幻獣の幼体
第66話
ぷにぷにした身体。爬虫類は嫌いだけど、妙に愛嬌のある翼のはえたトカゲ。鑑定すると従魔、アオイ。幻獣種、小竜の幼体となっている。
ふさふさ部分が頭のあたりの
この姿で最初からいたら、アオイなんて名前にしてないだろう。シロイになっていた可能性がかなりある。
ベッドで寝て覚めたら、アオイの姿が変わっていた。見間違いかと二度寝してみたが、雛の姿をしたアオイはどこにもない。
小さな手を取りムニムニしながら観察すると、可愛らしい見た目に反して爪はゴツイ。頬をつついて口を開けさせると牙らしい物もある。
「ごはん、何食べるんだろう?」
肉食なのだろうかと、考えていたら声がした。
『今までと一緒で大丈夫』
「アオイ?」
スリッと顔を寄せてきて、ペロッとなめられる。痛くはないけど、舌はちょっとざらついていた。
鬣はふさふさで、しっぽな長く、指を向けると小さな出てぎゅっぎゅっと握ってくる。金色な瞳はなんか賢そうで、じっとエイコを見つめてきた。
『着替えして、ご飯にしよう』
アオイにうながされ、身支度を整えるとエイコは一階に降りる。二度寝したせいか、すでにユウジが昼ごはんの準備を初めていた。
この家のキッチン使用率は、男の方が高い。エイコは錬金術か調合盤でしか食材を扱うつもりがないし、メイはお菓子作り以外は得意じゃなかった。
カレンはできなくはないが、得意というほどではない。料理が得意なクリフか料理が趣味のユウジに任せておいた方が美味し物が食べられる。
エイコとショウはキッチンでがんばってくれなくていいとも言われていた。
スープとサラダとバケットを用意して、ユウジがカウンターにエイコを呼ぶ。もう少し待っていると、ビザが焼き上がるそうだ。
「飲み物どうする?」
「何かお茶下さい」
冷蔵庫で冷やされていた何かの香草茶が出てくる。すっきりとしたお茶で、気持ちよく飲めた。
「その肩いるの何? 増えた?」
「増えてない。アオイ。名前をシロイにしておくべきだったか悩むよね。こういう変化されると」
エイコは収納の腕輪から保存容器を出し、アオイにドライフルーツを食べさせる。
「おっ、肉食じゃないのか」
手渡しすると口をあけ、お皿にのせてわたすと両手に持って食べる。
「手の指五本だから、カトラリー使えるのかな?」
『使えるよ』
ただし、食べるのは主が作った物だけ。パンなら錬金術で作れるので、それをフレンチトーストにしてもらえばカトラリーの出番はあるかもしれない。
あとはリキュールとドライフルーツを使ってお菓子を作ってもらうくらいしか、エイコには思いつかなかった。でも、つかえるなら、カトラリーは作ってあげようと思う。
ピザが焼けた頃、メイとカレンがやってくる。他の人はお出かけ中で、昼ごはんはいらないそうだ。
カウンターに並んだ三人にユウジはピザを八等分して、一ピースづつ取り分けてくれる。
「雛から竜になるの?」
「かわいい」
メイは不審そうにしていたが、抜けたら鬣が欲しいそうだ。カレンは触れようとして、小さな翼でパタパタ飛んで逃げられる。
冷蔵車でリクシンとダジアがミルクを確保しており、リクシンからエイコが、ダジアからカレンが購入していた。おかげで乳製品が食事に並ぶことが増えている。
現在、昼食にピザと冷麦とざるうどん率が高い。朝、ヨーグルトを食べることもあるし、お酒のつまみにチーズを欲しがられることもある。
ピザを一ピース食べると次のピースをユウジがとってくれた。ユウジはキッチンで食べており、焼き上がったピザは四枚ある。
急いで食べなくても、足りなくなる事はない。ゆっくり食事をしつつ、アオイをかまう。
「カレンは土作りで石膏も作れる?」
「たぶん作れるはず」
「それでアオイの型取れる?」
エイコ以外の人の食事の手が止まる。おそるおそるカレンが確認をしてきた。
「アオイで型をとるの?」
「空気穴あけといたら、どうにかならない?」
「そんな虐待はやめよう。アオイが怯えてるてよ」
天井近くまで飛び上がり、アオイは降りてこない。
「ゴーレム。翼が有れば飛ばせそうなんだけど、上手く形にならないから、ちょうどいいかと思って」
竜よりガーゴイルで試してみたかったのだが、そういう造形物を作るのにエイコは向いていなかった。
図面や幾何学模様ならいいのだが、動物というか生き物系は向いていない。
造形だけならエイコ本人が作らなくてもいいとわかると、カレンが作ると言いだす。何か見本になるものがあればと、困っているとユウジが試しに描いてみると請け負ってくれた。
ゴーレムは農機具ではない。門番や警備や警護といったものに使われるのが主流だ。土を掘り返したり、草を刈ったり、大きな空箱持って収穫物を運ぶのは正しいゴーレムの運用ではないはず。
錬金術の本によると、乗り込み型ゴーレムもあるらしい。
異世界らしく夢のあるゴーレムは、トミオの要望で、シャベルカーやクレーンなんかの重機変わりにもさせられる。そんな物を試行錯誤するより、エイコはガーゴイルを空に飛ばす方がいい。
必要性や利便性ばかりを追求するほど、エイコは合理的ではなかった。
虐待されないとわかると、アオイは降りてくる。ちょっと警戒しながらドライフルーツを手に取っていた。
「ドラゴンのゴーレムも作れるみたいだけど、ガーゴイルより難易度が高いかも?」
本のレシピ順を考えると、難易度が高そうだ。でも、見本のあるドラゴンの方が作りやすそうではある。
『ガーゴイルにしよう。作るの手伝う』
同じフレーズを叫び、アオイは天井近くを飛び回る。よっぽど型取りされたくないようだ。
食後のはカレンに土を出してもらって、ゴーレム作りをする。
空が赤く染まる頃、出かけていたメンバーが帰ってくる。
「おかえり」
「ただいま」
にこっと笑って、クリフは視線をエイコの肩あたりに向けた。
「ついに幼体になったか」
「そういう仕様なのか?」
夕食の準備中のクリフの呟きに、帳簿をつけながらトミオが問う。
「雛の間に主を見て、望まれる姿になると言われているね」
「なら、エイコがドラゴン好きってことか?」
「好き嫌いではなく、必要な能力や、主の欠点を埋めるかたちになる。そのせいで、主の希望からかけ離れた姿になることもあるらしいよ」
戦場で勇ましく駆け巡る騎獣を望んだ主に、頭脳特化の説教くさい愛玩魔獣が現れるとか、いじめられても仕返しするなんて考えることもない温厚な主に、魔物を狩りまくれる凶暴な魔獣がつくとか、本人希望から大きく外れることは多いそうだ。
「なら、この従魔はエイコの何を埋めるつもりだ?」
『警戒心なさと生活能力のなさ』
トミオの疑問に従魔自身が答える。
『警戒心が足りないから、代わりに警戒して有害なのは退治する』
それは便利でいい。
『ポーションは食事の代わりにならない。食事が面倒だからとポーションで済ましたらダメです』
自作の不味いメシよりはポーションがマシ。ケガをしてなければ、栄養ドリンクみたいなものだ。身体に害はない。
『考え事していると階段から落ちる。物にぶつかって青あざもつくる』
この従魔の発言はプライバシーの侵害だ。
「ケガしてポーション飲んだら、ご飯もすませられるわ」
何の問題もないと、エイコは言いきる。誰も同意してくれなかった。
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