首輪を外す
第63話
元の世界より、この地域の夏は過ごしやすい。湿度が低いので、日陰に入れば涼しかった。
それでも、太陽の下は暑い。おかげで冷蔵庫、冷凍庫、製氷機はよく売れている。
エイコが作るのは魔導具部分だけで、外側のは作ってない。中身だけ作って、リクシンに卸していた。
トミオはいつのまにかもやし栽培を始めており、日々卸先を増やしている。この辺りにもやしを栽培している農家はないそうで、冒険者ギルドで依頼購入している豆が数十倍の値をつけて売れるそうだ。
地下室で栽培してるので天候に左右されることもなく、栽培期間も短い。ダンジョンに行く必要がないくらいに儲けているそうだ。
けれど、週一回はダンジョン通いをしているらしい。
メイは針子が見つからなかったので、売り子を雇って開業した。おそらく、妥協に妥協を重ねて、作業服専門店のようになっている。
店の場所を考えれば、オシャレより実用性が求められてしまう。トミオ監修でエイコも農具を錬金術で作っている。
鍬と鎌とシャベルと三叉で、トミオは水門の手直しするついでに派遣されて来ている兵にシャベルも売り込んでいた。
ここ、特許なんてないので、直ぐに真似はされるが、設計図は買い取ってもらえたらしい。
水門も、なんとなくで作ったエイコとは違い、元の世界で土建業だったトミオは地形を考慮した図面が描ける。
ときどき応接室で難しい話をしているようだ。細い事を聞かれてもエイコは答えられないし、必要に応じて現物納品はしている。
元の世界で営業だったらしいユウジとショウは周辺農家及び村にシャベルの売り込みをしている。
もやしは生産量に合わせた売り込みが終わったので、今はシャベル推しだそうだ。
シャベルは持ち手が木の棒のせいか、棒や槍のスキルが使えるらしい。シャベルの先を金属で作った物は斬る系や刺す系のスキルが使えるため、武器にもなると売り込んでいる。
使い方によっては盾スキルも使えるらしく、農作業中に魔物が出ても安心な万能武器らしい。農家の後継だと、戦闘職でも冒険者にならないそうで、スキルが発動する道具があれば身を守れるそうだ。
「この世界、クーリングオフないんだよね」
販売責任や製造責任もない。いい世界だと爽やかに笑うユウジがとっても胡散臭かった。
よそと差別化するために、農具には麦のロゴマークを入れている。ユウジは美術系の学校を卒業しているそうで、カレンの絵付けも手伝っているし、メイに色彩アドバイスもしているそうだ。
ショウはもやしのルート営業をしつつ、調理場で帽子やエプロンの必要性を語っているそうだ。その手の商品を作っているのはメイで、カレンの作ったお皿や壺も見本用に持ち歩いているらしかった。
ショウが聞いてきた情報を元にメイとカレンは作る物を修正していく。
できるのことで協力しつつ、各々収入を増やしていた。
「わたしも何が新しいことするべきかしら?」
リクシン以外の魔導具の卸先を探すとか、お店経営してみるとか、何かやるべきだろうか。
八月は冒険者ギルド主催でオークションがある。預けていて商品がやっと現金化するので、何かする元金にはなるはず。
「やめよう。付与アイテムや魔導具の店なんてこんな畑の真ん中でやったら強盗が来るよ」
クリフにお金があると思われたら店だけでなく、家の方まで襲撃されるといわれてしまった。
「屋台料理と作業服店の隣に高級品店はあわないよ」
たまにしか店を開けていないクリフはともかく、メイの店と並べらと互いに足を引っ張ると言われてしまった。
どうしても店を持ちたいなら、客層的にラダバナの大通りかその周辺でやるべきらしい。
「しばらくリクシンのとこで独占販売して、価値を高めるのも手だ。売れている物はすぐに類似品もできるからな。いつまでも売れると思うのは危険だ」
常に商品開発する必要があるし、新商品は必ず売れるわけでもない。
