お店を作る

第70話

 壁にぺったり張り付くように建物ができたのは、ここ半世紀ほどのこと。壁に穴を開けて入ってくる不法入町者対策で作られているらしい。

 今はもう壁の外の人にも、住居があると知られているが、かつては家の中で遭遇なんてことも起きていた。居直り強盗になることもあり、住居地としては人気がない。


 長期間同じ人に同じ建物を使わせていると、外の人と示し合わせて穴を開けたなんてこともあり、二年に一回は引っ越しを求められる。いろいろと難のある住居だった。

 それでも冒険者ギルドになんらかの品物を納品することで、店が持てると利用する人は少なくない。常に八割ほどは住居者がいる。


 食事処の隣が武器屋で、その隣が木工細工店。店にまとまりはなく、エイコの借りた建物の隣はどっちも雑貨屋だった。

 錬金術で、自分の作った物を売っている雑貨屋と商人で仕入れた物を売っている雑貨屋で、取り扱っているものが異なっている。


「クリフ、店やる?」

「やってもいいけど、屋台の方が好きなんだよね」


 毎日同じ料理ばかり作るのは好きではないそうで、その時々で出す物を変えられる屋台をクリフは気に入っていた。


「高い物置くと治安の問題があるよね?」

「僕なら盗みに入ったあと、壁に穴を開けてラダバナの外に逃げるよ」


 そうすると高いものは扱えない。


「とりあえず、一階にゴーレムを設置したらいいかしら」


 そうすると、屋上にはガーゴイルだろうか。


「それはエイコがここに泊まる時だけにしよう。使わない時は何も置いてなければ、泥棒の心配もしなくていい」


 建物を借りるだけにして、今日は何もしないことにした。




 町を散策して家に帰れば、メイは普通の服を売りたいと主張する。作業服と同居者の服を作るだけでは満足できないようだ。

 カレンも店をやりたいようで、毎回ダジアに買ってもらわなくてもいいようにしたいらしい。

 トミオがエイコ作の酒販売店で、ユウジが居酒屋。ショウはラダバナに出かけた時に休憩させてもらえればいいらしい。


 いろいろ案は出すが、みんな毎日お店に時間を使えなかった。すでにおこなっている仕事もあるし、ダンジョン通いもしている。


「もう、全部やってしまうか。 月に一人三日か四日くらいで持ち回りにしたらいい」


 備品も商品も収納アイテムで管理すれば設置は大変だが、撤去は簡単だ。


「そのくらいなら、商品がなくて店が開けれないってこともない」


 居酒屋やるのにカレンの作った器を使ったり、従業員の服をメイの作品してちょっとづつ関わりを持たせる。そうやって他の人の物を宣伝する。


「いつ何の店をやるか看板を出しておけば、興味のある物の時に来てくれるだろう」


 トミオの提案にみんな考え出す。


「クリフ、カフェやろう。で、お菓子とノンアルコールカクテル出して」

「あー、屋台で売りに出さない物ならアリだな。食べに来てくれる?」

「もちろん。二階を作業場にしてもいいし」


 一緒にいれば、ごはん食べたかどうか確認できると、嬉しそうに言われてしまった。

 やる気はあるが、直ぐに店を出せる状況ではない。しばらくはラダバナを訪れた際の休憩所になりそうだ。


 冬の開業を目指そうといいながら、いろいろ作れないかとエイコは相談を受ける。で作った物を試しに使うのがクリフ。


「かき氷はダメだったか」

「熱中症でバダバタ倒れる地域なら違ったかもしれませんが、そこまで暑くないですから」


 器に山盛りいっぱい食べると、寒くなるそうだ。

 お好み焼きとたこ焼きはソースの匂いで人があっまって来てらしい。具を変えて、こちらは何度か試している。


 焼き物系がありならと、たい焼きや人形焼きも試している。

 たこ焼きはタコが入っていないから、変わりネタばかりで、名称はたま焼き。たいが何かわからないからと、たい焼きはアオイの雛姿を模してひな焼きになっている。


