第56話

 食事中に出た意見を取り入れて、トミオは図面を修正する。


 畑の公道側はすべて作るかどうかはともかくとして、店候補地として確保。それに合わせて水路を内側へずらす。

 染色に使うのは家側で、流れの向きが変わるところに浅く広く場所をとる。水量については実際に作業してから調整となった。

 出入りの門近くに作った離れはお客様用なので、この周辺に見られたらダメな物は作らない。


 メイは人を雇いたがっていたので、作業場は店舗候補地に用意する。

 地下、倉庫。一階、店予定。二階作業場。住み込みで雇うなら、屋根裏になる。が、メイの希望は週数回通いで来てくれる人らしい。


 水路と塀は明日の朝、エイコが作り直す。その間、水門は閉めて水抜きするので、兵に作業する前に声をかけておかなくてはいけない。

 クリフが付き合ってくれると言っていたので、忘れることはないだろう。


 それが終わったら、二つ目のギルド登録する人たちでラダバナの壁の内側へ行く。引率、クリフで、商業ギルドでエイコとメイ。農業ギルドでトミオの登録を行い、冒険者ギルドへ行く。

 エイコは屋根裏部屋と地下室の解約でメイは部屋の解約。あと、トミオが依頼を出す。


 お金を出すのはエイコだが、依頼を管理するのはトミオ。米は食べ方を知らない人が多いらしく、他にお金になる物があればそちらを優先されてしまうそうだ。

 量を確保したいなら今の内から依頼を出し、実績を積んでおかないと冬前に大口依頼はできない。


 米の方がいい住人が多いので、足りなければ自分達でダンジョンへ行く。ダンジョンガチャの前で外れ扱いする人から買うのが一番効率がいいそうだ。

 エイコはお酒にさほど興味がない。料理酒分だけ在ればいいので、真っ先に作るのをやめるのが米酒になる。


 日本酒である必要はないが、どきどき晩酌くらいはしたい男たちは米の確保に意欲的だ。


 ダンジョン帰りの女三人が、眠そうになったところで話し合いは終わる。寝具の用意はできてないので、各自部屋で寝袋を使った。




 翌日、農業ギルドに登録に行くと、担当者に憐れみに満ちた視線を向けられる。


「農家は天候ギャンブルなとこもありますから、引き際を見誤らないようにご注意下さい」


 これから、農家を始めようという人に向ける言葉としてはどうなんだろう。もやっとした気分を抱えて、商業ギルドへ登録へ行く。

 商業ギルドの登録作業は手慣れていた。登録が終わったところで可能になるとは商業ギルドとのやり取りだけ。

 とにかく問題を起こすなと、冒険者ギルドと兼業の者に期待してないとわかる態度で終始対応された。


 商業ギルドを出ると、冒険者ギルドへ向かう。


「登録すると市場で露店が出せる分農業ギルドの方が良くないか?」

「農業ギルドは登録するのに畑がいるから、そこが人物保証の担保になる」


 冒険者ギルドと商業ギルドは金さえ出せば登録できる分、登録してから人を見る。


「エイコはリクシンに取引記録を商業ギルドに出してもらうか、保証人に出てきてもらえばすぐ上がるよ。今すぐ店を始めるのでなければ、上げる必要もないけどね」


 急いで上げる必要もないと言われたので、気が向いたら商業ギルド経由で何か買ってみようと思う。

 メイはさっそく布と糸を買っていた。ダンジョン産の布はいい物らしく、練習や試作用の布がほしっかたそうで、安い布を大量買いしている。

 収納アイテム持ちなのは、販売担当者にバレた。


 冒険者ギルドに到着し、アパートの件でお話しがと言えば応接室に案内される。

 前回はまったく気にしなかったが、応接室を作らなくてはならないとなると、美術品が気になった。

 やっぱり、絵画はいるのだうか。花瓶はカレンに頑張ってもらうとして、切花どうしよう。近くにそういう農家もなさそうなのに毎日用意するのはつらい。

 温室がいるのだろうか。トミオはそれ用の場所を図面では作っていた。


 造花じゃダメだろうか。メイ、布で花作ってくれないか聞いてみよう。エイコじゃ、金属の花になる。でも、魔石で加工するのは有りかもしれない。

 そうすると、メイには花より絵画代わりのタペストリーを頼もう。


「エイコ、エイコ」

「ン?」


 なんか名前呼ばれていた。


「また聞いたなかったのね。屋根裏と地下室だけで、部屋は継続でいいんでしょ」

「うん。部屋は残します。ほかに住む所できたら出て行かないといけないの?」


 それなら出て行く。


「満室になったあと、住みたい方が現れましたらお願いすることもあるかと思いますが、現在空室がありますので、長く使っていただいも大丈夫です」


 手続きが終わると、依頼を出したまま忘れていた件について話があった。一応二枚レシピが集まったそうなので、依頼を終了させる。

 どちらもパンのレシピで、錬金術専用レシピとなっていた。引き当てた人は錬金術の魔力コストが大きいそうで、食事に錬金術は使いたくないらしい。


 錬金術は人によっては、扱いの難しいスキルらしかった。


「クリフ様とは仲良くされているようで、冒険者ギルドと致しましても、紹介したかいがありました」

「うん。おかげで僕は毎日楽しいよ」


 少しばかりトゲのあるギルド職員にクリフはにこにこ告げる。


「彼女の事は僕が見るから、男のギルド職員の手助けはいらないよ」

「そうですか、では、今後もわたくしが対応させていただきます」


 トミオが米と豆について依頼をそれぞれ出す。味噌と醤油についてはクリフがそれぞれ依頼を出した。

 米と豆は安値で設定し、これ狙いでダンジョンに行くというより何かのついで得た物を持って帰ってきてもらうための依頼だ。

 こちらで指定した袋に入れてもらって、一袋五〇〇エルで買い取る。今月の間は上限を決めてはいないが、冒険者ギルドに本気度を示すために一〇万エル預けた。


 クリフの方はトミオとは逆にちょっと高めに値をつけている。そのかわり未開封で高品質であることを条件にしていた。

 ガチャの引き次第では、よろしくない依頼になるらしい。品質指定が難易度を上げてしまうため、こちらも依頼を受けてからダンジョンへ行くより、ダンジョンガチャで出してから依頼を受ける方が無難だ。


 手続き関係は終わったので、エイコとメイの要望て布屋に行く。その途中で適当に屋台で買い食いした。

 ちょこちょこクリフの知り合いがいて、食材情報をやりとりしている。ラダバナの物流はダンジョンに依存しているが、街道があるため物流拠点にもなっているそうだ。


 飛び地で王家直轄地になっているため、領地の関係が微妙だったりすると遠回りになってもラダバナを利用するらしい。直接取引しにくい領地同士の場合もラダバナを使うそうだ。


「先物取引は手を出したらダメだよ」


 クリフにらよると物価の先読みより、関係領地の動向をどれだけ得て先を読めるかが重要になるらしい。

 豊作だから値が下がると読んでも、いきなり重税で豊作分を取り上げられてしまい、流通したのは例年どおりなんてこともある。値が下がっても対応しない領主もいれば、代替わりで方針の変わる領主もいるそうだ。


「領主の代替わりは調べていたらわかるけど、代官の代替わりは大々的に知らされないからね」


 それで対応が変わってしまうと先読みなんてできないそうだ。任命者の意向がどこまで反映されているかによっても対応は変わってしまう。

 直感スキルがあれば勝てそうにも思えるが、意外と役に立たない。スキルが発動するのは手を出した時であり、その後の状況変化で直感の結果もコロコロ変わるらしかった。


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