帰路の寄り道

第83話

 太陽がまぶしすぎる。家にいたなら二度寝確定だが、連泊するのでなければいつまでも宿にはいられない。

 ノロノロと宿を後にして獣車に乗る。


「なんで、獣車?」


 ぼんやりとしているうちに、乗せられていた。


「エイコは街道の移動ばかりで飽きたって言っていただろ? コータは旅費を稼ぎながら移動したいそうだから」


 両方の要望を叶えて、移動方法を変えたらしい。


 同じ方向へ行く人たちが乗り合う獣車で、椅子はなく荷台に人を乗せて運んで行く仕様になっている。

 ひどい揺れも、この地域がもつ文化とわずかな時間だけ受け入れて、板状ゴーレムを出して腰掛けた。

 異文化に触れるのは嫌いじゃないが、乗り物酔いとは仲良くできない。座っているだけでお尻も痛くなるし、わずかに体感すれば充分だ。


 クリフがそっと丸太の椅子を置いてくれる。そうすると、丸太の上に置いた板に座っているように見えるらしい。

 座るところを見ていた人たちには誤魔化せないが、これから乗り込んでくる人は騙せるだろう。

 よく見たら丸太にくっついてなくて、浮いているけれど、よほど近くから見られなければわからない。


「そういえば、なんでいるの?」

「おっ、やっと気にしてくれた?」


 嬉しそうに話し出すコータの理由を要約すると、ボッチはつらいだ。


「理性ではわかっているんだよ、相手はただの仕事だって」


 ぼっちで半月ほどかけてこの国の国境に着たコータは、いっぱい話しかけてくれる入国管理をしている兵をとっても優しい人だと思ったらしい。

 何かが疑わしく、素性を調べるための質問なので、純粋な優しさでもなければ甘くもないのに、ずっと話していたいくらいには会話に飢えていたそうだ。


「あちらさんからすると国さえ出てくれればいいみたいだからさ」


 行くあてもないので、ついてくるらしい。


「あれだ、エイコの間男枠はまだ空いているだろ」

「今のところ、その枠は埋める予定がないわ」

「あー、さすがに彼氏の前ではダメか」


 獣車は山道を進み、午前中のうちにダンジョンへ到着した。この獣車は町から町へと移動し、その間に三つのダンジョンを経由する。

 最初の一つは戦闘職専用なのでエイコたちには降りない。残り二つを一日づつ後略する予定だとクリフが言っていた。


 遅めの朝食をとって攻略に向かう。


 混合ダンジョン星四つ。一〇層くらいまでは問題なくついていけた。だか、先に進めば進むだけ、エイコは足を引っ張っているのに気づいて自信に身体強化の付与魔術を使う。


「勇者ずるい」

「剣と槍の訓練は受けたから」


 町の中を歩くときは腰に下げられる剣だが、戦闘になるとわかっているダンジョンでは槍を使うそうだ。


 身体強化スキルに槍スキル。この二つのスキルだけ見れば完全に戦闘職。だからこそ、実際にダンジョンへ行くまでは、戦闘職専用ダンジョンに入れないと思われていなかったらしい。


