第65話
手続きが終了したと、リクシンが訪ねてきた。首輪はどこでも外せるが、町の外で外すと奴隷時に登録しているギルドカードが使えなくなる。
ラダバナの中へ移動し、移動する獣車の中で首輪を外す。
「簡単に外れるんですね」
「そういうスキルだからぁ」
リクシンに引率されて、冒険者ギルドに行く。エイコのギルドカードから奴隷を削除してもらい、カレンは通常のギルドカードに戻る。
手続き担当者に、カレンはポーションを作らないかと誘われていた。リクシンにも勧められ、素材は冒険者ギルド負担でカレンは作ることを決める。
それを待つ間に、エイコは冒険者ギルドにポーションを売り、それと同数のフレイムブレイド用のポーションを冒険者ギルドで預かってもらう。
フレイムブレイドが依頼を出して、エイコが納品というかたちになっているので、冒険者ギルドに同じだけ売る必要はない。ただ、冒険者ギルドにまったく売らないのは心象がよろしくないそうで、同数は売るようにしていた。
冒険者ギルドを出ると商業ギルドへ向かう。どうやらリクシンはカレンを商業ギルドに登録させるために、ポーション作りをさせたようだ。
生産職は登録しておいた方が、無難らしい。
エイコはリクシンとの取引状態と仮納税状況を記した、役所発行書類を提出するとEランクになった。Dランクになるには取引額は十分でも、ギルド登録期間が足りない。
ランクが上がったことで、新たに購入できる物が増えた。現在取引可能な物のリストを見せてもらい、錬金術の練習素材になる物を買って帰る。
錬金術の練習素材には食品も含まれており、酒の原料になる物は多めに購入しておく。基本、男どもは金より酒だ。
麦でビールやエールが作れるとバレてから、欲しいアピールされている。夏にはビールがいいらしい。
庭でバーベキューをすればキャンプ気分が味わえるとか、ビアガーデンぽい雰囲気を作りたいとか、酒を飲む理由を語っていた。
元成人男性の要望なんて知らないが、農業用ゴーレムの試行には近隣住民の協力があった方がいいし、近隣住民とのお付き合いに酒は有用らしい。
なので、安い材料を買い集め酒を作っておく。
芋で作るなら酒より、焼き芋や干し芋がいい。果物酒やブランデーよりジュースがいいし、日持ちさせるならドライフルーツでいいとエイコは思う。
お酒を美味しく飲まないと、お子様扱いしてくる風潮も嬉しくない。
酒造元を不機嫌にさせるのは良くないと、最近はクリフにトミオたちがカクテルを教えている。その成果の一つとして、エイコにノンアルコールカクテルが用意された。
これはリキュールが作れるのもバレたのたろうか。ただ酒の種類を増やしたいだけなのか。
エイコはリキュール用に、そっと砂糖も購入量を増やす。
買い物をしたら明細書をもらう。これだけは忘れたらダメだとパトスにしつこく言われていた。
売り買いした時の情報を残すのは、大事なことらしい。
ギルド関連の手続きが終わると、ダジアの家に向かう。ダジアの奥さんはずっとカレンが奴隷でなくなるのを待っていたそうで、首輪がなくなった姿を見せに行く。
庭に面した風の抜ける部屋で、カレンが客として席についた。それをダジアの奥さんは喜ぶ。白髪の混じる老齢のご婦人なのに、その姿はどこか可憐で、無邪気さを感じさせる。
カレンの作ってきた焼き物をにこやかに受け取り、カレンの苦労をよく頑張ったと褒める。いい人なのだろうとは、エイコも思う。けれど、金持ちの道楽と粗探ししたくなるくらいには、合わない。
当たり障りのない表面的な付き合いなら、がんばればできる。けれど、そこまでして付き合わなくてもいい相手だ。
この人がお世話したいのはカレンで、エイコじゃない。次からは一緒に来ないときめて、静かにしておく。
