第34話

 カレンが食事をしている間に、午後の予定を考える。


「今のペースで六層を目指すと、攻略が終わった時には夜だよね?」

「カレンは階段の場所覚えてるのよね?」

「うん。覚えてきたし、地図も持ってきてる」

「なら、モンスター強くないし、六層まで最短距離で移動しない?」


 四層か五層の途中からまで進んでから戻るよりは、先に進む事を選ぶ。


「じゃ、基本方針それで、モンスターが強いと感じたら引き返そう」

「うん。決定」


 食休みをとり、攻略を再開する。

 どのモンスターも剣で一撃で、魔術を使わなくてもサクサク進む。落とし穴の方が時間を取られているくらいだ。

 落とし穴がちょっと深くなって、落ちてそのまま進もうもうとすると、ちょうど向こう脛を打つようにできている。

 今、引っかかっているのはカレンだけだが痛い痛いと騒いでいた。


「塗り薬あるから、夜まで我慢して」

「奴隷に薬はいいの?」

「罠避けられるようになったお祝いとかならいいんじゃない? ってことでがんばれ」

「応援ダメー。ご主人様の言葉は強制力あるの!」


 エイコは奴隷の扱いの面倒さにため息をついた。


「がんばれ」


 笑いながらメイが応援してくれる。


 四層へ続く階段の近くで冒険者にあった。四人組の男で、似たような年代の集まり。耳元でささやき、カレンに攻撃許可を出し、エイコはいつでも魔術を使えるように警戒しながら階段へ進む。


