七月になりました

第44話

 昼過ぎ、無事、アパートに帰り着いた。

 オークションのお金受け取り手続きはリクシンの所の人がやってくれ、エイコは必要と言われた場所にのみサインをする。

 今後も冷蔵車や冷凍車を出品して欲しいと言った声は聞こえたが、対応は任せていたのでスルーした。


 それでも妙に疲れていて、少し休憩してからメイとカレンに声をかける。二人は昼ご飯を食べていたそうで、多めに作られたお弁当をおやつ代わりに分けた。


「なんか、疲れてるね。どうだった? オークション」

「マナミがいた。カナデ マナミ。職業歌手だって」

「よりによってアレもこっちに来てるの」


 メイが半笑いになった。


「アレと仲良くする予定?」

「マナミも冒険者なの?」

「いや、奴隷。昨日の最高額商品」

「高額だと奴隷から解放されないよ? 大丈夫なの。その子」


 心配する発言したカレンに、エイコは顔をしかめる。


「カレンって、マナミと同じクラスになった事ない?」

「ないよ。目立つ人だから顔はわかるけど」


 うらやましい事だ。


「エイコはマナミ嫌いだよね。原因はマナミだけど」

「スキルを得た分、この世界の方がヤバイよ。アレ」

「どんな人よ」


 ちょっと困った顔をしてからメイが語る。


「遊び友だちだったけど、グループ内の裏呼び厄災姫だからね」


 あははと乾いた笑い声をメイは響かせた。


「基本、人の彼氏はちょっかい出して、その気にさせて別れさせたあと、そんなつもりじゃなかったの。ってフルまでがセット」

「マウント取るのも趣味でしょ。いじめっ子だし」


 実害がなければ、どうでもいいクラスメートだったマナミ。それが嫌だと、関わりを拒否したくなるくらいに、エイコはうざからみされている。

 向こうから突っかかってくるのに、マナミの方がうざいと口にするし、人目がないとブスブスうるさい人でもあった。

 思い出すだけでも不快になってくる。


「面倒くさい人なの?」

「かまってちゃんでもあるね」

「遭遇すると不快な気分になる」


 元クラスメート二人の評価に、カレンは顔を引きつらせた。


「会わない方がいい人なのはわかったけど、奴隷になってるならそうそう会わないでしょう?」

「確認できたスキルが魅了、誘惑、洗脳、美貌、歌唱。ステージで歌ったら客を集団洗脳する可能性ありだって」


 黙った二人にエイコは語る。


「オークションで買ったの貴族の金持ちだって。権力者に会うためにわざと売られたとみるのは穿ちすぎ?」

「人攫いに遭うまでは計算じゃないと思うけど、オークションは狙ったかもね」

「奴隷がヤバイスキルもっていたら、封じるのが普通なんだって。実際異世界人の一人は封じられてたんだけど、マナミは野放し」


 魅了か洗脳でいつでも奴隷の首輪を外せるのではないかと、エイコは疑っている。


「それはもうオークションの運営側、落とされた後かも。穿ちたくもなるわ」

「悪役転生ものに出てくるヤバイヒロインみたいなスキルよね。権力者を侍らして逆ハーしそう」


 カレンの言葉に、嫌なことに気づいてしまった。


 今更ながら、ステージ上から顔認識して役職知ったら、アルベルトってマナミのタイプぽい。

 顔がよくて高い地位と高い収入があり、隣に置いておくと同性の嫉妬を集められそうな男。マナミの好みを完全網羅している。


 お手紙でも書いて、知らせた方がいいだろうか。せめてヤバそうな魅了耐性と洗脳耐性アイテムくらい作って送るべきか。

 お偉いさんなら、そういうアイテムを持っているかもしれない。持っているなら、新人職人品なんていらないだろう。


 それよりも存在を認識されたらクリフに手を出されそう。何かあると嫌だし、魅了と洗脳だけでなく、誘惑耐性アイテムも作って持たせたい。


 美貌と歌唱は、どう対応すればいいのだろうか。