「こっちのと商談したいんだがぁ、カレンの方はまかしてもいいかぁ?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
リクシンに連れられ、エイコは席を立つ。そのままお隣の家に移動した。
「お茶会は苦手かぁ?」
「そんなにわかりやすかったですか?」
「直感だぁ」
「そのスキルずるいです」
「エイコの職業ほどずるくねぇよぉ」
魔導具師の下位互換に魔導具士という職業があり、さらにその下位互換に魔道具師がいて、魔道具士がいる。その下には道具士なんて職業もあるそうだ。
「勇者ほど希少ではないがなぁ」
小国だと一人いるかどうか。大国でも数人しか存在しないそうだ。
「陶芸家は?」
「大国でも二桁だなぁ。三桁はいない。奴隷商は三桁はいるがなぁ」
鑑定スキル持ち相手にはしかたないが、錬金術師に誤解させるといいらしい。ただし、自分で錬金術師を自称するとウソのわかるスキルに反応するからダメだそうだ。
付与魔術師よりは錬金術師の方が多くて、魔導具師は付与魔術師より希少な存在だと教えてもらう。
「酒はぁ、売らないのかぁ?」
「贈答品専用にしておきます。お仕事を頼むとお金よりお酒を欲しがられますから」
年月をかけて熟成させたほうがいいらしいし、お酒は余るほどあった方がいい。
「食べ物がなくなるほどぉ、酒をつくるなよぉ?」
「それは酒飲みたちに言ってください。わたしは果実酒よりジュースかドライフルーツがいいです」
エイコはレシピを試した時以外は、果物をお酒の原料にはしていない。酒を飲みたい奴らが提供してきた分をお酒に変えているだけだ。
食材提供が多いのはトミオとクリフ。この二人は冒険者ギルドも利用して、食材を集めている。
冬場は食材の供給源がダンジョンしかない。吹雪けばラダバナとダンジョンの行き来も難しくなる。そのせいでどうしても冬場は食材の値段が上がってしまう。
食材を買い込むなら今だと、彼らは語っていた。
「ミルクと酒ならどっちが好きだぁ?」
「ミルク」
「ミルク一〇本と酒の材料で、蒸留酒一本でどうだぁ?」
「今すぐあるなら作りますよ」
提案してきただけあって、ミルクも食材もすぐに出してくる。
「砂糖も欲しいです」
とりあえず、芋焼酎と麦焼酎を作る。それからブランデーを作って、砂糖を出してくれたのでリキュールも作った。
「手慣れたもんだなぁ」
ミルクは三〇本だったので、まず三本渡す。残った半分エイコがもらい、残り半分をリクシンに安く売る。
「お酒作るより、お酒の入れ物作るほうが大変なんですよね」
樽のレシピ覚えたから、樽に入れた物もあるし、焼酎系はカレンにそれっぽい容器を作ってもらっている。
だだ、贈答用だと容器にもこだわらないといけないらしい。
「ガラスの素材って、どこで買ったらいいですか?」
基本、ガラスの素材は封入瓶にしてポーションなんかの薬を入れるようにしていた。そにため、残していたのは新レシピ用で、量が少ない。
「少量ならぁ、冒険者ギルドでもぉ、商業ギルドでもいいがぁ」
「それなりに欲しいです。買った錬金術の本に色ガラスの作り方があったので、試作したい」
「ガラスはガラスギルドがあるからなぁ、大量に欲しいならガラスギルドだがぁ、ギルド会員以外に売ってくれるかどうかぁ」
今日は時間があるからと、リクシンに連れられてガラスギルドに向かう。ギルド会員より高値で、ちょっとしか売ってくれなかった。
商業ギルドに向かえば、ガラスギルドと似たようなもので、買うだけ買って冒険者ギルドへ行く。
ガラス素材の依頼を出して、依頼が達成される日を待つことにした。
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