第46話

 エイコが首輪の飾りに付与した耐性を語ると、クリフは笑みを深めた。


「浮気防止?」

「えーと、その。わたしが異世界人だって気づいているよね?」

「うん」

「オークションで異世界人が売られたのも知っているよね?」


 再びクリフはうなずく。


「売られていた異世界人の一人が知り合いで、恋人のいる男をその気にさせるのが趣味なの。で、別れさせた後に、そんなつもりじゃなかったのってフルのが好きらしくて」

「それはまた、困った趣味だね」

「わたしその子と仲悪いから、認識されたら確実にクリフ狙いにくるよ」


 エイコの彼氏というだけでどんな男だろうが、嫌がらせのために落としにくるのは確実だ。


「魅了、誘惑、洗脳は耐性付与できるけど、美貌と歌唱スキルはどうやったら防げるかわからなくて」

「困った趣味に、そのスキルの組み合わせは頭痛いな。その子、奴隷だよね? スキル封じられてなかった?」

「野放しだった。すでにオークション主催者落とした後かもって疑っているし、偉い人にとりいるために高額落札されたかもって思っている」


 クリフが悲しそうに頭を押さえる。


「ねぇ、耐性アイテムって、偉い人はだいたい持っているもの? ラダバナの副騎士団長さま、アイツのタイプぽいけど、そのあたりのお偉いさんなら耐性アイテム標準装備してる? スキルが効くなら町の権力者全員落としにくる可能性もあるし」


 誰にどう影響を及ぼしてくるかわからなくて、怖い相手だ。もし、ラダバナの施政者が落とされたら、引っ越しする。


「起こってもいないことで、怯えなくていいよ。こっちでも調べておくから落ち着いて」


 落ち着かないようなら、耐性アイテムを量産したらいいと勧められた。


「あとは、浄化魔術を付与したアイテムもいいかな」


 何かあった時対処できるアイテムが有れば安心できるよと、諭してくる。耐精神汚染や精神防御だと歌唱や美貌を含めたすべてのスキルに対応できるらしい。

 ただ、特化耐性のものより効果が低くなる。それでもないよりはいいらしい。魔力耐性の高い人はその手のスキルにかかりにくいので、魔力耐性アイテムもいいかもしれないと言われた。


