第62話
何事もなく、転移魔法陣を使ってガチャボックスの前まで戻る。
幼い子どもはメダル分けてもらえなくて、男は移動を優先さしてモンスターを倒していなかった。
エイコは先にガチャさせてもらう。相変わらず薬草系が多い。果物は何個か残してまたドライフルーツにしよう。
ここのダンジョンもミルクが出るようだ。チーズがあるならピザを焼くと言っていたから、これはチーズにしよう。
アオイにおやつにされないように、気をつけておかないといけない。
一/一〇〇レシピファイルが出た。メダルを全部使っても一二までしか増えない。
「またダンジョンに一緒に来ようね」
しばらく通えば集まると、クリフが慰めてくれた。
ガチャが終わるとダンジョンを出る。男と子どもは仲間が出て来るのを待つそうだ。
ダンジョンから出ると空はまだ青い。
「日が長くなったね」
冬ならもう夜になっていると教えてくれた。
日が長い分、関所を通過できる時間も長い。なので、夏は冒険者にとって稼ぎ時らしかった。
今からでもまだラダバナには入れると手を引かれ、街を散策しに行く。買い物したり、食べたりしていたら閉門時間をすぎていた。
木の実の森ダンジョンには週に二回、一泊二日か二泊三日で通っている。元の世界の夏よりは過ごしやすいが、夏はやっぱり暑い。
年中気温の変わらないダンジョンの方が過ごしやすく、入り浸りになっている。ときどきラダバナの街にいる事もあるが、少しずつレシピファイルの集まってきていた。
「ダンジョン、家よりよく寝れるんだけど、なんかそんな効果あるの?」
「このダンジョンにそんか効果はないよ」
自分たち以外に、ダンジョンで泊まる冒険者がいないからかもしれない。
午前中に一〇層からから一三層の攻略をして、昼休憩。同じことを午後にもして、終わったらおやつ休憩。それからまた攻略に行って、終わったら夕食にする。
隙間時間にちょこちょこ何かしら作って、三枚の金貨メダルと一五〇枚近い銅メダルを二人で分け合う。
最初は半分ずつにしていたが、エイコがガチャした方が定番の物が出ない分食材が多様だと、クリフは銅メダルをガチャしなくなった。
クリフは悩む。彼女という存在とどこまで情報を共有するべきなのだろうか。
仕事の守秘義務のあるものは当然話すつもりはないが、それ以外はどこまで話すものなのだろうか。
例えば、このダンジョンで初日に会った子どもたちの集団。死者は出なかったが、ケガ人は出たようだ。
逃げ道はあるのに挑んだ人たちのケガなんて自業自得。そんな人のたちだから、見捨てるようにエイコを誘導した。
クリフは後悔もしてなければ、痛む良心もない。邪魔な情報としてエイコに知らせようとも思わない。
女は情報源としか思っていなかった。そのせいか、情報は得るものであって与えるものではなく、考えれば考えるほど何を話せばいいかわからなくなる。
「ダンジョンにいると眠い」
そう言ってエイコは夜長々とテントで眠る。こんな人気のないダンジョンで寝ずの番なんていらない。クリフが仮眠をとりつつ警戒していればいいので、寝るのはいいとする。
問題はアイツだ。
エイコの影から出てる従魔の雛。コイツはもう、なんらかの幼体になっていいはずなのにいつまでも雛でいる。
そして、エイコがやたら眠る原因にもなっていた。こいつがエイコの魔力を大量に吸い上げて、軽い魔力欠乏症にしている。
よく寝ているというか、半分気絶のようなものだ。そうしてこいつは夜な夜なダンジョン攻略に行く。
従魔が単体でダンジョン攻略できることを、クリフは初めて知った。
しかもこの従魔、金メダルしか興味がないようで、銅メダルは全部クリフによこす。会話はできないが、口止め料ではないかと思っている。
