木の実の森ダンジョン 難易度⭐︎⭐︎

第59話

 数日引きこもり、生産活動に勤しんだので気晴らしに、ダンジョンへ行くことにした。一緒に行ってくれるのはクリフだけなので、生産職ダンジョンに歩いて行く。

 徒歩数キロの道のりを手をつないで進む。


 木の実の森ダンジョンのは全一三層で、二層ごと転移魔法陣があり、攻略しやすいとか、ガチャでは木の実が出やすいが職業によっては布や紙の方が出やすいなんて話を聞く。


 生産職とっては悪くないダンジョンなのだが、基本冒険者はラダバナの出入りに裏口は使えない。

 裏口が使えるのは使えるように登録をした人だけ。登録は紹介者がいるので、余所者の冒険者が使いたいと言っても登録させてもらえない。


 例外は裏口を使って町にやってきた村人が冒険者登録した場合くらいで、エイコはリクシンの紹介になっている。

 エイコは家と畑があるので紹介者になれる条件に足りており、家の住人はみんなエイコの紹介で登録していた。


 表の関所からラダバナの町を迂回すると、日帰りは難しい。行って帰ってくるだけで時間がかかり、ダンジョンを探索する時間の方が短くなる。

 そのせいで裏口がを使えない冒険者からは人気のないダンジョンになっていた。


 どんなダンジョンか語れるだけあって、クリフと一緒にダンジョンに入ると転移魔法陣がすべて光る。

 手を繋いでいられるのはここまでで、寂しく思いながら手を離す。


 獣道にそって歩いていけば次の層に向かう階段があるそうで、迷子になる心配はほぼない。モンスターも強くないし、見かけも怖くなかった。


 三〇センチくらいのどんぐりに短くて細い手足がついたモンスター。一層はこれしか出てこない。二層になるとくりバージョンも出てくる。

 三層で五〇センチくらいのリスみたいなモンスターが出て、四層でりんごと梨みたいなモンスターが出てくるようになった。


 どれも剣で一撃なので、どんどん進む。五層で動く草モンスターが追加になり、六層でモモンガのようなモンスターが追加される。

 木の上から滑空してくるこのモンスターに対応できれば、一〇層までは困らないらしい。


 午前中で八層まで攻略が終わり、ご飯にする。ご飯はクリフがみそ汁を用意してくれるので、エイコは周囲を警戒した。

 クリフにここのダンジョンくらいなら一緒に食べでも大丈夫だと言われ、並んで食事をする。

 みそ汁と塩おむすびと照り焼きチキンにおひたし。トミオとユウジ監修で作られたお弁当。おひたしが紫色している事以外は、エイコに不満はない。


「トミオたちは唐揚げにしたかったみたいなんだよね。薬味が足りないって、照り焼きになったけどさ」

「美味しいし、好きだけど、いつもこっちに合わせてくれなくても大丈夫だよ?」

「今、知らない料理覚えている最中だから、しばらくは米食です」


 炊飯器もらったから、パンを焼くよりおにぎりを作る方が楽だとクリフは笑う。


「炊飯器、役にたってる?」

「たっているよ」


 料理は手伝えないが、調理器具は役立っているようだ。なら、完全な足手まといではないはず。


 食事中、二度モンスターがポップして火魔術で倒す。立つのは面倒だったから闇手でメダルは拾った。

 食事して、のんびり休憩していると、森の中でピクニックにしているかのような気分になる。

 ピトッと体を寄せ、もたれかかるとクリフが楽しそうに笑う。


 特にダンジョン攻略は急いでいない。クリフが飲み物を出してくれ、紅茶一杯分、休憩時間は延長された。


 先行く人が舌打ちして階段を降りていく。人気のないダンジョンのではあるが、無人ではないし、生産職の子どもが一層や二層を遊び場にもしている。


 リスもモモンガも大きな口をしていないから、いきなり手足を食いちぎりはしない。かじられれば抉られるが、真っ当なポーションなら治る範囲だ。

 どんぐりとくりは木の棒や大きめの石を投げても倒せる事もあり、近隣の子どものお小遣い稼ぎにもなっている。