「屋台シリーズだと、あとはりんごあめか」

「あれのよさは、祭りマジックですよ」


 トミオのつぶやきに、お祭りだから欲しいのであって、他の時にはいらないとユウジは主張する。


「肉系の屋台はこの町にもあるから、競合するな。甘栗は材料が手に入らない。焼き芋でもするか?」

「焼き芋ならすぐマネされるので、大学いもかスイートポテの方がよくないですか?」

「屋台らしさはなくなったな」


 メイの意見に男二人は顔を見合わせる。


「なあ、屋台メニューではなく、居酒屋のメニュー考えていたはずだよな?」


 居酒屋メニューを考えていたのに、夏はビアガーデン。そこからの連想で、焼きそばとかき氷が出たあたりから脱線したらしい。二人は冷酒で反省会をしていた。


「酒飲む前ならともかく、飲んだ後の反省会は期待したらダメだ」


 人を雇い、ルート営業の引き継ぎ作業をしているショウが、帰宅そうそうあれはまたやらかすと淡々と告る。仕事をしていたら、チャラ男ではないらしい。


「居酒屋以外の何かになってもいいから、ほっとけばいいよ」


 酔っ払い同士で仲良くしていてもらった方が、他に被害がなくていいと、ショウは混じに行くつもりはないようだ。


「しかし、従魔も酒飲むだな」


 エイコの食事が終わると、アオイは酒飲みに混じっている。アオイは酒が好きというより、主の作った物が好きだ。

 錬金術で作った物ならなんでも食べる。


「幼体で飲まれると不安になる」

「まあ、人とは体の作りが違うしな。大丈夫なんだろ?」


 鑑定して状態異常になってなければ、大丈夫だとクリフも言っていた。酔うこともできないようなので、アルコールを分解できているはず。


「鑑定結果に異常はないよ」

「鑑定って、どこまで信用できるんだろうな?」


 人によって鑑定スキルは得られる情報量が違う。レベル表示はないが、おそらくレベルはある。

 スキルは使えば使うだけ、扱いやすくなる性質があった。レベル表示はないから、確証のあるはなしではないと前置きした上で、リクシンは加護持ちの方がスキルは育ちやすい。加護が多ければ多いほど、スキルの成長が早いと言っていた。


「スキルを信じれなくなったら、この世界では生きていけなさそう」

「それはそうだな。何しろ剣から斬撃が飛ぶ世界だから」


 戦闘職の三人も成長著しいようだ。おかげて、一緒にパーティーを組まないかと多くの誘いがあるらしい。

 個々でもあるし、三人一緒でというところもあるそうだ。


 冒険者ギルドは、ただ強いだけではランクを上げてくれない。ランクアップは冒険者ギルドとの取引を積み上げ、問題を起こさないことが重要で、どんなに強くても依頼不履行ばかり繰り返す人はランクが上がらないようになっていた。


 収納アイテムを提供したら、ガチャで出した物をすべて持ち帰れる。それらを冒険者ギルドに売るのではなく、それを元に商売を始めた方が儲かった。

 そうすると、ダンジョンには行くが、冒険者ギルドは利用しない冒険者になってしまう。それではランクは上がらない。


 身分証明ができないのは困るから、脱退させられないように利用はしている。手持ちの品で受けられる依頼があれば、受けてもいるらしい。


「強くなっただけではランクから上がらない冒険者ギルドにはがっかりだけどな」

「ギルド長に認められて、数段階ランクアップを夢見ていた感じ?」

「そんな夢を見たこともあったな」


 この世界のギルド長にそんな権限はない。やったら不正だ。監査を呼ばれて、不正の確証が見つかれば、犯罪者になる。

 町の出入りの度に使う物で、そんな不正をすれば目立つ。少々の賄賂をもらっても、そんな取引な応じるギルド長はいない。


 保証人の信頼でランクを上げたエイコの例をのぞけば、ランクアップは信頼を積み重ねた先にしかなかった。

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