オークションに参加します
第41話
六月末日、異世界人を目玉とするオークションが開催される。多くの人と物が集まり、昼と夜の二部構成になっていた。
昼間はお金を払えば満席でない限り入れるが、夜はもう少し条件が厳しくなっている。そのせいかドレスコードまであるそうで、メイに大急ぎで作ってもらった。
エイコの体型に合わせただけで、ほぼレシピ通りらしい。見る人が見れば既製品よりのドレスだとわかるそうだが、ドレスで競い合うつもりはなかった。
複数のオークションの出品と、招待客だったリクシンの紹介。この二つで、エイコはギリギリ入場者資格を得た。
富裕層だけを対象にしたオークションは、混み合ってはいても席は密集していない。
さて、どの辺りに座ったらいいものかと周囲を見渡すが、さっぱりわからなかった。
この会場で知っている顔は二つだけ。副騎士団長とリクシンで、どっちもお話中だ。女に囲まれている副騎士団長に近寄ったら女の争いに巻き込まれるだろうし、リクシンの方は悪い親父の集まりといった様相をていしている。
どっちも近寄ったらダメだ。
「おや、若い女性がお一人とは珍しい。お連れの方は?」
「お仕事中かな?」
「女性を立ったまままたせるとは、悪い方ですね」
白髪の混じる老紳士が穏やかに微笑む。
こちらへどうぞと手を差し伸べられ、お隣の席に座らせてもらった。
席に着くとそれぞれに小さなテーブルが置かれており、飲み物が提供される。わからないことはお任せしておくと、紅茶が出てきた。
老紳士の方はワインのようたが、お酒はダメですと諭される。
しっかりと鑑定してからティーカップにエイコは手を伸ばす。
生活するだけで精一杯の状態なら、のこのこオークションになんてこなかった。けれど入場条件が整い、入場料の一〇万エルくらいなら払えてしまえる。
エイコはこの一月足らずの間に、それだけの収入を得ていた。
一〇〇〇万エル始まりの奴隷なんてとても買えない。けれど、異世界人が知り合いかどうかだけは確認したかった。
おそらく、確認する機会もここでしかない。
ラダバナ在住者が買えば他でも可能かもしれないが、今回は他所から多く人が来ている。遠く離れた地に連れて行かれたら、もう遭遇することさえない。
誰かに会いたい気持ちもあるが、奴隷になっているのが知り合いでなければいいとも思ってもいる。
仮に借金奴隷だったとしても、売値だけでも一〇〇〇万エル超えだ。解放されることは難しい。犯罪奴隷なら解放は絶望的で、唯一可能なのが恩赦。
会って仲良くいられるのでないなら、知り合いでない方が気分はマシ。そんなことを思っていたら、徐々に席が埋まっていく。
空いていたエイコの隣にリクシンが座った。
「ダジアさんにご迷惑をかけたようで」
「あぁ、君の連れだったのか。若い女性を一人にするものではないよ」
「一人にすると何かしてくれそうだったもので」
「君の悪いクセだ」
どうやら仲良しさんらしく、話が弾んでいる。リクシンの笑みも、あんまり悪どく見えない。
「ダジアさんを簡単に説明するとぉ、家のお隣さんだぁ」
「庭が焼けた人?」
正解とばかりにリクシンが笑みを深めた。
「ふむ。その様子だと彼女が買い手か」
「ご主人さまにおねだりできるくらいだ。悪い扱いはしてないだろう」
「あきらめてくれたら、オークションに出品しなくてもよかったんですけどね」
穴窯作るのに土地を買うしかないのがツラい。カレン、奴隷なのに金かかりすぎだ。
目を細めてダジアは笑う。
「元気ならよかった」
「今日の髪、結ってもらいました」
髪については褒めてもいい。さらっと編み込みして、盛り髪にしてくれる。
本人、学校だと古臭い三つ編みだったのに、思いのほか器用だった。
「同郷だそうで、仲良くやってますよ」
そんな話をしているうちに席がうまり、オークションの開催が宣言された。
真っ暗と言うほどではないが、ステージの上を目立たせるために、客席側の照明が落とされている。近くの席の人の顔はわかるが、明るかった時とは雰囲気が違う。