 そんな子どもらがどれだけ調子に乗っても八層まではこない。戦闘職種の子どもならともかく、生産職の子どもで奥までくるなら戦えるスキル持ちの場合が多い。


 子ども特有の高い声。火の玉が見えたから、火魔術のスキル持ちのようだ。一〇歳以下の子どもの集団が側を通って行く。

 怯えた顔の子どももいたが、十人を超える集団のごく少数なら反対意見も通らないだろう。


「何人か死にそうな集団だな」


 嫌なものを見たとクリフは顔をしかめる。

 どれだけ幼くてもダンジョンに入ったら自己責任。こんな星の少ないダンジョンでも、数年に一度は無茶をして死者や重症者を出す。


 大人に奥へ行ってはいけないと言い聞かされているはずだが、魔術スキル持ちがいて、集団である事もあって気が大きくなっているのだろう。


「もう少し、休憩していようか」

「うん」


 道から外れる事もできるが、わざわざそんな事はしたくない。ほぼ一本道のこのダンジョンでは、ある程度冒険者同士が間隔を空けていないと銅メダルが手に入らなくなる。

 知り合いの子がいるわけでも、助けを求められたわけでもない。冒険者同士なら後をつけて行くのは寄生攻略だと嫌われる行為でもある。


 だれもが子どもの見守りだと善意にとってくれるはずもなく、子どもから搾取するつもりだと悪意に満ちた見方をされかねない。


 クリフはちょっと時間のかかるスープを煮込むというので、エイコは金策用に魔鉄で何か作ろうと思う。

 最近チャームばかりだったから、ナイフを作ることにした。加工魔石ができたら一緒に持って行きたい。

 媒体がまだ作れていないので、いつ作れるかは未定だ。


 あんまり熱中しすぎると危ないが、モンスターのポップに気づいた時は魔術で処理している。エイコが気づかないとクリフが投げナイフで倒していた。

 クリフは倒すだけで放置するので、気がつけばエイコが闇手で投げたナイフや銅メダルを拾う。


「投げナイフってどのくらい持っているの?」

「百から上は数えてないな」

「作ったら使ってくれる?」


 スープ鍋を見つめていた視線をクリフはエイコに向ける。


「使うなら、もっと細身のナイフがいい。付与するなら刺突かな。属性ナイフもあると便利だけど」


 見本用に一本借りて、刺突付与したナイフを一本作る。クリフに渡すと、重心の位置についてダメ出しされた。

 五、六回やり直して、クリフはナイフについては細かい人だと知る。


「一本三万エルで一〇〇本よろしく」

「えっ、買うの? 一ダースプレゼントで考えてたんだけど」

「買うから作って」


 おねだりされて、エイコはコクコクとうなずく。完成形が一つ作れれば、錬金術は大量生産に向いている。

 耐熱レンガ作りで、同じ物をたくさん集ることにエイコは慣れていた。


 ナイフはすぐに出来上がるが、付与は一本づつになる。


 クリフのスープ作りが終わり、エイコのナイフ作りも終わると九層に向かう事にした。

 九層はモンスターの数が増えるくらいで、これといった問題はない。クリフから一〇層の注意事項を聞きながら進む。


 一〇層には木の上にいて、木から木へ飛び移るサルみたいなモンスターがいる。逃げ足が速くて、どんぐりやくりのモンスターを投げてくるそうだ。

 それなりの装備なので、ぶつけられたからといって噛まれることはないが、装備が整ってないととても危険だ。


「腕で払って地面に叩きつけたら、投げられている方のモンスターは倒せるよ」


 だだ、無防備な顔に当たるとなかなか悲惨なことなるし、髪に食いつかれたらぶら下がられるので地味に痛いそうだ。

 髪の毛は帽子の中にしまい、首には硬い布をストールのように巻いて端の方は服の中にしまう。


 クリフに確認してもらいながら、しっかり準備をして、一〇層に向かった。


 


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