第45話
雨が降ると冒険者活動をお休みする人もいる。しかし、フレイムブレイドは休まない派だった。
獣車の中にいて、運ばれていくだけのエイコたちも大きな影響はない。ちょっと移動に時間がかかり、食事が味気ない保存食になるだけだ。
ダンジョンの中に入ってしまえば、天候の影響はない。いつもどおり、二手に分かれて攻略する。
フレイムブレイドの鑑定待ち、ラミンは魔術士で、学もあるらしい。カレンの炎魔術について指導してもらうことにする。
その間、エイコとメイはリラと一緒に剣でモンスターを倒す。メイが手にピッタリとした手袋を作れるようになったので、剣は手袋をして握るようになった。
手袋に滑り止めをつけると、こっちの方が楽らしい。あと、手を守るのにもあった方がいいとクリフに言われたのもある。
生産職の手は大事。骨折して指がちょっと曲がってくっついても剣が握れればいい、なんていう戦闘職と同じ感覚で行動したらダメだそうだ。
どうも戦闘職は、身体の丈夫さが違うらしい。
カレンの炎魔術の威力を見て生産職なのを嘆かれ、絨毯を浮かして寝るエイコに絶対にテントの中以外でやるなと厳命してくる。
ダメ出しが多くやらかさないメイが、相対的にフレイムブレイドの中で評価が高い。
米が手に入るダンジョン希望を出していたので、メイとカレンはちゃんと米を入手している。フレイムブレイドから銅メダルをもらっているエイコが、一番米が少ないことからは目を逸らす。
来週は豆が手に入るダンジョンで、少ないが醤油や味噌が出るらしい。
「納豆ってさ、茹でた豆を藁で包んだらいいんだっけ?」
「レシピがないなら、やめよう」
「発酵食品はなんの菌かわからないと怖いよ」
鑑定すれば食べれるかどうかくらいはわかるはず。でも、タレがないと美味しいく食べれない。
二人の意見を受け入れることにする。
このダンジョンで魔導炊飯器のレシピも手にはいった。納豆レシピは次のダンジョンに期待しよう。
藁も一応売れるらしいし、すべて確保しておく。大量にいらないとわかれば売る。
ダンジョンから戻った翌日。クリフがラダバナの街で屋台をだしている場所へ向かう。
売っている物はちゃんとお金を出して買い、食べるのは屋台の奥を借りる。
甘くないホットケーキみたいなのを二つ折りにして、肉と野菜を挟んだ物とスープ。
売り切れたら、クリフの今日の仕事は終わりらしい。
「エイコは美味しそうに食べるね。はい、これオマケ」
にこにことクリフは肉の切れ端をくれる。
午前中の早いうちに売り切れとなり、屋台は解体して収納された。
「お待たせ。じゃ、デートしよ」
出された手に手を合わせ、街歩きする。最初に向かったのは靴屋さん。冒険者用の予備の靴はあった方がいいし、ダンジョンに行く前に慣らした方がいいそうで注文する事にした。
出来上がるのは夏の終わりから秋くらいになるそうで、手付金に半額支払う。
次に向かったのも靴屋さん。こっちは見た目重視で布の靴も売っている。ドレスに合わせる靴はここで売っているようだ。
見本もかねて、一足無難なのを買うことにした。こちらはオーダーメードではないので、買ったのをそのままもらっていく。
次に向かったのは服屋さんで、冒険者用は店の場所だけ教えてもらいスルー。町の人が利用する古着屋に向かった。
全部ではないが、いかにも着回して擦り切れたような服や匂いと衛生面が、という服が混じっている。
「クリフ、布屋にしよう」
もう、メイ頼みで作ってもらおう。心に負担なく着れる服を、探すだけで疲れそうなのは嫌だ。オシャレを楽しむ気分にもならない。
「その前にお昼ご飯だよ」
「あの、ね。お魚持ってきたから、料理してほしい。ダメ?」
昨日までいたダンジョンは、沼地の多いフィールドだった。それで米が出やすいらしいのだが、エイコは相変わらずレシピや薬剤の素材となる草が多い。
そして、米より魚が多く出た。魚は冷蔵庫に入れている。さばいてもらえれば、冷凍庫に移そうと思っていた。
