第48話
ごうつくジジイと境界を接していないところは、どんどん錬金術で柵を作っていく。反対側の隣人は、壁になる相手がいないと次に狙われるのは自分だと理解しているせいか、やたらと心配してくれた。
こっち側の柵は壊れてもいなかったがただの木の柵だったので、魔物避けの薬草と一緒に錬金術で作り直す。
公道となっている道に面している側も問題はない。問題は残り二面だ。
まず利水権に関わる水路のある面について柵をどこに立てるか決めていたら、ムダに元気なジジイが騒ぎ出しす。
「大丈夫ですよ。この水路。あなたが買い取った土地の一部ですからね」
「水路向こうの道の半分まで、所有権があります」
「じゃ、このに壁作ってもいいんだ?」
そんなことしたら獣車も人力の荷車も通れないと騒がれる。
「あっち側に道があるから、わざわざ水路の向こうの道使うの非効率的よね?」
道として使いたいなら使用料を払えと、いい笑顔でパトスが交渉を始めた。道として維持するにはお金がかかるし、手間もかかるとぼったくり価格になっているので同意はないまま水路についての話になる。
「水路の維持は所有者の責任になります」
「柵立てて、水路、そのギリギリまで動かしても平気?」
「いいわけあるかっ!」
ツバを飛ばしながら主張されるがムシだ。ムシ。だって、このジジイ勝手についてきているだけで、立会人としているのではない。
「決まった位置から決まった位置に水がながれれば、所有地内でどう水を流しても法律上は問題ありません」
そして法律上問題なければ、保証人のおかげで大概のことは通せるようだ。
「なので、堀の一部にすることを提案いたします」
「図で書いてもらっていいですか?」
紙とペンを出し、さらさらと書いてくれる。
水路の向こう側の道の半分はこのうるさいジジイの物なので、隣接しているだけで揉めるところに水路まであると余計に揉める。
コの字型に水路を新しく作り、始点と最終地点だけは同じになるようにしていた。
最終的には通常の水の流れは新設する水路で、今ある水路には流さない。で、水害がおきそうな時だけ逆にする。
道の使用料を払わないなら、その分水路を広げてしまえとパトスはそそのかす。
不快な視線しか向けてこないジジイへの嫌がらせになるなら、多少の手間なんて問題ない。
水路側は保留にして、ジジイとの境目に柵を作って行く。こっちの面の半分がジジイの土地と接しており、残り半分は現在進行形でジジイから嫌がらせを受けているお隣さんだ。
この家がある事によってジジイは公道が直接使えない。そのために獣車の通れる私道が必要になっている。
土地の範囲を説明してくれる不動産屋さんとは別の人がもう一人のお隣さんを呼びに行き、間違いはないか確認してもらう。
やかましジジイを見て、顔色を悪くするくらいには追い詰められているようだ。
柵の位置の確認が終わると、すぐに帰って行く。よほど一緒にいたくないらしい。
日々、魔術にはお世話になっているし、魔術以外のスキルを使うにも魔力はいる。この地にきた頃よりエイコの魔力は増えていた。
面積は広いが、堀を作りその際出た土を堀の外側に盛る。盛るのはギリギリ柵の内側。
一度の錬金術で三面の堀と壁を作る。
壁の高さはあんまりないが、仮の壁としては悪くなない。
今は均一の深さだが、水を流すなら角度がいるので、一面づつ錬金術でゆるやかな角度をつけた。
先に出口の方の水路との壁を取り除いてから、入口になる方の壁を取り除きに行く。
壁を退けただけではあまり水が入ってこないので、水路に斜めの突起を作り水を引き込む。
水の流れを変えた事で水圧を受ける場所を補強し、全体を見て回る。問題点を直し、水路に作っていた突起を一度消す。
元の世界で水門くらい見たことがある。形状は分かっているが、問題は開け閉めをどうするかだ。
新設した水路に入ってくる水が増えたら閉まるように、水量感知用の魔石を埋め込もう。あとは、どの程度雨が降ったら閉めるかだ。そっちは水門の上に感知用の魔石を設置しよう。
水路の方は飛沫で反応しても困るから完全水没したら閉まるようにして、雨の方はとりあえず表面が全て濡れたら閉まるように設定しておく。
開ける方の自動化は今はしない。そっちは雨上がりの水路の様子を見て決める事にする。
水路に水を引き込むための壁は、水門と連動させることにした。水門が開けば水路から出てきて、閉まると引っ込むようにする。出口の方の水門も連動させて、さらさらと図面を書く。
魔導具としてまず入口の水門を作る。次に出口の水門を作り、水路に設置する感知器を魔石で作る。水路の流れを変える壁を金属で作った。
あとは錬金術で所定の場所に設置して行く。
入口の水門につけた感知器を水魔術で試しに濡らし、閉まるか動作確認をする。問題なく作動し、出口の水門も壁も連動して動いた。
水門を開けるスイッチになっている魔石に魔力を流し、しばらくはこれで様子を見る。
もともとあった水路の方は水量がどんどん減り、底が見えてきた。窪みに水が溜まるだけになると、流れがなくなった。
「監視用に冒険者の奴隷を置くかぁ」
「こちらでも兵を出します。あの水門が使える物なら、設置してもらいたい所がある」
試用実験のためなら、兵を動かせるらしい。治水の役に立つなら仕事の範囲として動員できるそうだ。
そのかわり、エイコは水門を作ることに対して拒否権がなくなってしまう。
「仕様書を書けば完成品を一つ作るだけでいい」
一個でいいならと、兵を出してもらう。あの騒がしジジイがまったく信用できなかった。嫌がらせに何をしてくるかわからないので、冒険者より発言力が強い公的立場のある兵はとってもありがたい。
彼らの発言があれば、保証人の名で忖度してもらわなくても向こうを有責にすることができる。
リクシンもパトスも自らが連れていた人員を使い、指示を出して走らせた。どっちも運動神経はいいらしい。
水路を飛び越え壁を蹴り公道へと出て行く。
「あっちに出入り口作ってくれるかぁ?」
出入り口用の門もいるが、水路を越えるための橋もいる。公道に面した家よりの場所に木材で門と橋を仮設置した。
「では、面倒な方がいない内に売買契約を済ませてしまいましょう」
元畑の地面にイスと机を出し、不動産屋さんが契約書と権利書を出した。リクシンとパトスが内容を確認する。
「おい、どんな試算をしたぁ?」
「あのご老体がいる限り、ここは不良債権なんですよ。どうせ買い叩かれる予定だった土地ですから」
ほぼ増額なしで購入できるそうだ。リクシンとパトスが問題なしと許可を出してからエイコはサインする。
サインが終わると一万エル札の束を三つ置く。
「確認させていただきます」
家も修繕しなくてはいけないとはいえ、畑こみで二六〇万エル。手続きに三〇万エルかかり、購入費用は二九〇万エルになる。
壁の内側には一〇〇〇万エルより安い土地はまずない。あってもかなり狭い面積になる。
購入費用は安く抑えられたが、リクシンとパトスと保証人には何かお礼をしないといけない。それがこの地域の慣習になっている。
今後も何かあれば頼るし、郷に入っては郷に従えだ。それで面倒ごとを回避できるならやる気はあるが、相場がわからない。
「リクシンさん。お礼の相場教えて下さい」
「どうせ聞くならぁ、本人に聞け。わかってないことくらいあちらもわかっているさぁ」
お礼を相手に聞くのも、答えさせるのもダメらしい。慣例に乗っ取り忖度して差し出さなくてはいけないらしい。
「要求難易度が高すぎ」
エイコが叫ぶと、その場にいた人たちに笑われた。
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