第49話
パトスの要望は耐性付与されたアイテムだった。とある女のせいで病みながら作った、行き場のないチャームを見せる。
「こういうのでいいの?」
ジャラジャラと六個のチャームがついた腕輪。試しにつ付けてみたらとっても邪魔で、見本様に放置している一品だ。
六個つけるなら首輪がマシ。
「付与してあるの飾りだから、皮紐につけてぶら下げいても効果があるはず」
「鑑定結果だと効果はある。他にもあるか?」
「同じ効果のでよければいっぱいあります」
本当に、正気に戻って見たらびっくりするくらい作っていた。
「なら、オレに一式。上司の分は何か増やすか豪華にして一式。残りを売ってくれ」
「リクシンさん、売値わからないのでお願いします」
不動産屋さんが机とイスを貸してくれたので、付与の効果別に適当な金属の容器に入れていたチャームを出す。
「よく作ったなぁ。お礼用はのけているかぁ?」
「保証人様の分はこれから作ります。パトスさんは腕輪のでいいですか?」
「いいですよ」
リクシンとパトスが査定している間に、保証人用を作る。パトスがいる間に作らないと、本人に渡しに行く必要が出てくる。
そんな面倒ごとは是非とも避けたい。
魔石で作れば色もきれいだし、見た目も華やかになるなだろう。六個のパーツを組み合わせてリングを作り、それぞれに耐性をつける。それからひとまわり小さいリングのチャームを魔銀で作り、浄化魔術を付与した。
これで、チャームに魔力を流せば浄化魔術が使える。あとはネックレスのチェーンなのだが、金属系の素材は色のいい物をあんまり持っていない。
合わなければチェーンは変えるだろうし、そもそも使ってくれるかも謎だ。なんでもいいかと、サイフから一〇〇エル硬貨を出す。ピカピカの銅貨はいい色だとエイコは思っている。
硬貨を錬金術でチェーンに変え、チャームをつければ出来上がり。
「装飾品って、どんな物に入れたら贈り物になるのでしょうか?」
「近いうちに見本を送るよぉ」
自分で作りたいなら、それ用の素材も用意してくれるらしい。出来合い品でいいなら融通してくれるそうだ。
今回は皮袋に入れてのお渡しする。手の平サイズもない小さな皮袋だが、質があんまり良くない分、収納効果をつけて価値を高めておく事にした。
ちぐはぐなとこはあるが、売値としては悪くないはず。
「エイコ。今回の付き添いとぉ、査定でこっちにもぉ、耐性アイテムなぁ。形と素材は指定するからぁ」
「素材用意してくれるなら作りますが、塀用素材もお願いします」
あのジジイ対策で、堅牢にする必要性を感じている。特に生産設備と住居には入りこまれたくなかった。
壁さえ作ればカレンを移動させられるし、住居は使うところから修繕していけばいい。
「水路の水って農業用? 生活用は別?」
「井戸がありますよ」
不動産屋さんに案内された先は滑車のついた井戸で、人力で汲み上げなくてはならないようだ。
ポンプの仕組みはわかるが、作れるほど細密な形状が思い浮かばない。原理はわかるのだが、とりあえず簡単にできそうな縄を巻上げる魔導具を作ろう。
これなら回転させて巻き取ればいいだけだから、構造は簡単だ。
作って試用実験まではするが、設置まではしない。地面にそのまま置いておくと、巻きこまれる危険がある。
とりえず、水質を鑑定できたので良いとした。そのままでも飲めそうではあるが、エイコは飲むなら一度沸騰させてからがいい。
水路に水車を作ったら、畑の水やりは楽になるだろうか。必要性があるから作りたいというより、レシピがあるから作ってみたい欲求がある。
問題は、水車で汲み上げだ水をどうするかだ。濾過して浄化したら風呂に使えるだろうか。
カレンが焼き始めたら排熱で、風呂ぐらい沸かせるはず。
長年使った水田の土が焼き物にいいらしいし、試しに水田を作るのもありかもしれない。焼き物に使えなくても、カレンが土作りすればいいわけだし、風景として麦畑より田園の方がエイコは好きだ。