「昼の方が冒険者の参加者が多いからぁ、実用性重視のはそっちで出てたぞぉ」
これからオークションにかけられるのは見た目がいいか、見た目も効果もいいかのどちらかになる。
金ピカのとか宝石が付いているのが多いようだ。
安いので一〇万エルから始まり、高くても一〇〇万エルくらいまで物が続く。そんな中、明らかに別格の剣が一本出てきた。
オークション開始値で一〇〇万エル。会場の熱量が変わる。けれど、エイコの両隣りに座る人はまだ冷えたままだ。
「武門系貴族が競り出したなぁ」
「いくつかはサクラだろう。引き際を間違えなければいいが」
「領主家が散財すると奴隷が増えるんだよなぁ。仕事を増やさないでもらいたいんだがぁ」
どうもこの辺りの席の人、武器には興味がないらしい。商品より客席を見ている。
「ねぇ、もしかして、席次って決まってる?」
「特には決まってないよぉ。一人座ると周囲に似たようなのが集まりやすいだけだぁ」
仲の悪い同業他社なら、席を離してくるそうだ。
「派閥の動向調べるには客席を見ていた方が面白い」
悪い笑みを浮かべ、リクシンは楽しそうにしている。逆側の隣でため息が聞こえた。
「やれやれ、若いね。君はいつまでも悪ぶりたがる」
「善人にはなれないさぁ」
武器の落札が終わると、美術品が出てくる。武器もまだ全部は出てはいない。ときどき高い物も混ぜてはいるが、開始値が安い物が先に登場するようになっていた。
「美術品って、鑑定しても価値がわからないわ」
「美術品で商売すのでなければぁ、好きか嫌いかで選べばいいさぁ」
「高ければいいという物でもないですからね。年代物の美術品なら、その経歴で歴史を楽しむ事もできますよ」
両隣りどちらもが楽しそうに笑う。
「戦っている絵は好きじゃない。そのくらいは好き嫌いあるけど、壺の好き嫌いって、どこで判断するするの? 色? 形?」
「今ステージにある壺を見た感想はぁ?」
「デカい」
司会者の腰くらいまである台の上に置かれているから、司会者より壺の方が大きく見えるくらいだ。
「あっ、カレンがあんな壺ゴロゴロ作り出したらどうしょう。絶対邪魔だ」
「売り物になるものなら対処するよぉ」
「作ったら持ってきてほしい。妻が気にしていたからね。どんな物ができたか見せたい」
カレンは最初に会った人の引きはよかったみたい。奴隷落ちさえしてなければ、面倒をみてもらえたのではないだろうか。
そしたらエイコは、土地購入のための金策なんて考えなくてよかった。窯も作らなくてよかっただろう。
価値のわからない美術品がいくつか続いた後、絨毯が出た。絨毯はエイコも出品している。エイコが出品した絨毯は絨毯の中では三番目だった。
「常暮れ草原ダンジョン産のこちらの絨毯。なんと、魔法陣が付与されており浮きます」
なんか、微妙などよめきが起きた。
「そういやさぁ、なんで浮かしたぁ?」
「浮かした方が夜営するのに寝心地が良かった」
「そうかぁ」
リクシンが沈黙すると、逆隣から声がかかる。
「移動はしないのだよね?」
「移動するのは魔法陣が違います。寝ている間に動いても困りますから」
一ニ〇万エルから始まり、緩やかに値が上昇していく。
「絨毯の物はいいんだよな」
「浮かせなければ普通の絨毯ですね」
リクシンとダジアが番号札を手にする。
一八〇万エルあたりで一万づつ刻まれていた値を二人が一〇万づつ上げていく。二人の商人が動いた事で、値の動きが活発になった。
二人は二七〇万あたりて札を下ろす。
「他にない一品だぁ。上手く売れば化けるからなぁ。一二〇万始まりは不当だぁ」
「魔法陣なしで売値が三〇〇から三五〇。付加価値でいくらつけるかが、商人としての腕の見せどころですね」
手数料を取られるから落札価格がそのままエイコの取り分にはならない。それでも土地購入の頭金にはなりそうだった。
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