 その場で耐精神汚染、精神防御、魔力耐性のついたチャームをつくり、クリフの首飾りの飾りを増やす。


「大丈夫。僕は浮気なんてしないよ」


 慰めつつ、クリフは料理を始める。


「保存容器ある?」

「うん」

「美味しいもの食べて元気出してほしいから、いっぱい作るよ」


 クリフが料理している姿に、エイコは見惚れる。魚はエイコ提供だが、肉や野菜はクリフの持ち物だ。

 次々に見たことのない食材が出てくる。


「あんまり種類はないけど、ね」


 ちょっと困ったように微笑み、お菓子も作ってくれた。

 午後はクリフのお家デートになり、布屋には行けていない。それでもエイコは満足しており、クリフと手を繋いで家を出る。


 一人歩きは心配だと、アパートまでおくってくれた。


「またね」


 耳元でささやき、そのまま唇をおとしてから離れる。触れられた耳まで赤く染まったエイコの頭をなでて、クリフは帰っていった。




 エイコが出かけている間、カレンはひたすら土作りをしていた。土を用意したのはリクシンで、倉庫に土嚢袋がつまれている。

 それをひたすら、断熱レンガを作れる土に変えた。それこそ魔力切れになるほどがんばったらしい。


 幸せな気分にひたり、一人でジタバタしていたエイコのところへカレンは突撃してくる。


「土は準備したので、レンガにして下さい」


 一日の終わりを、台無しにされた気分がした。そして、カレンは翌日の朝も、土を準備したとやってくる。

 クリフの作った料理を食べて、エイコはしぶしぶ地下部屋に移動した。


 土さえ用意しておいてもらえれば、一回の錬金術の使用でレンガは数十個できる。それでも二百回くらいはこなさなくてはいけないと思うとうんざりする。


「カレン。アイツがこの町出ていくまで土地は買わないから」

「買ったの町の外の人なんでしょ? 出ていくんじゃないの?」

「たぶん出ていくから土地は探してもらっているけど、買うのは出ていったのが確定してから」


 レンガ作りしていたら、そのうち出ていくはず。


「土地の代金もう稼げたの?」

「安い土地なら買えるみたい」


 大通りに面したところや商店街のある商業地の土地を、購入するには足りない。買えたところで、そんなところに窯を作れば近隣トラブルになりそうでもある。


「そういえば、食料まだ大丈夫?」

「うん。二週間くらいはある」


 目の前に食べ物があっても、与えられた物でないと奴隷は食べられない。なので収納ブローチに、食材と魔導コンロや鍋やフライパンなんかの調理器具を詰め込んで、カレンには渡してある。

 一日分とか一食分だと、渡し忘れ出そうなのが怖いし、昼間別行動なんて事もできなくなってしまう。


 エイコが遊びに出かけたら、カレンは昼抜きなんていたたまれない。奴隷側から主張できないので、衣食についてはメイも気にかけてくれている。

 世話や面倒をみるという点において、エイコは信用がなかった。


 うっかりで餓死や栄養失調になるとトラウマになりそう。メイも協力的だし、奴隷の首輪に阻害されない範囲で主張もしてほしい。

 レンガ作って主張はできるのに、食事主張ができないのが、エイコは不思議でならなかった。


 主人として命令すれば、レンガ主張もできなくなるが、そこまでしたいとは思わない。陶芸家として自立させるためには、窯が必要なのもわかっている。


 さっさといなくなれ、いなくなれと願いながら、部屋に戻ったエイコは付与魔術つきのチャームをざらざら作る。

 雫型、星型、トランプのマークの型に、丸や三角、花型と思いつく限りに作った。複数付けるなら、小型化した方がいいかと、最小化チャレンジもしてみる。

 羽型だけはクリフ専用だが、六個も付けるなら何個か小型化した物と付け替えてもいい。


 鳥型にして、目の部分に魔石をはめ込み浄化魔術を発動させられるようにしよう。鳥の体を別部品にして耐性系の付与をつけたら、ジャラジャラさせなくてもいいかもしれない。

 いつも肩にいるアオイに机の上に移動してもらい、形状を思案する。


 立体パズルを作っているようで、楽しくなってくる。夢中になりすぎて、昼を食べ抜かっていた。

 午後のレンガ作りを頼みにきたカレンのために手を止め、食事をしてから地下部屋へ向かう。


 土地購入か、フレイムブレイドとダンジョンに行くのが終わる頃にはレンガ作りだけでも終わりにしたい。ただ、このレンガどうも料理に使う窯も作れるみたいで、予定数の倍あっても良さそうだ。


 料理はあんまり得意ではないメイだが、イベントごとにお菓子作りするのは好きだったようで、何度も作った物は分量も作り方も覚えているらしい。

 魔導調理具のオーブンより魔導窯オーブンの方が、美味しいのではないかと言われ、作るべきかエイコはかなり迷っている。


 元の世界では、窯出しとついたお菓子を目玉商品にしている店もあった。窯が有れば作るとメイはいっているし、説明すればきっとクリフも作ってくれるはず。


 そう考えると、断熱レンガはまだまだ作らなくてはいけない。

 カレンも大変だが、エイコも断熱レンガから逃げられそうになかった。




 フレイムブレイドの契約、六回中四回を終了したところで、醤油と味噌を手に入れる。レシピは醤油も味噌も豆腐もあった。


 納豆と納豆のタレレシピはレシピ十枚を必要とする物で、餡子と必要レシピ数が同じだった。

 レシピ枚数がどういう基準で決まっているかエイコは考えてみたが、答えは出せない。


 ラダバナに戻ればヤツが町を出たと知り、土地購入に向けて話を進めることにした。

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