第60話
一〇層に入り、少し歩いたところでクリフが足を止めた。つられるようにエイコも足を止める。
「木の上にモンスターがいる。どこにいるかわかる?」
魔力感知でモンスターの場所は知れる。
「背後に回り込まれると厄介だから、見つけたら魔術使って倒してみて。ダメそうなら僕がやるから、気楽にね」
火の矢にしてサルみたいなモンスターを倒す。
「最初から矢にしたか」
火弾だと速度が遅いので避けられるらしい。エイコは枝が障害物になっているので、火弾より細身の火の矢にした。
攻撃速度や避けらるなんてことは、まったく考えていない。
「銅メダルを稼ぎだいなら、木の上のモンスターを残して、木の実のモンスター投げてもらったらいいよ」
失敗すると大変なことになるが、ミスったら次の層か前の層に戻れるところでやると最悪の事態くらいは回避できるそうだ。
カレンぐらい攻撃力があるなら、モンスターをいっぱい集めて火柱でドンッとやった方が効率がいい。
慌てることなくサルモンスターを倒し、上にばかり意識を向けていたら忍び寄ってくる草モンスターを剣で切る。
「フレイムブレイドは冒険者の先輩としてはいい人だね」
「死なないようには配慮してくれましたけど、痛いで済む範囲は助けてくれないから」
「おかげで罠もモンスターの位置もわかるんだね」
甘やかしてはくれないが、必要な技能は教えてくれた。あっちも生産職の相手なんて手探りだったのに、ここのダンジョンくらいならソロでも大丈夫だと思える。
よっぽどの事がなればソロ活動はしないし、やるとしても星一つのカムカムボールダンジョンでいい。
「ちょっとのケガなら痛い思いして覚えろって人だったから。痛いから休憩中にポーション飲もうとしたら、ダンジョン攻略で得る利益がなくなるって怒るし、大変だった」
苦労した分、身にはついた。
「そこは作れる冒険者と買うしかない冒険者の差だね。料理もちょっとしたケガなら治る物があるんだ。ダンジョンレシピとダンジョン素材がいるけど、自作すれば安いから」
「美味しい?」
「素材によるかな」
食事としてありな物から、薬だからとがんばって食べる物や、死にはしないなら食べるのを拒否したい物までいろいろあるそうだ。
「美味しい、そのうち食べたいです」
「不味いのなら残ってるよ?」
不味いのかぎって日持ちするらしく、保存食の一種として常に所持しているそうだ。
「イヤー、美味しのがいい」
「料理レシピもかなり使いどころのわからないのがあってね。不味い飴レシピが、味を変えて複数あるんだよ」
覚えたからには作ってしまうのが生産職。けれど、不味いのドリンクはまだ一気飲みすればどうにかなる物が多いが、飴はきついそうだ。
捨てるのも抵抗があり、一回の料理で複数できることもあって、在庫は豊富らしい。
「がんばって利点を探すと、眠気覚ましになるかも。欲しくなったらいつでも言ってね」
にこにこといじめてくるクリフに拗ねていると背後から近寄ってくる気配があった。クリフに肩を抱かれ、道を開ける。
「あんたら子ども見なかったか?」
「このダンジョンなら大人より子どもが多いだろ?」
「冒険者じゃない連中が集団で奥に行っちまったんだ」
走ってきたらしい、息切れしている男の対応はクリフに任せる。話している間にさらに中年の男が二人増えた。
「あー、あの迷惑集団か。一緒なるのが嫌で僕ら
「あんたら、子どもを見捨てたのか?」
「子どもとはいえ魔術が使える子がいるなら、関わるとこっちが危ない。ちゃんと教育してれば八層までて帰っているだろ? 準備もなく一〇層を超えるのはバカだ。そんなバカの巻き添えで死にたくはない」
激昂した者もいたが、すぐに他の二人に止めらる。
「腰抜けがっ」
クリフに向かって捨てゼリフをはいていく。三人には再び駆け出して行った。
「蛮勇な彼氏より、一緒にいてくれる彼氏がいいです」
「ありがとう」
魔術を使える子が魔力切れにならなければ、子どもの集団とはいえダンジョンの完全攻略もできる。それが変な自信になってしまうと良くはないが、かならず不幸が訪れるとはかぎらない。
エイコたちは急ぐ事もなく一一層に入り、順調に攻略を進めていく。ここからはダンジョンボスまで新しいモンスターは出ない。
奥へ行くほどモンスターの数が多くなったり、連携が良くなったりするだけ。落ち着いて対処していけばなんの問題もない。
「メダル狙いなら一一層からの方がいいね」
「今度来るときはそうしようか」
サルモンスター、リスもモモンガも投げるのか。モモンガは滑空するから速度が遅いけど、投擲系の攻撃なら空中でも避けられる。
リスはしっぽを盾がわりにしているから、攻撃の仕方によっては一撃で倒せなくなっていた。
「エイコは手数多いね」
木の上のサルは火の矢。投げられるモンスターは剣、足元に忍び寄る草は火弾。これはほぼ同時に処理できるが、リスとモモンガでちょいちょいミスっている。
それでも慌てるほどのことはないが、余裕がなくなる前にクリフが処理していた。
まだ二人で連携して戦えるほどではないから、エイコの足りない分をクリフが補うかたちになっている。
運動量と魔力消費量が多いのはエイコだが、クリフはエイコより考えて動かなくてはいけない。ソロ冒険者のクリフからすると、エイコは共に戦うというより、まだまだ守る相手でしかなかった。
「階段見えてきた」
「休憩入れる?」
「大丈夫」
二人はそろって一二層へ向う。
「エイコの剣よく斬れるから、木の上にいるの以外は全部剣の方がいいかな」
モンスターは増えたし、剣を振らないといけない回数は増えたけど、モンスターを倒すという点では安定した。
モモンガが避けられても、剣の軌道変えればいいし、魔術はしっぽで防がれたが、剣だとしっぽごと斬れる。
「がんばれ〜」
ヒマになったからと、クリフが声援を送ってくれた。
あんまり嬉しくない。
一二層を越えれば後はダンジョンボス
のいる一三層だけになる。夕方には帰れるかと、攻略を進めていると遠くに騒がしい集団がいた。
冒険者はモンスターの横取りを嫌う。距離を取るのは冒険者として自然な行動だ、
「ポーション、出したらダメだよ」
エイコが視線を向ければにこっと笑う。
「一応言っておくけど、回復スキルも魔術もダメだからね?」
「回復スキルはもってないよ」
魔術はやった事がないが、水魔術でできるかもという感覚がある。
「必要なら僕が出す。だから、誰も救わないで」
柔らかい口調と優しい表情で、救うなと願うように助言された。その意味をエイコは考える。
ポーションが作れる事で優遇されるのと同じかと、なんとなく思う。エイコは本質的にはどちらも理解できない。ただ、対応を誤ると自らに危険を呼び込むと知っている。
足を止めていたら、サルのモンスターがやってきた。このサルを倒さないで、投げられるモンスターだけを倒してヒマつぶしにする。
ただ立ったているよりは銅メダルが稼げていい。
のんびりとすごしていたら、男が一人走ってくる。どうも三人いる男の中で一番動きがいいようだ。
そんな人がこっちに来れるという事は、あちらは別に危機的状況ではないのだろう。
対応はクリフに任せて、エイコはモンスター退治に専念した。
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