第50話
外壁に守られたラダバナの中に入ると、パトスとその護衛とは別行動になった。早ければ今晩にでもやらかすからと、パトスは手続きを急ぐ。
書類さえ用意しておけばどうとでもなると黒い笑みを浮かべている。
「これで売主一家を奴隷に落とさなくてすむ」
パトスがいなくなると、不動産屋さんの上司ぽい方の人が息をつく。
「借金奴隷は免れたがぁ、今のままでは生活できないんだよなぁ」
売主一家を心配している様子の二人が、エイコを見る。
人の良さそうな顔で二人共が笑う。リクシンが善人そうに見える笑みをしているのも驚きだが、パトスと違って黒さが表に出ないのはさすが商売人だと感心する。
「期間奴隷、雇わないかぁ? 春くらいまで面倒みてほしいなぁ」
「家も畑もいじりますよ。たぶん、元の風景は残らないです」
「そこは本人に聞いてからにしようかぁ。畑をあのじいさまに買われなかったのはぁ、喜ぶなぁ」
女奴隷がカレン一人なのは心配だろと、言われたら一考の余地はある。
「冒険者ギルドで知り合いに声をかけてみます」
同郷の三人組が来てくれたら、いろいろ改造が進みそうな気がする。
不動産屋の獣車が止まったのは表通りのすぐ裏にある道。ラダバナでもっとも栄えている道の通りある店の裏口だった。
リクシンも借金奴隷の解除手続きがあり、ついてはいけないが一人ではうろうろしてくれるなと店の人を出してくれる。
冒険者ギルド経由でアパートまで送ってくれた。
なるべく早くカレンを連れて行って断熱レンガを作った方がいいのはわかっているが、明日はクリフに会う予定なので黙っておく。
カレンを連れて行くのは、次のフレイムブレイドとのダンジョン行きが終わってからにする。住まわせるのはフレイムブレイドとダンジョンに行かなくなってからを予定していた。
それまでにエイコは壁作りに行ったり、家の修繕したり、水門の様子をみたり、畑の様子も見る必要がある。
やる事はいっぱいあるので、休める時には休む。今日の午後は休養日として、趣味の魔導具を作りながらアオイと遊ぶことにした。
夏に冷蔵庫と冷凍庫は必要だろう。冷たい物が欲しいというのもあるが、食中毒が怖い。
鑑定さえしっかりしていれば防げるが、それで食べられる物がなくなっても困る。
この町の気温がどこまで上がるかわからないのも、どこまで準備すればいいか悩む原因になっていた。
ただ、春を迎えると次の冬のために蓄えを作り出すという考えがあるので、夏より冬の方が厳しい予感がする。
すでに冬の備えについての話は聞いたことがあるが、これからむかえる夏の備えについては話を聞かない。
だから、夏はそこまで大変ではないのかもしれないが、備えようがなくて単純に我慢しているだけの可能性もある。考え出すと不安はつきない。
そんなこと思いながら作るから、冷風機や製氷機を作ってしまうのだろう。もっと単純に耐熱付与のチャームでいいような気もする。
作るのに熱中するとアオイが寂しがるので、ハムスターとかラットが駆け回っているイメージのあるオモチャや、空中ブラコンみたいな止まり木を、取り囲む側面しかない鳥籠ぽい物に設置してみる。
遊んでいる姿を見て、レバー引っ張るとドアが開くとか、音が出る物も追加した。
ミニチュア遊園地みたいなの作ったら楽しんでくれるだろうか。
回転する台の上に更に回転すると容器をセットする。イメージは遊園地のコーヒーカップだ。
カップにアオイを入れて、台もカップも回転させる。見ているだけで、エイコは酔ったが、アオイは平気そうだった。
平気そうだが、楽しんでいる様子もなかったので、今度は縦回転で観覧車ぽいのにしてみる。
楽しんでくれているかどうか、反応がわからない。これはもうジェットコースターを作るしかないようだ。
アオイに安全レバーなんてつけられないから、一回転させたら落ちる。最初は動力をつけないで、乗り物で滑り台を降りて行く感じにしよう。
