第73話

 朝なのに夕暮れ。四一層に向かい、エイコは損した気分になる。この辺りは空というか天井の色が変わったくらいの差しかなかった。

 出てくるモンスターは四つ足の肉食獣みたいなのが数種類と、魔術を使ってくるのが三種類と、甲羅のある固いのと、ハリネズミみたいにトゲトゲでトゲをどばしてくるのがいる。

 魔術を使うのとトゲトゲのは遠距離攻撃もしてくるので、発見すると即倒すようにしていた。


 銅メダルは順調に貯まっている。ダンジョンの星の数が多いほどモンスターがメダルを落とす率が高く、ダンジョンの奥の方がメダルを落す率が上がる。

 そのおかげで、今日はモンスターを倒しただけメダルが落ちるようになっていた。


 四三層までくると薄暗く感じる。魔力感知で、視界に入らなくてもモンスターの位置はわかるが、視界が効かないのは不利だ。

 板状にガーゴイルをどこまで小さくできるか試した時の物に、魔導具のランプを乗せて周囲はを照らす。まずは三つ飛ばし、層を移動して暗くなる度にランプを増やした。


 四五層フロアボスに到着するするまでに、ランプを三つとガーゴイル板を一つ壊される。

 ランプの方は予備が多くてあった。しかし、ガーゴイルの方は余裕があまりないので、直して使う。


 六つの目に二対の腕をした熊ぽい大型モンスターに、それよりは小さい四つ目のモンスターが八体。

 階段を守るようにフロアボスとその取り巻きがいた。


 暗くなってから闇魔術が使いやすくなった。けれど、暗くなったところにいるモンスターは闇魔術に耐性があるらしく、火魔術の方が攻撃が効きやすい。

 上空のモンスターの攻撃の届かない所から、火槍で殲滅するまで打ち続ける。倒し終わったところで、午前中のおやつ休憩になった。


「魔力量が多いな」

「攻撃の届かない場所から一方的に攻撃できるのがいい。空飛ぶモンスターがいなければ、指名依頼出せそうですね」


 チーズと味付けお肉と野菜を、その場で焼いたクレープに包んでもらう。今日のおやつはおかずよりだ。

 食べ終わった後は飴をもらう。食べ慣れてくると、この微妙味がクセになってくる。


「パトス、エイコはまだ冒険者登録してやっと三ヶ月すぎたとこだよ」


 想定外が起きた時に対処できるか不明な新人冒険者でしかないと、クリフがパトスをとめていた。


「新人でも星六つのダンジョンをほぼソロ攻略だ。緊急時には数に含める」


 アルベルトの言葉にクリフは口を閉ざし、エイコを見て困ったように笑う。


「人気のないダンジョンを放置したままにすると、モンスターを吐き出すんだ」


 それを防ぐために、定期的にダンジョンに調査が入る。その調査で危険と判断されたら、モンスターの間引きに討伐隊が組まれるようになっていた。

 半年に一回の調査でほぼ毎回危険だと判断されるのが、生産職専用で星五つ以上のダンジョン。

 生産職で攻略できる人は少なく、そんな難易度の高いダンジョンにあえて行こうとする人はもっと少ない。


 そのため使える人材を常に探しており、探すのもクリフの仕事で、生産職として討伐にも参加しているらしい。普段は自己裁量でふらふらしているが、クリフは騎士団に属しており、命じられれば従う立場にあった。


