第57話
布や糸も専門に扱う通りがあり、店によって得意としている物が違っていた。そしてエイコとメイも欲しい布が違っている。
エイコとクリフ、メイとトミオで分かれて行動することにした。
エイコが欲しいのは騎獣服に使える物と簡易住居に使えるもので、どちらも丈夫な布になる。クリフに連れられて奥の方にある店に入った。
レシピで必要な布を探しているといえば、本のようになっている見本を持ってきてくれる。
「布の特徴はわかっているのか?」
「分厚くて重くて通気性が悪いのと、硬くて通気性が悪いの」
「それはまたどえらいレシピ引いたな」
「革でも似たようなの探さないといけなくて、集められるか心配」
革も少しは扱っていると出してきてくれた。
「条件に合いそうなのはこんなもんだ」
鑑定すると、出してくれた七枚のうち五枚が当たりだ。五枚とも確保することにする。
「そんなに何枚もいるのか?」
「一回で成功したらいらないかも。こっち、二枚に品質に劣化ってついてるなら、そうそう買い手もいないんでしょ」
「まあな、ウチは革屋じゃねぇからな」
布の方も該当品がいくつもあったので、値段交渉はクリフに任せた。一万エル札の束を二つカウンターに置いて、交渉する。
値下げに応じないと、劣化品の革をクリフは買うものから減らそうとしていた。
その二枚、なくても大丈夫だが、素材としては面白そうではある。
値段が確定すると、買ったものを収納の腕輪にしまう。クリフと手をつないで店を出た。
「まだ欲しい物ある?」
「革は柔らかい物もほしい。布は普段使うものが欲しいけど、メイに任せた方がいいかも」
「好きな布だけ確保してもいいんじゃない? メイがダメでも持ち込みで注文もできるから」
「あっ、糸。糸がいる」
買ったのか特殊な布なら、普通の糸ではダメだ。普通の布を見るより先に糸屋に連れて行ってもらう。
糸屋は糸以外まったく置いてない店と、リボンやレースを置いていたり、毛糸を扱っていたりする。あと、ハンカチとかを持ち込むと名前刺繍とかもしてくれる店もあるようだ。
硬い布用の糸は太いものが多く、金属のように見えるものまである。どの店も種類は多くないため、あるかないかの判断は直ぐについた。
六軒目でレシピど合致する糸が見つかる。同系統の糸はほかにもあると出してきてくれ、全種類購入を決めた。
そのまま勢いで買おうとしたら、クリフに肩を掴まれ、そっと後ろに下げられる。クリフを見上げると、にこっと笑う。なんか圧があったので下がると、値段交渉してくれた。
クリフが有能だとときめいていたら、メイとトミオが店に入ってくる。
「あっ、いた」
「ちょっと気になる物があるから、エイコ鑑定してくれない? わたしの鑑定だと差がわからなくて」
「わたしもわからないかもしれないよ」
「わからなかったら、わからなかったであきらめるか、見るだけ見て」
メイと話している間に交渉は終わったようで、一万エル札の束をクリフに渡す。いる分だけ取って返された。
四人で店を出て行く。
向かった先は糸も置いているが、糸以外の物も多く扱っている店だった。
「ヒゲ、だね」
鑑定すると何かの
店の人も何かわからないらしい。
素手で触れるなと言われているので、エイコもメイも見ているだけだ。
「で、何を迷っているの?」
「一本一〇万エル。次回入荷予定なし。値引きなしだって」
「なら、コレでしょ」
エイコは右から二番目の髭を指差す。
「理由は?」
「状態が一番いい。たぶん、どれも古い物だと思う」
「エイコ買う?」
「鑑定できて使い道があるなら買う。興味だけなら一〇万エルでは買わない」
メイはまだ悩んでいそうだった。エイコも興味はあるが、鑑定結果が微妙すぎる。
「他の店みてから考えよう」
エイコはメイを店から連れ出す。
「鑑定結果、品質上級品、劣化中。状態、悪い」
「ガチ?」
「強度低下とかもあって、どれもなんかよろしくない結果だった」
メイもその結果なら、買わない方がいいという判断になるようだ。
「何かわからないし、珍しいものではあるけど、一〇万エルはない」
同種の髭で一束ならまだ考えもするが、一本の値段としては高すぎる。素手で触るなというより、触るとちぎれる可能性を警戒はさているのかもしれない。
「しかたない、髭か鬣の出るダンジョン行こう」
「わたしミルク欲しい」
「エイコはほら、出やすいとか関係ないから、髭にしよ。髭に」
そんな気はしていたけど、メイがひどい。目をそらしていたい現実を突きつけないで欲しかった。
「髭なんてもんが出るダンジョンあるのか?」
「今までもたまに出てるよ。ただ量が少なくて」
「ギルドで依頼を出すか?」
やめた方がいいとクリフが止まる。
「職業補正が入らないとガチャからは出ない」
貼られたまま放置される、生産職専用依頼になるそうだ。
「生産職専用ダンジョンの方が職業補正がかかりやすいから、近いうちにダンジョン行く?」
料理師のクリフは食材が出やすい。まな板や包丁も出ることがあるが、ミルクが出ることもあるそうだ。
「カレンは置いて行こう」
「連れて行かないと、ダンジョンていちゃつかれた時に困るわ」
「とっとと奴隷から解放されて欲しいの」
現状の扱いが許容範囲のカレンより、主のエイコの方がよほど解放されたがっていた。
「メイが嫌なら、ダンジョンデートにする?」
「初めてが外は難易度が」
メイの呟きを頭にチョップしてトミオが黙らせる。
「あの家から歩いて日帰りできる位置にダンジョンがあるんだよ。ちょっと遅くなっで閉門気にしなくてもいいしね」
星二つの生産職専用ダンジョンなので、魔物とか野盗なんかが出ると道中の方が危険らしい。
「行く?」
「っ、行く」
いろいろ買い物をしたのでメイは物作りに励むそうだ。カレンに余裕ができたら行くと言っている。
「何か買い物したいところある?」
「ナイフの装飾品店。たぶんそろそろ行ってもいいはず」
ちょっと心配されながら、エイコの道案内で進む。
「今日はまともに来たな。またガラクタか?」
「ガラクタもいるけど、お金稼いだから、まともな商品も見せて下さい」
店内奥のカウンターに、一万エル札の束を一つ置く。
「おっ、がんばったな」
「そういやナイフ持ってくるっていったな」
「それは全部オークションに流したから、また今度」
その結果がこれかと、札束に視点を向ける。
「珍しい物と品質のいい物とたくさん買える物。どれが見たい?」
「珍しい物」
「即答か。ちょっと待ってろ。ガラクタは三万で全部持っていっていいぞ」
サイフから三枚出して、カウンターに置くとエイコは回収に行く。
「信頼してますね」
「あっ、直感があるからな。万引きと強盗はわかる」
感心したようなクリフに、店主が答えながら三つの箱を持ってきた。
「エイコ、直感持ちに気に入られすぎじゃにない?」
「気に入ったつーより、幼児の見守りだ。友人ならよく見ておけよ。危なっかしいからな」
回収が終わり、エイコは拗ねたように口を開く。
「前回、この店でたあと捕獲してきた直感持ちもそんな気分だったのかな?」
「捕獲って、大丈夫なのか。いや、大丈夫じゃなきゃ、ここにいないか」
「危なっかしいって保証人なってくれた」
「そいつ、趣味苦労だな」
店主は悪意がないことと害がないことは別だと厳かに語った。
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