徐々にパーツを増やし、巨大化させていると、アオイにほっぺたを頭突きされた。ふわふわの毛のおかげて痛くはないけど、作業の手は止まる。
いつの間にか周囲が暗くなっており、火魔術であたりを照らす。
「ジェットコースターはイヤなの?」
机の上に着地したアオイに問えば、ため息をつかれた。ひよこってそんなことできるのかと、見つめてしまう。
やれやれとでもいいたそうに、玄関に向かうアオイを追いかけるとドアをノックされていた。
「エイコさま。いませんか? 起きてますか? お客様です」
どうやらだいぶ前から呼ばれていたらしい。
「はい。行きます」
どうやら、アオイは賢いようだ。
出かける準備をして玄関を出る。鍵を閉めて、後をついて行く。門まで行くと、トミオたちがいた。
「お待たせしました。すぐ来てくれるとは思ってなかったので、どこで話せばいいかしら?」
「あー、ここ男子禁制なんだったな」
門番に外出を告げ、移動する。夕暮れ以降に営業している店はどこもお酒を提供していた。
夜は出歩かないエイコにはどこがいいかわからないが、トミオたちにはすでに馴染みの店があるらしい。
席が八割近く埋まっている食堂ぽい店に入り、エイコは壁とトミオに挟まれるような席に座った。
「メシ食べた?」
「まだ」
「じゃ、適当に頼むから、食べれそうな物食べて」
三人はダンジョン帰りで、冒険者ギルドで依頼達成の報告をした後、伝言を聞いて、そのまま会いに来てくれたそうだ。
「そこまで緊急ではなかったんですが」
「時間がある時に話がしたいた。報酬魔導具炊飯器なら、すぐ動くに決まっているだろ?」
「炊飯器があるって事は米もあるんですよね?」
「えっ、米が出るの混合ダンジョンなのに行ってないの?」
「マジかー。そんなダンジョンあるのかよ」
男たち三人が悔しがる。
「今晩のメシ代でダンジョン情報くれ」
「浅沼大地ダンジョン。星五つ。一〇層までなら生産職三人はでも問題なかった」
「三人?」
「クラスメイトが奴隷落ちしてて買わされた」
オークションで異世界人が高額落札されたのは彼らも知っていたが、それ以外の存在は知らなかったそうだ。
「奴隷落ちした子の話だと、ラダバナまでは同郷の恋人二人組と一緒だったらしいよ」
肉の煮込み料理や揚げ物。酒の進みそうな料理がテーブルに並ぶ。
「心当たりねぇな」
「オークションの最高額落札されたのは元クラスメートなんだけど、そっちは近寄らない方がいい」
「そんなヤバイ相手に買われたのか?」
「買い手は知らないけど、本人がヤバイから」
職業とスキルを説明し、集団洗脳の危険性を付け加えておく。
「同郷の人の危険性を知らせたかったのか?」
「もう、ラダバナ出たみたいだからそっちはどうでもいい。元の世界の物を再現したいんだけど、知識が中途半端で作れないからそのあたりの知識埋めてもらえないかと思いましてお呼びしました」
「で、その報酬が炊飯器と」
「情報次第では米もつけますよ。あと、住む場所も提供できるかも。こっちは相性次第ですけど」
トミオたちにはもっと詳しくと言われたので、畑付きの家を買ったことと、同郷の奴隷の一人暮らしは治安が心配なので一緒にどうですかと、誘っておく。
「なるほど、それで相性次第なのか」
「稼いだ金の半分は宿代だから、そこが抑えられるなら住みたい」
いくら安くても、それなりの宿でないとたえられないから、三人はランクのわりに良い宿を使っているそうだ。そのせいで装備品を修理しながら使うしかなく、装備を良い物に変えられるほどなかなか貯蓄できないそうだ。
「明日、一緒に住む子と家を見せてくれ」
「明日はムリ」
エイコの優先順位はデートが上だった。
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