国で暴れてくれるらしいね」
この世界の紛争地帯の一つで、英雄願望もなければ、将来の就職先に傭兵なんて考えたこともないコータは、スキル的にも向いていないため、さよならしてきたそうだ。
「オレ以外の勇者は、恋した相手はマナミでも、一緒にいる女に情を移して戦争に行くだろうな」
コータは悲しい目をする。
「オレはさ、もう不幸に突き進む人は見たくない。クリフさんがどうというより、エイコの結婚観では幸せになれないよ。せめて、そこだけでも修正しよう」
よく考えろとコータが言葉を重ねる。
「お前の結婚観だと、結婚相手以外にもう一人男がいるぞ。お前、男二人を同時に相手にできるのか?」
三角関係は面倒ごとしか発生しないとコータは語り、クリフは笑っている。
「ここで笑うような男だぞ」
「えー、でも、便利だし」
ただ、男は二人もいらない。今でもかなり恋人らしくするために頑張っている。
一人旅だと治安の心配もあるし、エイコには地域特性もわからない部分が多い。どこに行くのも、何をするのも、全部仕事になる男。これほど利便で、都合のいい人はいない。
「今から言う言葉を復唱してくれ。クリフとは利害関係で付き合っています。はい、どうぞ」
「クリフとは、利害関係で、付き合っています」
「ウソ判定出なかったぞ」
「えっ」
「クリフさんも出なかった」
エイコはクリフを見つめる。
「ある意味似たもの同士?」
「そこは、騙されていたとなげくとこだろ!」
御者二人が、少し離れたところでボソボソ話している。
「あの発言でウソなしなら、普通は修羅場ですよ」
「そういう殺傷事件よくあるよな」
「なのに、別れるつもりなしです」
朝ごはんは三角おにぎり二つにおみそ汁と、おひたしに卵焼き。それらを美味しく食べてしまえば、エイコはクリフの手を手放す気にはなれない。
「政略結婚なら殺伐とした関係なこともあるんだよ。一緒に食事を楽しめるのはいい関係だ」
「恋愛結婚にみせかけた、政略結婚よりなことしているからオレは騒いでんだよ」
「僕は、君の初恋がエイコなのかと疑っているよ?」
コータがうなだれた。
「当たりみたいですね」
「思いの相手に再会したら、ヤバい男がそばにいたのか。かわいそうに」
「でも、田舎からでてきた子によくあることですよね。男女関係なく」
食事が終われば町に向けて出発する。御者は二人とも御者台に座るそうだ。
さほど距離もないので、肉体より精神を、休めたいらしい。
きっちりと獣車の小窓を閉められた。
リトルクはあまり大きくない街だ。
町を取り囲む外壁が、ラダバナの豪商達の私邸を取り囲む壁よりしょぼい。あまり立派な物を作る余裕がないというのもあるが、軍事拠点にできるほど堅牢にすると南北どちらかの国に滅ぼされる危険もあるからだそうだ。
どちらの国にも属していない、独立都市国家というのが公式な立ち位置だが、どちら国に対しても隷属するしかない状況にある。
御者二人は獣車の管理をしながら門近くの停留所にいるそうで、冒険者ギルドには三人で向かった。
この辺りにあるダンジョンを管理するために冒険者ギルドができ、そのために町ができたため、冒険者ギルドは町や中心部にある。他の干渉地帯の冒険者ギルドは派出所があるだけて、常設依頼しか受けられない。
この辺りで冒険者ギルドに登録できるのは、リトルクだけだった。
書類に記入して、登録料を支払う。なんの問題もなくコータは冒険者ギルドに登録した。
カードの出来上がりを待っている間に、エイコは食べ物系の錬金術レシピを売っていないか声をかける。
需要の高い戦闘職の技系レシピ以外は、南北どちらかのギルドの送られるため在庫はないそうだ。錬金術の素材ならあると言われて見せてもらう。
冒険者だった所有者死亡で、扱えない遺族が売りに来たもので、月末には大きな町の冒険者ギルドに移送するらしい。
今を逃せば、まとまった量の錬金術素材は手に入らない。金銭的に問題がないなら全て買う方向で話を進める。
鑑定していると、とっても気になる物があった。
たぶん、エイコがレシピで作れるゴーレムの
「錬金術が使えるなら、ポーション作れますよね?」
現金よりポーションの物納を希望される。
「いい?」
ダメって言われたら、一人残ってでも作る。だが、二人とも待ってくれるそうだ。
エイコは対応してくれている職員に、封入瓶に入ったポーションを見せる。
「容器も自作です。何本入りますか? 可能で有れば材料も売って欲しいです」
要望を伝えれば、個室に案内された。薬材と瓶の素材をドンっとテーブルに置かれ、まず瓶から作る。できた物を鑑定のできるギルド職員が検品していく。
瓶が作り終わると、ポーション作りに移る。大きいポーション瓶を持ってきてもらい、エイコは錬金鍋からその瓶に移す。
品質確認するのに鑑定する方もその方が楽だし、小分けにするのはギルド職員にやってもらった。
「いや、助かりました」
雪が降ると北からのポーション供給が止まりがちになり、戦争準備を始めると南からの供給が止まるらしい。
冬になる前に在庫を確保したかったそうだ。
見た目が大きめの手帳をしている収納アイテムごと、錬金術素材をもらっていく。個室から出ると、すでにコータは冒険者カードをもらっていた。
活動実績作りに、手持ちの品で対応できる納品依頼を三件受けたらしい。
冒険者ギルドでお昼ご飯を食べてから、街を軽く散策する。昼食は量が多いだけで味は微妙。食中毒にならない、衛生環境があるだけでいいとする。
散策も小さな町だからすぐ終わってしまい、町独自のお土産なんて存在していなかった。
長居しようがなくリトルクを離れる。御者を交代するだけの短い休憩以外、獣車を走らせた。
夕焼け空の下、国境にたどり着く。ギリギリで入国に間に合った。
一人一部屋で宿に泊まると、エイコはいそいそと手帳型収納アイテムから中身を取り出す。自動人形は今すぐどうこうできそうにないから、それ以外の素材に意識を向けた。
薬材はほぼない。この素材を集めていた錬金術が必要としなかったのなか、冒険者ギルドが回収したかは不明だ。
木材も鉱物も魔石も、何もかも錬金術で加工されている。できれば、いかに加工したか知りたいが、相手は故人だ。すべて売りに出すくらいなら、遺族は錬金術は使えないだろう。
つらつらとそんな事を考えていたら、寝そびれた。
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