第35話

 ガチャの列が半分くらいになった頃、クリフと会った。


「よかった。戻ってきてたんだね。夜ご飯、僕が作るから期待してて」


 彼の中でご飯は一緒に食べる事が決まっていたようだ。

 クリフはガチャが終わったとこらしい。身軽な様子を見れば、収納アイテムにしまっているのだろう。

 少し離れたところでクリフは立ち止まり、ダンジョンから出ないで荷物をいろいろ出し始めた。

 手慣れた様子で屋台を作り、料理を始める。そして、空腹を刺激するよい匂いを漂わせた。


 料理が完成したところでクリフは看板を出す。スープ一杯、パン一個おまけ付き、一〇〇〇エルもしくは銅メダル五枚。食材買取してます。との表示もある。


 一〇〇〇エルはたぶんぼったくり。でも、ダンジョン価格としては適正なのかもしれない。

 メダルでもいいあたり、新人冒険者でも払えなくはない値段設定になっている。


「これって、わたしらもお金払う感じ?」

「獣車のお金も払ってないし、高額になるようなら調理用魔導具で交渉する」

「そこはお願い。ご飯代くらいなら出せるけど、獣車代払えるほどの現金は持ってないよ」


 ボソボソ会話しながら順番になるのを待った。

 今日のガチャの順番はジャンケンに勝ったメイが最初で、奴隷だからとカレンが最後になった。

 一人当たり金メダル二枚と銅メダル三〇枚ほどで、フロアボスのメダルをもらったエイコだけ銀メダルが一枚ある。


 メイは銅メダルから先に使うようだ。順調に果物や野菜を出し背負い鞄に詰めているように見せかけてブローチの収納に入れている。

 皮や布はたぶんメイの職業補正の結果だろう。ガチャ結果の見えた前三組ほどの冒険者たちで布を出した人はいなかった。


 最後にメイは金メダルを使い、レシピを二枚だした。その場で覚えてしまう。小さくガッツポーズしたので当たりだったのだろう。


 エイコは金メダルから使う。本が出た。前回痛い目みたので、収納の腕輪から手袋をだす。魔力を流さないように気をつけて、腕輪に収納した。

 二枚目はレシピだったのでその場で覚える。覚えてからイラっときたのでカレンを軽く蹴飛ばした。


「えっ、何?」

「後でいう。とにかく、あんたのせい」


 深呼吸一つして、気分を落ち着け銀メダルを入れる。

 絨毯が出た。背負い鞄には入らないので腕輪に収納する。


「絨毯の呪いってあると思う?」


 メイだけが吹き出して笑った。


 絨毯が出たあたりで、もう半分くらいあきらめていはいる。あいかわらず薬材になる薬草の出だけはいい。

 変わったところで革。革靴の錬金術レシピが出たからかもししれない。

 そして、なぜかここのダンジョンで牛乳。メイはツボったらしく一人で笑っている。


「お腹いたい」


 果物?