排熱利用するなら、温室もいけるかな。窯の火が落ちている時用に魔導具もいるかもしれないが、暖房用レシピはそれなりに持っている。
床下に配管して、夏は冷たい水、冬は暖かいお湯を通したら部屋の温度調整できるはず。壁にも配管がいるんだったかと、薄らとした記憶をたどるが、答えは出せなかった。
冒険者ギルドでトミオに連絡をとろう。カレンと相性が良さそうなら住んでもらってもいい。
せっかく買ったので、作業部屋とか倉庫は欲しいが、住むのはアパートのままの予定。こっちの住み心地がよくなったら引っ越すかもしれないが、冬籠りなんてやり方がわからないし、相談できるギルド職員がいるアパートの方が安心感がある。
これから夏なのを思えば、必要なのは冷房。いかに温度を下げるかだ。
冷蔵庫部屋なら作れそうだが、温度下げすぎで寒そう。
この世界に温度計がないから、そもそも温度設定ができない。水の融点と沸点を記録して、その五分の一くらいって設定すればいけるだろうか。
暖房だと、四分の一から三分の一くらいでいいはず。
気圧の問題があるし、物理法則がどこまで一緒かわからないが、精密な温度が知りたいのではないからいけるだろう。
このあたりはトライアンドエラーで実験していくしかない。
土地を買うのにもっとお金がかかる予定にしていたから、そのくらいの実験費用はある。
体感温度の確認はカレンにやってもらおう。奴隷を使った人体実験と考えてしまうと、微妙な気分になる。
けれど、追求するのは快適さだ。非人道的実験ではない。たぶん、きっと、実験が余程の失敗にならない限り。
査定が終わったらしく、畑のほうからリクシンとパトスがやってくる。
「小屋、二つつくれるか?」
パトスから兵用の小屋と奴隷用の小屋の設計図を渡される。
「木材が足りない」
「手配はするがぁ、今日中は難しいなぁ」
「簡易住居でいいならあるよ。たぶんもう一個くらいは作れる」
試しに出したら、兵用はそれでいいらしかった。
「これ、アパートで作ったのか?」
「ダンジョン出てすぐの所で作った。大きいのは室内じゃつくれないし、中庭の占拠もできないです」
だからこそ、ある程度広い作業空間は欲しかった。畑は余分だが、広い分にはいいだろう。
「アオイ、獣舎いるかな? どのくらいの大きさになるかわからないけど」
「大きくなってから考えようかぁ」
「獣舎つくらないなら、藁いらない?」
少し考えてからリクシンは、エイコの欲しい藁の使い道を答えた。
「奴隷の寝藁に使えばいいさぁ」
不動産屋さんに家の鍵を開けてもらい、中を見に行く。二階建で、地下室と屋根裏部屋がある。
アパートより家具が残っていると思いつつ、進む先々で清潔魔術を使う。
屋根裏部屋に上がれる二階の部屋を、自分用にする事に決める。窓があるので屋根裏部屋はけっこう明るい。
「家具発注するかぁ?」
「買うよりは作りたいですが、どういった物があるかは見たいです」
作れそうにない物なら買ってもいい。
家を見ている間に、兵と奴隷がやっきた。ついでに食事も持ってきてくれたそうで、お昼ご飯にする。
「書類関係はこっちで処理しておくから、エイコは水路の向こうに柵作って置いてくれ」
使用料払うなら柵は撤去するが、払わないならそのままにする。勝手にのけるなり壊したら賠償金を取るそうだ。柵は水門のついでに監視してくれるそうなので、夜間も見張りがいる。
奴隷の方は農家出身の冒険者で、三ヶ月の期間奴隷。実績作りに畑を耕してもらう。
種は彼らが今から育てられると判断した物を用意するそうだ。売り物ができれば解放時の給金を増やすと言ってあるので、何かはできるらしい。
人員が来たので引き上げる。エイコの引き継ぎ作業は、水門の使い方を説明するだけだった。
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