ダメなら全部冷凍庫いきで、使う時に塩茹でか塩焼きにする予定。それで鑑定して食べれないなら諦める。
「作るのはいいけど、どこで作るかだよね」
ちょっとだけ困った顔して、クリフがエイコを見る。
「
「うん」
「あぁ、そうだ。危機感ないんだった。まぁいいか」
クリフに手を引かれ、向かった先は住宅街にあるアパートだった。特に冒険者用というわけではないらしい。
道に面した側に一つの階につき五つのドアがある。クリフは二階の階段から一番遠い部屋に住んでいるそうだ。
部屋に入ってすぐに水瓶や暖炉があり、この辺りがキッチンになるらしい。物はあんまりなくて、空間はあいており、エイコは冷蔵庫を出す。
クリフは冷蔵庫のドアを開け、しばらく見つめたあと、そっとドアを閉めた。
「エイコもお友だちもさばけない?」
こくりとエイコはうなずく。
「はい。がんばらせてもらいます。全部さばいて使い切れる?」
「冷凍すれば日持ちするから大丈夫」
切り身なら調理できるし、冷凍庫もある。
「かっこいい」
魚をさばく姿にときめく。
板前さんって感じじゃないが、職人さんではある。迷いなく包丁が動き、三枚おろしにされていく。
開きや五枚おろしにされる物もあるが、クリフの動きに迷いはない。
冷蔵庫の中身を半分くらいさばいたところで、クリフは料理を始める。
「みそ汁、作るね」
「なら、ご飯炊く」
エイコは魔導炊飯器をだして見せた。炊飯器があれば失敗もしない。専用の計量カップが、元の世界の一合と同じかどうかは不明だ。たぶん、似たようなもので、同じくレシピで作った釜のメモリに対応している。美味しく炊けるなら、一合の基準が違っていても、何の問題もなかった。
カレンが作れるようになったら、お茶碗も作ってもらおう。木の棒二本のお箸も改良の余地がある。
だしの取り方はメイとカレンに教えてもらったらしいし、すでにクリフはみそ汁をマスターしていた。
それから魚の塩焼きとソテー。
みりんと米酒のレシピも手に入れて、昨日のうちに作ってある。醤油とみりんでぜひとも照り焼きを作ってほしい。
そっと調味料を出して渡すと、にこにこと受け取ってくれた。
「研究しておくよ」
向かい合わせて座り、食事にする。
「いただきます」
「どうぞ」
久しぶりの魚だ。みそ汁にも魚が入っている。
元の世界では朝に干物、夜に刺身を食べていた。数日魚介類をまったく食べないなんてことはなく、腹を満たすだけでは満足できない物があると理解する。
あと、器は大事だ。ご飯とみそ汁だけでいいから和食器にしたい。カレンに作らせるためには稼ぐしかないかと、エイコは決意する。
「クリフ、魚のさばき方ってレシピで覚えるの?」
「レシピで覚えたのもあるし、人に教えてもらったのもあるよ。知らないのは解体スキルのおかげで処理できている」
解体はダンジョンガチャから出たもので、職能スキルではないそうだ。料理系で職能に解体があると戦闘職に分類されやすいそうで、モンスターや魔物を倒すのにも補正が掛かっているらしい。
食事が終わるとクリフは魚の解体を再開する。エイコは使った食器の洗いだけは手伝った。
清潔魔術で数秒で済むが、それ以上手伝いは邪魔にしかならない自覚はある。
解体の終わったクリフに、首飾りを渡す。
「どうしたの? これ」
「作った。耐性付きだから、できればずっとつけていてほしい」
シルバーのネックレスにチャームを三つ付けて、それぞれに耐性を付与している。
「指輪や腕輪だと料理の邪魔になりそうだったから首輪にしたけど、別の物の方が良かった?」
「エイコにもらえるならなんでも嬉しいよ。首輪ならずっとつけてもいられる。いろいろ考えくれてありがとう。なんの耐性を付与したか教えて」
「鑑定スキルあるよね?」
「君の口から聞きたい」
そんなささやきに、エイコは素直に口にした。
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