引っ越しします

第54話

 豆はレシピが多い。フレイムブレイドと別れて、そんな感想を持って家に向かった。


 水路から水を汲み上げ、濾過し、浄化して加熱する。加熱された水は風呂場を通り、排水され、冷却し、濾過、浄化されて水路に戻されるようになっていた。

 エイコは水の流れと入れ物を作り、放置していた風呂場が銭湯の様になっている。庭に穴を掘って石を並べ、露天風呂を作った男連中は、女用に建物の屋上に露天風呂を作っていた。


 資材はリクシン提供で、資材の支払いはエイコだが、ダンジョンから帰ってすぐにお風呂に入れるのはいい。室内用と露天風呂がそれぞれ男女用にあるので、風呂には一人で入った。


 ルームシェア拒否派だったが、悪くないかもとエイコは思い出す。自分で全部やらなくても、誰かがやってくれるのはとってもいい。

 そんな事を思いながら家に向かえば、玄関で靴を脱ぐ仕様になっていた。


 お客様用に離れを建て、執務室もそちらに用意することで、家の方は全面的に土足禁止になっている。エイコとしても自分の部屋は土足禁止にするつもりだったので悪くない。

 クリフは一人文化圏が違うが、室内用の靴に玄関で履き替えるくらいは、こだわりはないそうだ。

 ただ、忘れそうと主張したため、玄関の目立って邪魔になるところに室内靴に履き替える、と看板が置かれている。


 リビングはカウンターキッチンが出来上がっており、地下室とキッチンをつなぐ荷下ろし用のエレベーターができていた。

 このエレベーター、手動で動かすため魔導具じゃない。滑車と重りで動かしているそうだ。


「畑のもいじっていいか?」

「任せる。あっ、豆いる? 食用の種があるよ」


 この世界、単純構造の建物は土魔術で一日あれば作れてしまう。作ってくれる相手はリクシンが手配してくれるそうで、風呂場の構造が変わったのもそのせいらしい。


「カレンの作業場と倉庫とわたしの作業場と倉庫もお願い」


 リクシンに頼むと支払いはすべてエイコだ。ついでに作ってもらおう。大型の物を作れる広さがあればいい。

 豆を渡し、配置はトミオに一任した。


「エイコ、店作っていい?」

「わたしが食べに行っていいならいいよ」


 出入り口を三つに変更する。獣車が出入りできる住人及びお客様用と兵及び奴隷用、最後にクリフの店用。

 公道に面した部分に、クリフ用の店の場所を確保して、水路に蓋をして店内になる様にした。

 その内壁も含めて水路も動かすかもしれないが、しばらく様子をみる。


 クリフも店の規模を決めかねている様で、屋台感覚のカウンターにイスと机を数個置くだけにするそうだ。

 公道とはいえ、ラダバナの壁の中とは通行量が違う。本人も毎日やるつもりはないらしい。


 お金が足りているかだけは心配だったので、リクシンに問い合わせたら問題ないそうだ。耐性付与チャーム一つ数万エルから数十万エルとのことで、手数料だけでも美味しかったらしい。