そうしてこいつはが金メダルを嘴で加え、ガチャボックスに入れ、レバーの上に止まってガチャっとやると必ず卵型の物をが出てくきた。
クリフが鑑定できた範囲では、スキルの卵や進化の卵となっている。で、コイツはそれを毎回その場で丸呑みしていた。
ほぼ自分の身体と同じ大きさの物をよく飲み込めると、感心してしまう。
そうしてまた、こいつはダンジョン攻略に行く。メダルを影にしまい、ダンジョンボスの復活を待つ間に銅メダルを集め、ダンジョンボスを倒すと金メダルを持って帰ってくる。
エイコの寝ている間に毎夜四回ほど攻略を行っており、クリフエイココンビよりよほど優秀な冒険者をやっていた。
パトスがムダに戦闘職でなければ、夜中にこっそり来てもらい、ヤツの丸呑みする卵を鑑定してもらいたい。
前に、パトスが鑑定した時は幻獣の雛となっていた。従魔の卵から生まれるのは魔獣の雛か幻獣の雛で、幼体になるときに種族が決まるらしい。
雛の間にご主人さまと過ごし、ご主人さまに合った種族になるとウワサだ。愛玩すれば愛玩用になり、移動が多いと騎獣や獣車に使える種になりやすい。
何事にも例外はあるが、エイコはアオイを可愛がってはいるが、愛玩まではしていない。勝手に魔力を食べているからと、催促されなければ食事は与えていなかった。
魔力的には溺愛の域にいるかもしれないが、それはエイコの意志ではなくヤツが勝手に奪っているだけだ。
冒険者としもそれなりにダンジョンにはいるが、騎獣が出るだろうか。冒険者や行商人には出やすいらしいが、何よりも熱心に行っているのは付与魔術か錬金術のはず。
そうすると、手先の器用な種がくるかもしれない。
エイコがレシピを集め終わるまでに、従魔のダンジョン攻略も終わるだろうか。終わるなら、従魔の行動を秘匿したままでいる。
話さないと決めたことはたくさんあるが、話すべきことは上司がアルベルトであることくらいしか思いつかない。
それに、長々と過去の話をしてもエイコが聞くとは思えなかった。
「お前、あの子の何がいいんだ?」
報告に顔を出せば、パトスが不思議そうに問いかけてくる。
「僕がいなくても生きていけそうなとこ」
現在の仕事は危険度は高くない。けれど、クリフは死ぬのも仕事の内だ。旦那がいないと生きていけない女や稼げない女では困る。
「僕の料理を本気で求めてくれるのもいい」
高価な魔導具なら自分で作るし、宝飾品にしても自分で作るか買う。エイコに求められるのは食事ばかりだ。
料理師の職業を持つ者として、料理を求められるのは何よりも満たされる。
「本気なんだな」
面倒な女。そう思っているパトスは、納得はいっていないが、そういうものだと受け入れていた。
「陞爵の話が出ている」
誰についてのことか、クリフは直ぐにわからなかった。パトスの次の言葉を聞いて理解する。
「付与された大量の耐性アイテム。囲い込みのために一代貴族にしてはどうかという意見があるそうだ」
この手の話は話だけで終わることが多い。現状、囲い込みできているので、立ち消えになる可能性が高そうだ。
エイコが警戒した相手は、耐性アイテムがないと狂信者のような支援者を量産している。移動の先々でお披露目をやったばっかりに、後始末が大変らしかった。
浄化アイテムを増やせないかと問い合わせがあったが、エイコまで話はいっていない。作れる人は他にもいるのに独占しすぎはよくないそうで、上司がよそへ話を持っていている。
上司は評価を得たが、首都へは戻れない。左遷されて喜んだ首都勤務の連中が、逆恨みしていそうだ。
美味しい料理に快適な空間。エイコの求めるものは微笑ましく、権謀術数からは遠い。
わがままなほど素直なのが、自分にはいいようだとクリフは自覚した。
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