第74話

 モンスターを殲滅する戦闘職の後を、メダルを拾いながらついて行く。危機感もなく、楽に銅メダルが手に入る。

 生産職は弱者。

 嫌でもそれを思い知らされる。アルベルトに本気で斬りかかられたら、剣を抜かれたことすら知らないまま死ねるだろう。


 生産職がどれだけ努力したところで、到達しえない強さだ。


 職業もスキルも平等じゃない。


 戦闘職でなければできないことがあるように、生産職でなければできないことがある。けれど、強さを求められるダンジョンにいれば、戦闘職をずるいと思ってしまう。


 エイコにとって油断したらいけないこの場で、彼らが危機感を覚えることはない。この場で覚えるのは、せいぜい数が多くて面倒だというくらいだろう。


 四九層のモンスターを殲滅し、そのまま五〇層のダンジョンボスを倒す。その間ずっと動き続けていたのに、アルベルトは呼吸の乱れすらない。

 パトスにしたところで、軽いランニングを終えた程度の乱れしかなかった。


 転移魔法陣でガチャボックス前広場に移動する。エイコとクリフがガチャっている間に、アルベルトとパトスはもう一回、四六層から攻略してくるそうだ。


『メダル拾いについて行ってくる』


 魔法陣に乗る二人について、止める間もなくアオイは行ってしまう。

 エイコは生産職用のガチャボックス前に陣取る。クリフは混合ガチャボックスでいいらしい。


 銅メダルを一〇枚ほど消費したところで、エイコは一/一〇〇〇レシピファイルを出してしまった。


「僕、おやつでも作っているから、メダル全部使って」


 レシピ以外は仕分けなんてことをしないで、収納アイテムに入れていく。昨日から集めたメダルを次々に投入した。

 ココアやチョコレートのレシピが出たと思えば、カカオらしきものが出る。コーヒー豆も出たし、コーヒーはレシピが複数あった。

 焙煎済み。挽いた後の粉。飲める状態のコーヒーに、インスタントコーヒーの粉。ココアに比べると種類が多い。

 チョコレートのレシピが増えるの嬉しいし、原料が出るのも喜べる。だが、しかし、一/一〇〇〇レシピが集まらない。


 メダルの出がよかったし、いっぱい拾ってきたから、千枚近い銅メダルがある。あるが半分以上はレシピ以外のものが出ており、一/一〇レシピファイルなんていうのも出ていた。

 そっちはどうにかなったが、一/一〇〇〇レシピは半分も集まだていない。


「クリフ、足りない。あと六五〇枚くらいレシピがいる」

「なら、銅メダルはあと二千枚くらいいりそうだね」

「アオイ、いっぱい拾って来てくれるかな?」


 全部拾ってこれたとしても、二千枚はたぶんない。今は待つしかないとクリフになだめられた。

 

 焼きたてのパンケーキに、ジャムぽい果物の甘いソースをかける。おやつでも食べて待とうと、出されたのでエイコは大人しく食べる。

 食べている間に二人と一匹は戻ってきた。


 アオイがザラザラと銅メダルを影から出す。さっそくエイコはガチャを始めた。

 その間に戻ってきた二人は休憩をとり、

クリフと情報を共有する。


「七〇〇まではきた。あともう一回分いる」


 クリフに泣きつけは、よしよしよ慰めてくれた。この様子なら、またダンジョンに一緒に来てくれそう。


「帰り、おそくなるけど、副団長さまがいれば、夜でも門は開けてもらえるから」


 休憩が終われば、また復活しているであろうモンスター退治にアルベルトたちは行くそうだ。そろそろモンスターの量が減るはずだから、そこは四〇層から四五層をエイコとクリフで攻略する事で補う。