みんなで夕食中にトミオに諭され、新しく作れる物をエイコは考える。
「ゴーレムって、売れる?」
やっとレシピ一〇〇枚集めた結果、作れるようになったのはゴーレムだった。土や泥でも作れるが、石やレンガでも作れるので、カレンに耐熱レンガの素材になる土を作ってもらっている。
「ゴーレムって何に使えるんだ?」
「まだあんまり複雑な動きはできないよ」
「歩けて力が強いなら、牛や馬に引かせる農具を引かせたらどうですか? 販売より、レンタルで」
「荷運び用でもいいな」
営業担当になるであろうユウジとショウがやる気だ。明日から畑で実験することにする。
「上手く行動制御できるなら、寒くなる前に染色用のゴーレムもよろしく」
今の時期の水洗いはいいが、冬場は大変か。可能であれば、メイの要望に応じることにする。
安定した生活に、週一でいく難易度の低いダンジョン。ダンジョンへ行った方がスキルが使いやすくなる感覚があり、まったく行かないという選択を選べない。
食事にも寝る場所にも、もう困らないし、貯蓄もできている。このままなら、ほどほどの生活を送るには困らない状態にはなった。
ゆとりができたからこそ、カレンをどうにかしたい。今のままカレンがどれだけ稼いでも、この地の法律ではエイコの資産になってしまう。
リクシンに相談の手紙を送れば、人を連れて訪ねるから、カレンになるべくたくさんの商品を用意させるように指示があった。
しっかりと準備して、出迎える。
リクシンは何人もの部下とダジアを連れてやってきた。応接室に案内し、エイコは対面に座り、カレンは背後に立つ。
お茶はクリフが淹れて、出してくれた。
「まずは商談だ」
用意していたカレンの焼き物を見せていく。
ティーカップや絵皿を中心に用意している。ティーカップはスプーンもセットになっている物やトーストがのせらるくらい大きな受け皿の物も作っていた。
変わったとこだと蓋付きマグカップで、茶漉しがついておりマグカップでお茶が淹れらるようにした物もある。
エイコとカレン共同作品になると、絵の代わりに魔法陣を描いた物で、魔石を魔法陣の上に置くと効果が出る物もあった。これは成功率が低く、まともに効果のある物が少ないが、成功した物は状態保存される。
温かい物はいつまでも温かく、冷たい物はいつまでも冷たく食べられるようにしていた。今回、そんな数少ない成功品を見せる。
リクシンがいくつか買い、残りの大部分をダジアが全て買ってくれた。
テーブルの上に札束が置かれる。
「これは商品の代金だぁ。奴隷の物は主の物ぉ。この原則はぁ、覚えているなぁ?」
コクリとエイコがうなずく。
「どれだけ売り物を作ってもぉ、奴隷の取り分はない。だからぁ、借金奴隷はなかなか解放されないんだぁ」
「商品代金は主の物だが、奴隷がお金を手にする方法もある」
ダジアが札束を一つ取り出す。
「恩賞と援助金。恩賞を出せるのは主だけだが、援助金は理由が有れば誰でもいい」
作風を気に入った陶芸家に援助金だと、ダジアが告げる。
「これで借金額と売値をを超えているからぁ、奴隷解放手続きするよぉ」
手続きをすると、手数料が発生するが、その分もダジアが出してくれている。手数料がたりないと、足りない分期間奴隷になるそうだ。
「カレン、庭燃やしたあげく、奴隷解放まで面倒見てもらうって」
「わかっているから、言わないで!」
エイコに向かってカレンは叫ぶが、ダジアに向き直ると深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。感謝します」
リクシンは淡々と書類を用意し、お金を分けていく。借金分の受取人はダジアで、回収された借金の一部が手続きを行うリクシンの取り分になる。
手続き費用は手続きに使うので、リクシンの取り分ではなかった。
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