第53話

 ぐったりとした集団を見下ろし、エイコは首をかしげる。

 魔術でドカドカ当てまくったおかげで、ちょっと気分はスッキリした。ストレスゲージに余裕ができたので、おっとりとした口調になる。


「どうしたらいいかしら?」


 エイコが落ち着いたと分かると、アルベルトとリクシンがやって来た。


「どうしたいんだぁ?」

「邪魔だし、氷に乗せてお隣さんの水路まで流せばいいかしら?」


 魔導具で氷は作れるので、氷の船くらいできるだろう。ツギハギしたところで分解するかもしれないが、自分が乗るのではないから気にしない。


「水路の角曲がれるかぁ?」

「水門に引っかかりそうだ」


 確かに、どっちも詰まりそうだ。


「元の水路で流せばいいかしら?」


 あっちなら直線だ。ジェットスライダーみたいな感じにすれば、氷の船が壊れる前に流れ着くだろう。


「ここにあると邪魔なんですよね。どうせなら今日中に外のことは終わらせたいですから」


 あとはカレンの作業場と、エイコ用の作業場兼倉庫。カレンの方も倉庫が必要だと思い直し、今日中に終わらないかもしれないと気弱になった。


「ゆっくりやればいいさぁ、休憩にしょう、なぁ?」


 その間に困ったお隣さんと、お話してくれるらしい。家にも入れたくないと思っていたら、お隣さんの家にアルベルトたちは行くそうだ。

 他の住人がどういう人か見ておきたいそうで、移送準備が終わるとエイコは水手を消す。リクシンと一緒に家に戻ると、クリフがお茶とお菓子の準備をしているところだった。


 紅茶とクッキーとパウンドケーキ。パウンドケーキはなんかいろいろはいっている。ドライフルーツを提供したのはカレンで、作り方はユウジが教えたそうだ。

 たくさん作ったから、今食べる分以外はエイコの保存容器に入れてくれる。


 クリフと並んで座り、お菓子を食べていると、自然と笑みが浮かぶ。


「エイコ、あーん」

「へっ」


 変な声がでて恥ずかしい。


「エイコの故郷で、恋人たちがやる作法だって聞いたよ」


 ニヤニヤしている男たちが情報源のようだ。見た目のせいもあり、中身は年上でも悪ガキにしか見えない。

 せっかくだし、やってもらったあと、やってあげたら指舐められた。

 顔が熱い。


「慣れてるな」

「強いですね」

「これが格差」


 一人だけ落ち込んでいる男がいる。


「こっちだと恋人即、結婚相手だからな。稼げるようになったら相手もできる」

「ハーレムにするにはそれなりの収入が入りそうですが」


 重婚が許されるのはそれなりの地位にある人だけで、愛人は養える収入さえあれば何人でも非難されることではない。ただし、婚姻相手は蔑ろにすると非難される。


「エイコ、明日の朝、焼き魚食べたくない?」


 冷凍庫を出し、物色させる。


「住ませてもらえれば、いつでもエイコのご飯作れるね」

「二階を女用にしよう思ってるから一階でいい?」


 風呂は外に別の建物を作ったが、シャワーとトイレは二階に増設する予定だ。


「地下室の予定は?」

「食糧庫かな? 冷凍室、冷蔵室、保存室かな」

「食材がたくさんあると作りがいがあるね」


 にこにこしているクリフを直視するのがつらい。


「悪い男とチョロい女にしか見えない」

「収入的にも詐欺師に狙われてもおかしくないですからね」

「あの子、そんなに稼いでるのか?」

「この世界に住宅ローンなんてないぞ」

「現金一括払いで家を購入だ」

「生産職スゲー」


 家賃四ヶ月前払い。奴隷購入に家畑付き購入。よくよく考えれば、かなりがんばって稼いでいる。

 詐欺師はともかく、ホストくらいなら貢いでも許される収入な気がしてきた。


 エイコはじっとクリフを見る。現金より、魔導具を貢ぎたい。

 これも職業の影響なのだろうか。


「台所、どうしたらいいか相談にのってくれる?」

「もちろん」


 炊飯器、トースター、オーブン、コンロ、冷蔵庫に冷凍庫、製氷器に蒸し器。料理に使えそうな魔導具を見本として出してみる。


「どういうのがいる? もっと大きいのがいい? 形状変える?」