 マナミがタイプとか言われたらへこむ。


 料理するのに指輪は邪魔になる。衛生面的にも違うものがいいはず。とりあえず、首輪ネックレスと腕輪でどの程度耐性アイテムができるな試してみよう。


「エイコはさ、何悩んでいるの?」

「メイがマナミと仲良くする予定なら引っ越ししようかと思って」

「会う予定ないから。マナミと一緒に切り捨てないで」

「わたしのご主人様、エイコだから。マナミじゃない」


 二人して引っ越しの必要はないと止めてくる。


「お偉いさんの奴隷ならまず会うことないし、警戒しすぎだって」

「そうそう。住む場所が違うんだから会うことなんてないよ」


 ご飯でも食べて落ち着けと、食事を勧められた。


「カレンが庭焼いた家の人、心配してたよ」

「心配されるといたたまれない」


 項垂れて、カレンはパンにかぶりつく。


「カレンのやらかした相手、人が良すぎない?」

「人生に余裕が溢れている感じはした」


 そもそも心が広くないと、カレンは借金奴隷ではなく犯罪奴隷になっている。


「一緒に遊びにおいでって言われたけど、社交辞令か本気かわからない」

「社交辞令を本気にしても、笑って許してくれそう。たぶん本気だとは思うけど」


 いきなり訪ねるわけにもいかないから、いつになるかはわからない。心配しているなら、カレンは元気に生きてるくらいは知らせたいとは思う。


「そいえば、メイ。余裕があったらドレスお願い」

「うん、それはいいけど、あまりパターンないよ」

「場に合わせた服はいるなって思ってね」


 さほど多くはないが、この街にもドレスコードのある店も存在している。


「ストールとか上着もあると助かる」

「まず夏用の作ればいいのよね?」

「うん。これから夏っていうのが変な感じだけど」

「確かに、あっちはこれから冬って感じだったもんね」


 世界が変われば季節も変わっていた。一年が一六カ月というとも違和感がある。たぶん、それは一三月になったらより強く感じるだろう。

 その頃には冬がきて、冬籠の準備をしておかなくてはいけないらしい。


 これから夏になるっていうのに、冬のためにお金を貯めておかなくてはいけないと話題になるくらいだ。そういう物として準備しないと、冬に準備が足りないのは死活問題になるらしかった。


「夏が終わる前にはカレン、奴隷から解放されないとヤバくない? 冬籠の準備できなくなるよね?」


 死なれたら嫌だが、ルームシェアは避けたい。


「屋根裏も地下も暖炉ないし、寒そうだよね」

「海外ニュースで強烈な寒波のせいで寝ている間に凍死とかいうのあった気がするけど、この辺りってどうなんだろう?」

「そこまでじゃなくても、奴隷って医者に診てもらえるの?」

「一応、薬は作れるけど」


 万能薬はたぶん風邪に効く。ただ、奴隷に薬は使う物じゃないとか、使うなら借金に追加とか、なんか法則があったはず。


「奴隷って、葬式どうしているんだろう?」

「待って、死ぬところまで想像しないで。窯さえあればがんばるから」


 そこは本当にがんばって欲しいが、窯がきつい。土地を買うお金、足りるかどうかも不安だ。


「明日、どこのダンジョンだろうね?」

「星五つのとこ」


 フレイムブレイドには奴隷が増えたことを伝え、連れて行く許可は得ている。彼らの真似をして週に二回ダンジョンに行ってみたが、向いていない。

 引率してもらう間は、自分達でダンジョンへ行くのをやめることにした。

 その分、買える範囲で素材を買い足しながら、それぞれの部屋で生産職スキルを育てている。


 早いとこ、カレンもスキル育てられる環境にしないといけないとは思うが、すぐにはどうにもしてあげられない。


 昼下がり、ダラダラと女子会をして過ごした。

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