 そんな子、ここにはいません。


 土が出た時は再びカレンを蹴る。絶対、こいつを奴隷にしたせいだ。

 ガッカリな気分でガチャを終えようとした時、大きな紙袋が出る。小麦粉だろうと思いつつ鑑定して、収納しようとした手が一度止まった。

 鑑定結果を二度見してから収納し、カレンにメダルを渡してガチャさせる。


「エイコ? どうしたの? 果物なら分けるよ」

「……出た」

「えっ?」

「白米。炊飯器ないのにどうしよう?」


 カレンには今日のために作った収納ブローチを渡している。ちらっと見ただけだが、土率が高い。

 それでも果物も野菜も出ている。


 背後に並んでいた人が奴隷がどうのと聞こえるように会話するから、人のいない方に向かってカレンに火柱を立てさせた。

 静かになって、とっても便利。汚いとも言っていたので、カレンが終わったらガチャボックスに清潔をかけておいてあげる。


「ニュースでさ、軍事演習ってなんでやるんだろうと思ってたけど、今ならわかりそうな気がするわ」


 しみじみとメイが語る。


「牽制って大事よね」


 エイコは深く同意した。


 三人の間で沈黙がおりる。メイは笑みを深め、みんなでクリフの屋台に向かった。


「ガチャ、終わった?」


 おいでおいでと呼ばれて屋台の裏にまわる。

 屋台の前にあるのは長椅子だが、裏にあるのは丸太を切っただけのイスが置いてあった。


「はい、どうぞ。食べながら待ってて」


 スープとパンを渡される。食事に差はなくて、カレンは自主的にイスを使うのをやめて地面に座った。

 その方が屋台の影に隠れるし、目立たないだろう。


「金メダルのレシピ。魔導穴窯だった」


 料理に使うのじゃないかまだ。


「材料集めるのも大変だけど、作るのも大変そう」


 土を錬金術で耐熱レンガにしなくてはいけない。そんなレンガの必要数が四桁。少しは土が出たけど、まったく足りない状態だ。

 カレンが出した分をあわせても、足りないし、そんなに土ばかり出したくないし、出て欲しくもない。


「そして、どこで作ればいいと思う?」


 完全にどこかに据え置き設置する窯だ。移動用ではない。一回作れば、獣車の引き車と一緒に組み合わせできそうではある。

 しかし、車体に木材が使えないので、それはそれで素材を集めるのが大変そうだ。


「窯って、山にあるイメージよね?」

「わたし、八〇〇〇個の耐熱レンガ作りなんてしたくないわ」


 一回の錬金術で一個しか作れないなら、絶対魔導穴窯なんて作らない。死蔵レシピ決定だ。


「待って、窯がないといつまでも役立たずのままだから。お願い、作って」

「この世界にも陶器はあるから、作れる所へ行けばいいわ」

「昔の陶工って、一門に秘蔵とかじゃなかった?」


 技術系は基本そんな物だ。情報公開を避けるために特許申請されない物だってある。


「メイ、余計なこと言わない。奴隷なら強制的に黙らせれるから、入り込める可能性もある」

「それ、奴隷として下働きだから焼かせてもらえないよね?」

「そこはカレンの自己努力でがんばってもらいましょう」


 エイコはカレンのためにそんなにがんばれない。


「お願い、見捨てないで」


 くすくす笑いながらクリフが寄ってきた。


「主人と奴隷というには君たちは楽しそうだね」


 スープがなくなったので、今日の屋台はもうおしまい。丸太のイスを出してクリフがそばに座る。


「クリフさんは奴隷の同席について何も思わないんですか?」

「その子、奴隷の首輪してるだけで、君らの意識として奴隷の扱いじゃないだろ?」


 食事処で奴隷が嫌われるのは、衛生面の問題で汚れているかららしい。


「料理を作る者にとって食中毒ほど怖いものはないよ」


 なので、病気になりそうなほど不衛生であれば、奴隷でなくても拒否するそうだ。


「奴隷はお金持ってないから客じゃない、ってのもあるかな」


 にこにことクリフ笑っている。


「食事も終わったようだし、食べた分働いてもらおうかな」


 小袋を一つエイコとメイに渡す。


「君たち二人はガチャしてきて。食材は全部僕のね。レシピとか職業としている物が出たら一つ三〇〇エルで買い取って」


 カレンは屋台の片付けのお手伝い。レシピが出ても買取れないので、肉体労働だそうだ。


「薬材出たら買取しないとダメよね?」

「料理に仕えるなら買取らなくてもいいけど、使えないのは困るでしょ」

「土もだよね?」

「薬材はまだ売れるからいいけど、土って買取してくれるところあるの?」


 土のままよりはレンガの方がまだ、買ってくれるかもしれない。


「もう全部メイがやらない?」

「わたしだとミルクや米は出ないから、がんばれ」


 長い列はもうない。順番はすぐにやってきた。

 土ばっかりだったらどうしようと悩むエイコを放置して、メイがガチャる。メイは順調に果物や野菜を出していた。

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