 付与魔術のロゴを作ってブランド化した方がいいと助言をもらい、トミオたちに考えてもらうことにする。


 お金さえ足りているならいいかと、大抵のことに許可を出してフレイムブレイドと六回目のダンジョンへ向かった。これで、マナポーションの販売は終わりにする。

 メダルの恩恵は多くのレシピとなったが、まだまだ作れていない物は多い。今後はダンジョンより作る方を優先する予定にしている。


 フレイムブレイドは今後、Aランクを目指して難易度の高いダンジョンへ向かう。冒険者ギルドかアパートの受付でやりとりすることになるだろう。

 確実に売らないといけないのはポーションだけ。それもアパートを借りている間だけの話だ。

 取引を完全になくす必要はないが、契約に縛られるのは合わない。トミオかリクシンになんか考えてもらおう。


「メイ、家来る? 湯槽できた」

「行く」


 フレイムブレイドのメンバーに送ってもらったからアパートに戻ったが、三人で壁の外へ向かう。


「ねぇ、周囲の家より塀が物々しくない?」

「問題のあるお隣さんがいるからそれ対策。あと、隠した方が元の世界基準で好きにできる」


 街の中にいる時は仕方ないが、家くらいは自らの文化圏にあった物にしてもいいだろう。

 クリフは食品を扱うだけあって不潔を嫌っており、手洗いとか食事の前と後はテーブルを拭くといったことに抵抗はない。

 屋台でもまめに清潔魔術を使っていた。


「家、土足禁止だもんね」

「湯槽には身体洗ってからとかルール化しなくても大丈夫でしょ?」

「まあね。一緒に入る方が抵抗あるけど」

「女用だけで浴槽二つあるけら別々に入ろう」


 その場合、カレンは奴隷なので一人だけ後になる。


「二人とも気にするんだ?」

「これだから持つものは」

「風呂は一人でのんびりしたい」


 エイコとメイはカレンの胸部装甲に視線をやり、そろってため息をついた。


「クリフが巨乳好きなら、追い出そう」

「それは仕方ないね」

「えっ、待って。そういう話だった?」


 いつもは止めてくれるメイも、この件については止めない様だ。

 ヤツのサイズに問題があるだけて、エイコもメイもそれなりにある。絶壁やまな板と言われる状態ではない。が、すぐそばにいるヤツのせいで、少々思うところがあった。


 風呂上がり、露天風呂の方を使用したメイは部屋が余っていると知ると住みたいと主張する。


「作業場どうする? 部屋でできないなら作るよ」

「作業場はほしいし、できれば人を雇える様にもしたい。ガチャでミシンもあるし作業を短縮化できるスキルもあるけど、針子を雇いたいの」


 一人でなんでもやるのは大変らしい。


「それはトミオさんに要望だして。全体像が決まったら壁と水路いじる予定だから」

「もしかして、染め物用に水使わせてもらえる?」

「いいんじゃない?」


 畑のスペースが小さくなっても別に困らない。元々畑なんてやる予定なかったし、リクシンの用意した奴隷もまだ使っている範囲は僅かだ。

 今後もなんらかの増築はありそうだし、畑の面積を減らして場所だけ確保しておいてもいいかもしれない。


 家賃を払っている七月いっぱいはメイはアパートを使うそうだ。その間に収納ブローチを使って引っ越しするらし。

 カレンはアパートにいてもやれる事は少ないし、荷物もないので今日から家に住む。

 エイコは九月までは家賃払い済みで、フレイムブレイドとの契約もあるから週二回くらいはアパートにもどる予定にしている。屋根裏部屋だけは、来月からはいらないと冒険者ギルドで手続きしておかなくてはいけない。


 ロゴはトミオではなく、ユウジが作ってくれた。サクラぽい。


「この世界、サクラはないそうです」


 なので被りの心配はないらしい。すでにリクシンには見せているそうで、最初は花びら一枚を図案化したら単純すぎるとダメ出しされたらしい。

 その結果、三輪の花になったそうだ。


「買い取りたいけど、いくら出したらいい?」

「醤油、みそ、みりん、日本酒で、よろしく」


 醤油とみりんと日本酒は一升瓶くらいの瓶で渡し、味噌は壺で渡した。

 たまには自分で料理したいらしい。


 ロゴが決まったので、アルベルトに送ったチャームを二つに分けて作ることにする。

 素材は魔鉄。指定してきただけあって素材も用意してくれていた。


 形は指定がなかったので三角形にする。四つの三角形を組み合わせて大きい三角形になるようにした。一番上の部分が耐性、逆三角が裏にロゴ、表に魔石。残りの三角形に術式。

 同じ物ばかり作るのは好きではないが、家に手を入れようと思えばお金がかかる。自室にはまだ椅子も机もないのでリビングで作っていたら、いつの間にかみんな集まって来ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る