 メイはともかく、モンスターの殲滅ならカレンは巻きこもう。攻撃力は炎魔術を使えるカレンの方が高い。

 指名でよばれたら、拒否できなさそう。ゴーレムも増やして、マナポーションの予備を確認しておくことにした。魔力切れになったらエイコにできる事は少ない。


 休憩を終え、四六層に入ると星が見えた。さっそく襲ってきたモンスターに火矢を打ち込む。三体倒したら、すぐに三体ポップした。

 舌打ちが聞こえた時にはもう、ポップしたモンスターは討伐されており、消えると再びポップする。が、またしても即倒された。

 五回ほどそんなことを繰り返す。まったく剣を抜いたところは見えなかったが、ポップしてすぐに斬っていたのはアルベルトらしい。


「クリフ、エイコと次の階段前で待機。間引きしてくる」


 暗闇の中、アルベルトとパトスが先行した。すぐにその姿は見えなくなる。


「エイコ、倒してもすぐ現れるから油断したらダメだよ」

「うん」


 この異常にモンスターの再出現が早い状態は、ダンジョンがモンスターを吐き出す前兆らしい。ある程度倒せば落ち着くらしく、アルベルトとパトスが殲滅しに行ったそうだ。


「メダル、拾ってもいいのかしら?」

「魔術で拾える範囲ならいいよ」


 二人は分かれ道で別々の方向に向かったようで、銅メダルるが足跡よのうに落ちている。クリフの指示で、メダルを拾いながら進んだが、二人は階段の前に行くよりモンスターの殲滅を優先していた。

 階段前に行くには、少しばかり頑張らなくてはいけない。


 倒すとポップするので、複数同時に倒したら、モンスターが同時にポップしてしまう。エイコは火弾をモンスターにぶつけて、モンスターの位置を視認すると闇手で拘束する。

 一体だけ倒して、一体ポップさせ、ポップさせたのを倒す。ポップしなくなったら拘束していたモンスターを一体倒し、ポップしなくなるまで繰り返す。


 そんな遅々とし歩だと、階段のない行き止まりへ行っていたアルベルトが戻って来て、追いつかれてしまう。


「堅実だな」


 一言呟き、再びアルベルトは先行する。


「戦闘職って動きおかしくない?」

「アルベルト様は戦闘職でも上位にくる強者だから」


 ガーゴイル板と騎獣で駆け足くらいの速さでは進んでいるのに、モンスターを倒しながら先行するアルベルトに追いつけない。

 追いつけないまま階段の前にたどり着くと、メダルが大量に落ちていた。待機場所を殲滅してから次の場所に行ったらしい。


「このメダルの数だけモンスターがいたのよね?」


 しかも、真っ暗な中での戦闘だ。


「戦闘職で、戦うのに適したスキルと戦さ女神の加護に、幼少期からの英才教育。強者たる全てがそろっている人だよ」

「ベタ褒めだ」

「欠点のない人だから」


 そこにはいないアルベルト見ているかのように、眩しそうにクリフは目を細める。その姿がどこか寂しそうに見えた。


「まあ、欠点は舌打ちくらいだよね」


 なるべく軽くエイコは言葉にした。舌打ちするから短気なのかと思えば、そうでもない。無知からくる浅慮な行動には寛容ですらあった。


「あとは、顔が良すぎる?」

「それ、欠点?」

「同性の嫉妬とか、恋愛で問題起きてない?」


 クリフが楽しそうにケラケラ笑う。


「問題が起きるなら、顔の良さも欠点か」

「不利益があるなら、良すぎるのも問題でしょ」

「エイコは顔がいいと認めても、それだけなんだな」


 彼氏の困ったような発言に、エイコはしっかりと自らの思いを口にする。


「美しさで感動は得られても、腹は満たされないの!」


 クリフは大爆笑したあと、スイートポテトをくれた。食べさせてもらっていると、嫌そうな顔をしてパトスがやってくる。


「ダンジョンでイチャつくな」

「上司に紹介したら別れたと言われるよりはいい」


 パトスの背後から来たアルベルトは、そのまま階段に向かう。その後をパトスが追い、顔を見合わせたエイコとクリフもその後を追いかけた。


 アルベルトとパトスが先行して、四八層までの攻略を終えると、昼休憩をとる。




 休憩中、パトスはアオイを捕まえた。首根っこをつかんでいると、ジタバタと小さな手足を動かす。


『つかんじゃヤー』

「間引いてないのか?」

『飛んでいけば、ボスしか相手にしなくていいよ』


 銀メダル以上狙いの従魔は、不要な戦闘は避けている。効率よくボスだけ狙い、巡回していた。

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