 ダンジョン攻略はスピード勝負。戦闘職と同等のことはできないが、ガーゴイル板で駆け抜ける。

 そうしないと同じくらいの時間でダンジョン入り口までに戻れない。


 魔力の消費をケチるより、どんどん使って時短を狙わないといけなかった。今回はクリフも討伐に協力してくれる。

 投げナイフでほとんどのモンスターは一撃で仕留められており、エイコはメダルと一緒にナイフも回収した。


 最短ルートで駆け抜けたのに、転移魔法陣を使うとすでにアルベルトたちは戻ってきている。


「生産職はダンジョンに向いてない」

「でも、ガチャは生産職の方が面白いものが出るよ」


 千枚レシピを必要とするファイルは初めてみたと、何が作れるようになるかクリフは楽しみにしていた。メダルを大量に供給してくれた二人も、興味があるからこそエイコのガチャが終わるのを待っている。


「クリフ、九九八でメダルなくなった」


 アオイが一層の奥へ向かい飛んでいった。


「とりあえず、お茶でも飲んで落ち着こう」


 さっとお茶を出し、保存容器から出したクッキーも食べさせてくれる。食べている間にアオイが戻ってきて、銅メダルを一六枚くれた。

 メダルを五枚ガチャったころで、レシピの枚数が足りて、取りこめる。


「何だった?」

「移動する住居ぽい?」


 どう説明しようか悩み、そのうち作って現物を見せることにした。今は、ラダバナへの帰路に着く。


 ダンジョンを出るとだいぶ太陽は傾いており、日暮れが近い。かっ飛ばして帰る。

 ラダバナに到着したのは日が落ちた後で、アルベルトが権力を使って門を開けさせた。


 疲労と魔力欠乏症で眠いエイコを手をクリフが引いていく。


「あと少しだよ」


 クリフが寝台のある部屋に案内してくれたから、清潔魔術をかけて寝た。




 起きると朝で、隣にクリフがいる。ここまではいいとして、知らない場所だ。


「うーん、起きた?」

「ここ、どこ?」

「職場の寮。家に帰るより近かったから」


 前に教えてもらったアパートは冒険者用の家で、ここはあんまり使わない騎士としての家らしい。


「寮は人を連れ込んでいいの?」

「お偉いさんの許可があれば罰則は発生しない」


 堅物そうな顔をしているが、アルベルトは上司としては融通がきくとクリフは笑う。

 新人冒険者に無理させたんだから、寝る場所の提供くらいはしてくれるそうだ。


「宿でもよかったんだけど、宿だと寝させてあげる自信がなくてね」


 寮でも仕事で関係の場所の方が、自制心が効くそうだ。


「元気だったんだ?」

「体鍛えるのも、訓練するのも、仕事の内だからね」


 エイコの顔にかかっていた髪をクリフがかき上げる。目が合うとにこっと笑って、ご満悦だ。

 ご機嫌だと、クリフを見ていたらお腹がなる。視線をそらそうとしたが、逃がしてもらえなくて、頭の後ろをとらえた手に力が入り、引き寄せられた。


 くすくす笑い、戯れに満足するとクリフはご飯を作りに行く。

 お腹はすいたが、起き上がる気力はごっそりと奪われた。料理の途中でクリフが戻ってきて、上半身を起こすのを手伝ってくれる。

 カップに入ったジュースをエイコに持たせて、料理に戻っていく。


 ベースは野菜ジュースなのに甘くて、変な苦味もなかった。美味しく飲んでから、エイコは寝台から降りる。

 窓から入る陽光を目にし、あんまり朝早い時間ではなさそうだと知った。クリフはエイコが起きるまで待ってくれていたらしい。


 このままクリフとのんびり過ごしたい欲求もあるが、新しいレシピも試したい。葛藤しながらエイコは朝食の席につく。


「花?」

「色をつけたパンだよ」


 お皿を画布に見立てたように、花が描かれている。料理としてはどれも一口サイズで、似た色のの物でも味が違う。


「めちゃくちゃ時間、かかってない?」

「下拵えは昨日の夜やったから、朝はそんなに時間かかってないよ」


 お味は、と問われるので満面の笑みで答えてあげた。

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