「まず、今ある分を台所においてみようか」

「あっ台所、カウンターキッチンかアイランドキッチンにしよう」

「どういうのかな?」

「リビングに向いて料理ができるから、料理しているクリフが見える」


 別室に隔離されている台所だと、クリフが見えない。


「台はすぐできるけど、問題は排水かな?」


 紙とペンを離れた席にいた男どもに渡す。


「住みたいなら役にたって。あと部屋もどうするか考えて。クローゼットぽい物なら作れる」


 この家、一部屋が広い分数が少ない。その上、あった方がいいといわれて一部屋を二つに分けて執務室と応接室を作ることと、客室を作ることは決まっている。

 クリフも住む気で一室使うし、残りは二つ。この二つの部屋を三部屋にしてもいいが、とりあえず三人で一室予定になっている。

 宿でもずっと一緒の部屋なので、既に慣れたらしい。ベッド分だけそれぞれ個室にして、他を共有空間にするそうだ。


「ベッド、収納付きで図面をかけるなら作れる。でも、すぐにはならないから、今日は藁でいい?」

「なんで藁なんてもってんの?」

「ダンジョンガチャで出たの」


 トミオは困った顔をして、エイコに問う。


「金はどうしたらいい?」

「情報料で相殺。月数万のお金より、家とか奴隷の管理と近所付き合い手伝ってくれた方がいい。魔物がでるらしいから、その退治も」


 今いるのはお金じゃない。人手だ。


「作りたい物いっぱいあるし、落ち着くまで雇ったらいい?」

「労働対価が住居と住居設備か」

「うん。そんな感じで、報酬が足りないならなんかアイテム作ります」


 一応武器も作れる。持っている武器に付与魔術を使ってもいい。


「では僕は家主様のご飯とおやつを作ろう。僕が出かける時は保存容器に作り置きしていくよ。どうかな?」

「それはとっても助かります。けど、一緒に食べたいし、一緒にも出かけたい」

「そちらは恋人として叶えさせていただきます」


 今日はもうアパートに帰るのはあきらめた。リクシンにメイ宛の手紙を出してもらおう。

 明日も何時にアパートに戻るかわからないから、フレイムブレイドとの話し合いはメイに頼む。

 特に変更がなければ、明後日の早朝アパートに迎えに来るというだけの話で終わる。


 客室とか、応接室なんかの見られるのが前提の場所はリクシンに丸投げしている。耐性付きチャームを売ったお金でどうにかしてくれるだろう。

 商人として部屋作りの手数料を取っているから、こちらは特にお礼はしなくていいそうだ。

 でも、お隣さんのところはお話に行った保証人にはお礼がいる。


 前回のお礼でダメ出しはされてないなら、魔石で何が付与魔術をつけた物ならいいだろう。

 七種の付与アイテムだったから、今回もそんなもんでいいか。パトスの分は一つ機能を減らせばいい。


 耐性系で前回と被らないのは火や水といった魔術属性の耐性だが、そういうのは防具につけた方がいい。そうすると、毒耐性や暗闇耐性になるが暗闇は耐性より夜目や魔術で灯をつけた方がいいとエイコは思う。

 毒耐性をつけるとして、毒関連であると良さそうなのは解毒魔術と洗浄魔術。

 あとは呪耐性もあるからそっちもつけるとして、あとは解呪魔術と清浄魔術。これで六つになるから、試しに金属で小さなコインチャームを作る。

 見た目でわかる差は付与魔法陣くらいしかないが、鑑定士なら問題ないだろう。腕輪にして、取り外し可能にしておけば、いいようにするはず。


 毒と呪いから身を守る盾をイメージして、親指の倍くらいの盾をつくる。盾に聖属性付与を行い、表面の上半分に毒耐性、下半分に呪耐性のパーツをはめ込む。

 裏側にそれぞれからヒントをえた魔術を二つづつはめ込み、ブローチにした。チャームにもなるようにしているが、ブローチならチェーンを作らなくて済む。


 あとはリクシンからなんかいい感じの箱を買えば、今日中に渡せる。後日、お礼を持って行かなくて済んだことにエイコはホッとした。

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