「君ら落ち人のスキル多さは勇者であるかどうかなんて関係ないくらい、ずるいからね?」


 現地の人からすると、職業スキルは三つ以下、加護スキルなんて持っていない人がほとんどで、技能も三つ以下なのか普通らしい。

 すべてのスキル合計が五つ以下が標準で、それ以上のスキルを持つ人はとても少ない。


 クリフはガチャでスキルを出した事があり、この世界の人的には多い側の人らしかった。

 スキルがあると功績を上げやすいので、貴族はスキルが多い人がそれなりにおり、加護スキル持ちはだいたい多い側の人になる。


「加護スキルありなら五つ以下にしなくてよかったのか」


 この世界に到着直後からコータは人を鑑定しまくって、見えるようにするのは五つにしたらしい。一人旅を始めてからは、五つでも多いかもしれないと、思っていたそうだ。

 最初に鑑定した人たちは貴族が多くて、町の人を通りがけに鑑定したら、スキルの数が少ない人が多くて悩んでいたらしい。


「お城だもんな、貴族と優秀なスキル持ちしかいないか」


 納得したと、のんきに笑いながらモンスターを槍で貫く。ここのダンジョンぐらいならコータは余裕で一人攻略できそうだ。


「できるけど、寂しんだよ。ずっと一人は」


 ネット環境がない場所で、一人はムリらしい。


「エイコはそろそろあきらめてガーゴイル使った方がいいよ。スキルと違って、身体強化の付与二重がけは身体に負担がかかる」


 獣車で使ったし、隠しておく必要はないか。


「空飛ぶスケボー? 欲しい。作って」


 隠しておく必要はあった。もう遅いけど、興味津々だ。


「素材が集まったらね」


 素材もあるし、板状ガーゴイルの予備もある。あげてもいいが、次から次に要望を出されたくないので、しばらく待たせよう。

 こそこそとクリフがコータに耳打ちに行く。そんな行動をしても、どちらもモンスターを倒しながらのやり取りだ。


「エイコ。今日のダンジョン攻略メダルをすべて君に捧げよう」


 腕輪の収納アイテムから、板状ガーゴイルを取り出して渡す。


「あるのかよ」

「金メダルも銀メダルもよ」

「全部渡すから心配すんな」

「エイコはガチャ好きだよね。僕の分も提供するから、食材だけこっちにちょうだい」


 クリフは自分で出せない食材を、エイコが出すのを楽しみにしている。外食が続くと、料理をしたくなる職業なだけに、夜ご飯は楽しみだ。


「コータお金稼ぎたいんじゃなかった?」

「しばらくは大丈夫だけど、使うばかりじゃ減る一方だからね」

「借金奴隷に落ちる心配がないならいいわ」

「心配するのそこ?」


 まるで他人ごとのようにコータは笑う。


「マナミが借金奴隷だって話、したっけ?」

「聞いてない。なんで借金奴隷? 散財しすぎ?」

「異世界人狩り。落ち人だから所有者のいない物のように拾って持って行ったのよ」


 オークションで最高額を出して、立場のある人に買われて、歌唱か美貌からの魅了と洗脳コンボを決めている話をしておく。


「わかった。王都には近寄らない。行く予定ないよな?」

「遭遇したら嫌がらせされるのに、行かないわ」


 ハイペースでダンジョン攻略を進め、日が暮れる前には攻略が終わった。いそいそとエイコは生産職専用ガチャの前に陣取る。

 金メダルで狙っていた自動人形レシピが出た。一人にやつく。

 それから銅メダルでガチャして、食材が出るとクリフが回収する。ある程度手にすると夜ご飯を作りにクリフはダンジョンの外へ出だ。


 今晩はダンジョンの中ではなく、外でお泊まり予定。ガチャが終わるまで、コータが周囲を警戒してくれる。


「ダンジョンのガチャボックス、魔導具師神が作ったて神話があるらしいよ」


 ダンジョン運を上げたくなったら祈るのが試練や運命の女神で、絶望しているか投げやりな時に遊戯神や邪神に祈るらしい。

 世界に無数にあるダンジョンを、作ったとされる神様はたくさんいる。その中でガチャボックスを作ったとされるのは、魔導具師神しかいない。


「ガチャボックス中身になるとまた違うみたいだが」


 エイコのガチャ結果を見ながら、コータはそんな話をした。教養として、神官からそんな話を聞く勉強時間もあったらしい。


「お前さ、偉い神様から好意を得ているな。何をどうして、よりにもよってその神様から好意を得たんだ?」


 この世界に到着した時にはもう得ていたものだ。何をやったかなんて心当たりはない。


「コータの鑑定優秀なんだ」

「人間はほぼ偽装や隠蔽していてもわかるよ」

「口外しないでよ」


 大母の女神と同じように、楽しめと言ってくれた神様だ。その名からイメージされることに問題があるだけで、エイコはいい神様だと思っている。

 神殿に行くことがあれば、エイコはまた感謝を捧げるだろう。エイコにとっては、そういう神様だった。


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