第71話
八月末で派遣されて来ていた兵は帰り、リクシンから借りていた奴隷も戻した。畑は家庭菜園の様に、ダンジョンガチャで種を出した人が育ている。
大まかな部分はゴーレムで、細かなところは奴隷によって、畑として使える状態にはなっていた。
大部分は使われていなかったので、ゴーレムの使用実験として、芋を育てみる。栽培は難しくなくて、冬までに収穫できるらしい。
農業ギルドで種芋を買い、さらっと育て方を教えてもらった。困ったら有料で出張指導に来てくれるらしい。
困ったら利用するつもりはあるが、指導に来てくれる人はゴーレム相手でも教えてくれるだろうか。
「派遣されてくるひとの性格によるかな」
柔軟性のある思考と行動の取れる相手ならいいが、生真面目な相手が来たらかわいそうすぎる。と、農業ギルドに頼る時は、クリフが一緒に立ち会ってくれるそうだ。
板状ガーゴイルの小型化に成功し、移動にいいかと、同居人たちに使用感を問えば扱いにくいと言われてしまう。作成者ほどゴーレムと意思の疎通が取れないため、決められたルートを決めらて様にしが動かせない。
レールの上を走っているのと同じだから、畑のから倉庫へ移動なんかの決まったルートの荷運びにはいいが、自由に移動するには向いてない様だ。
エイコにとっては使いやすいが、汎用性はない。そこで代案として要望されたのがキックボード。
絨毯が浮くなら板も浮かせられるだろうと、板に推進力と持ち手とブレーキをつけてくれと頼まれた。
浮かせるのも、移動させるのも、そういう魔法陣があるので難しくない。問題はブレーキ。
浮かせるからタイヤがない。そのため摩擦ブレーキは使えないから、別の方法がいる。エアバックみたいなもので、受け止めてもらえばと前方に風の壁ができる様にしてみた。
試乗実験に使ったゴーレムが、キックボードと一緒に破壊される。どうやら、別の案がいるようだ。
「摩擦ブレーキには空力ブレーキっていうのもある」
投げたボールはどこまでも飛んでいかない。元の世界の物理法則が、この世界でどこまでも当てはまるかは不明。でも、慣性の法則は当てはまるとトミオは言う。
「元が高校生だと、自動車の免許は持ってないか」
原付の免許も持っていない。乗れるのは自転車くらいだ。
「赤信号で止まる時、自転車の速度落とすだろ。トップスピードで交差点直前で急ブレーキなんてやるか?」
速度を落とさないで壁にぶつかれば、それは事故。事故れば壊れもすると、説明を聞いた。
速度調節できるようしないと、安全には停まれない。戦闘職の身体は丈夫そうだが、使うたびに痛い思いをするのは嫌だと拒否される。
トミオは自動車の衝突実験について語り出す。自動車が大きく、丈夫になればならほど、事故の被害は大きくなる。
ちょっと長いトミオの
メイは作業用BGMが欲しいと言ってくるし、ユウジは通信端末の希望を出してきた。
音を録音する魔導具とそれ再生する魔導具や、二者間でやりとりする伝書鳩のような魔導具のレシピはある。
夏のせいだろうか。夏休みの宿題を積み上げられている気分がする。提出期限もないし、必ず作らなくてはいけない課題でもない。
ショウは電卓を希望してたいた。カレンは焼き窯に入れる前の商品を状態維持して保存できる収納アイテムが欲しいと主張する。どうやら、一人一つの要望は許容範囲内と思われているらしい。
エイコとしては作る物のアイディアはほしいが、必要のある物として作らなくてはいけない気分にさせられる物は欲しくない。
「すぐに作らなくても大丈夫だと思うよ。それで怒る人もいない」
酒飲み達の要望でレシピの増えたクリフは、楽しそうに料理の改良をしている。
「手間がかかるだけで、作れそうなの」
試行錯誤と試食を繰り返せば、より良い物ができるクリフと同じだ。試行錯誤と試験運用を繰り返せば、エイコもまたより良い物ができる。
この誘惑は、物作り系の職業を持つ人には強烈だ。どれだけ文句を言いながらでも、興に乗ると睡眠時間を削ってでも作ろうとしてしまう。
「もしかして、過労は職業病?」
「どうだろう? でも、勝てない魔物に挑みたがる戦闘職や、自己治癒スキル使いたくてケガしに行く連中よりはいいよ」
朗らかに、クリフは戦闘職よりはいいと断言した。しかし、会計に来ていたパトスは異論があるらしい。
「戦闘職は怪我するのも死ぬのも本人だけだが、生産職は近親者を巻き込む」
素材欲しさに家族を売るくらいやるし、人間を素材にして歴史に悪名を残した人もいる。
「戦闘狂が街で通り魔になった例もある。殺人事件の加害者は圧倒的に戦闘職が多い。極端な例で生産職を貶めるなよ」
「詐欺や横領をやるのは圧倒的に生産職の方が多いが?」
これ、答えの出ないヤツ。それに気づいたエイコは聞き流すことを選択した。
個別やりとりは、やり取りの多いひと同士で魔導具を持ってもらい、全体連絡は黒板とチョークだ。どっちもレシピがあるので簡単にできる。伝言のある人に使ってもらうようにリビングと玄関に黒板は設置した。
食事を作る人たちからすると、何人食べるかは知りたい情報らしい。多く作って、あまった分を保存容器に入れるのが現在の対応だが、食べる人数が少ないなら手間のかかる料理を作りたい時もあるそうだ。
七の倍数で飾り切りするか、二か三の倍数で準備するかは、労力が違う。そのせいで作るのをやめた料理もあるらしい。
BGMは元になる音がないといけないので、しばらく放置。なんでもいいから音が欲しいなら、メイ本人に歌うなりしゃべるなりしてもらうしかない。
電卓は二進法で計算されていたはず。加減乗除以外の機能はなしで、考えてみよう。
要はプログラミングだ。
数値を入力して、演算方法を選び、数値を入力する。基本となるのはそのくらいで、十進法入力を二進法に変換して、二進法だから一を魔力の通り道にしてゼロに魔力を通さなければいいはず。
考えてみると、行数がかなりある。これは魔石の質が良くないと対応できない。あとは、加工魔石の層数を増やせば対価できる可能性もある。
あれば簡単に使えるのに、作ろうとすると考えないといけないことが多い。完成形がわかっているのに、手間取る。
電卓ができるより先にロケットが宇宙に行ったと、酒を飲みながらトミオが言っていた。
電卓はコンピューター。ソロバンとは違う。
学校の授業で習った範囲の情報処理でなんとか電卓を作り上げると、表計算ソフトも頼むという未来が待っている。エイコはそんな未来を想像しないままつらつらと考えを書き連ねていた。
A×BはAをB回加算したもので、A÷BはAからBが何回か減算できるか数えたものでいいはず。考え込んでいると、どうにも不安になってしまう。
正誤は実際に計算してみればわかる。
ダメだった時は、トミオにでも相談することに決めた。
「エイコ、話聞いて。エイコ、エイコ」
机の上にアオイが着地し、書面を隠すように小さな手を伸ばす。そこまでされてやっとエイコは顔を上げた。
「明後日のダンジョン、パトスも一緒にいくから。ちょっと難易度高め」
決定事項として伝えて来たから、エイコはうなずく。痛い思いをしないなら、どこのダンジョンでもいい。
クリフなら、エイコが対応できないダンジョンを選ばないという安心感もある。詳細を問わなかったのを後悔したのは当日になってから。
ダンジョンに同行するのはパトスだけでなく、アルベルトもいた。
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