「女三人だ」

「あの首輪、奴隷だ」

「奴隷胸デケー」


 男たちの呟きに女たちの目が座る。


「セクハラバカだてヤっていいと思う?」

「去勢くらいならありじゃない?」


 流石にまったく手を出されていない状態だと、この世界でも過剰防衛かもしれないと判断する冷静さは残っていた。

 しかし、この不快感、どうしてくれようか。


 エイコは冷ややかな笑みを浮かべ、淡々と語る。


「そういえば、カレンの炎魔術、どんなものかダンジョンで確認しておこうと思っていたのよね」


 誰も人がいない場所を示し、使えと命じる。

 高々と火柱が上がった。こんなの住宅地に発生したら、もみ消しはムリだとエイコは納得する。

 タイミングがあえば空飛ぶ鳥も焼けそうだ。


 男たちは沈黙する。


「カレン、魔力欠乏症になってない?」

「うん。平気」

「それって、連発可能ってこと?」

「やった事ないけど、たぶん」


 そんな事を話しながら階段を降りた。

 先程の男たちはたぶん、三層のフロアボス狙いだったのだろう。追いかけてこないことにホッとしながら四層を進む。


 そこから先も遠目に冒険者をみかけたが、互いに近寄ることもなく、サクサクと進み六層入りしてからおやつ休憩をとる。

 おやつはミルクティーとドライフルーツ。カレンだけ後で、ドライフルーツを一切れ少なくしている。

 アオイも食べたそうにしており、平皿にミルクティーを淹れた。ドライフルーツは手に持っているのをあげる。

 満足そうだし、他の人の分から取らなければいいとした。


「ここのダンジョン野菜と果物が出やすいのよね?」

「それをミルクが出やすいダンジョンであんまりミルク出せなかったわたしに言う?」

「出なかったら分けるから、ドライフルーツ作って」


 作るのはいいが、果物が出なかったら悲しい。


「作るのはいいけど、どんなのがあるかな」

「畑で取れる果物なら、スイカとかメロン?」

「苺もある? 葡萄とかリンゴみたいな木になるのも出るかな?」


 あれこれ思いはするが、結果はガチャしてみなければわからない。

 休憩を終え、七層に向かう階段の方へ向かう。この層もフロアボスがいるはずだが、ここも冒険者が出現するのを待っているのだろうか。


 感覚的に、あんまり急がなくても日暮れまでには時間があるはず。少しだけモンスターを倒す事を意識して、寄り道しながら進んだ。


「逃げろ!」

「徘徊ボスだ」


 遠くから声が聞こえた。


「牛?」

「闘牛ぽい」


 逃げている冒険者とモンスターの足一本が同じくらいに見えるので、かなりの巨体だ。


「わたしが動き止めてみるから、止められて近くに冒険者がいなかったらカレンは炎魔術使って。冒険者がいるならメイね。動き止められなかったら逃げよう」


 エイコにとって一番使いやすい火魔術を使う。もっとも使える魔術がカレンの下位互換なのはおもしろくないが、使い所を選ぶので強力であればよいというものでもない。


 火手が牛のモンスターに絡みつく。モンスターに合わせて火手は太く大きくしていた。


「止まらないね」

「動きは遅くなった」

「鑑定したら、状態激怒ってなってる」


 あははと笑っていれば、モンスターの足が遅くなったことで逃げている冒険者と距離があいた。


「カレン、ゴー」


 数メートル先で火柱が上がる。


「でっかいキャンプファイヤー」

「死ぬかと思ったわ」


 のん気に見物してたら、とってもモンスターに近寄られていた。逃げ切れる気がしなかったので、倒せなかったら大ケガではすまなかっただろう。

 モンスターの姿が消えると、火柱も消えた。

 金メダルと宝箱が落ちているので回収に行く。


 熱かったら嫌なので、念のために水魔術で水をかけてみた。ジュッと音がしたので、素手で即触ろうとしなかった自分の判断をエイコは心の中で褒めておく。


「しかし、逃げ足は生産職でもみんな早いのね」

「エイコ、こういう時に身体強化系の付与魔術使うべきだったんじゃ」

「あー、そうだね。死にそうになってまでスキル隠すことはないか」


 話している間に、ドキドキしていた心臓も落ち着いてくる。

 宝箱を開けると金メダルが五枚入っていたので、一人二枚づつ分けた。


「ご主人様。ガチャの前に下さい。基本、奴隷に取り分なんてないです」

「いゃ、だって、カレンに陶芸のレシピ出してもらわないと危険でしょ。焼き物作ろうとする度に放火犯になられても困る」


 奴隷がやらかしたら、賠償しないといけないのはご主人様。レシピ覚えて安全に使えるようになってもらわないと、エイコまで借金奴隷になってしまう。


「これは必要な投資です」 

「エイコがいいなら、いいんじゃない? カレンは生産職の中だとかなり強者だろうし、奴隷から解放された方が今後の活動はしやすいでしょ」

「投資した分はバスタブとか水回り用品で返してくれたらいいわ」


 トイレが魔術洗浄なのはいいけど、形状が違うから落ち着かない。そのあたりは改造できるならしたかった。

 冒険者が逃げちゃったせいか、七層へ続く階段の前にフロアボスがいる。人間くらいの大きな犬。徘徊ボスを見た後だと迫力がないし、小さく見える。


「魔力余裕あるわよね? カレン、ゴー」

「はい、いきます」


 火柱が立ち、本日のダンジョン探索は終了にした。

 転移魔法陣を使いガチャボックス前の広場につくと、意外と冒険者がいる。百人くらいはいそうだ。


 混合ダンジョンと違ってガチャボックスは一つしかないので、結構な行列に感じる。

 夜営は獣車の中でするという話になっていたので、ガチャしてから外に出ないとメダルが消えてしまう。しかたなく、長い列に並んだ。


「わりと進みが早い?」

「戦闘職に比べたら倒すモンスター少ないはずだし、一人当たりのメダルが少ないんじゃない?」


 フレイムブレイドのメダルの稼ぎ方を、生産職で難易度低めのダンジョンにいる冒険者が真似できるはずがなかった。ただカレンは、上手く炎魔術を使いこなせば戦闘職並みにモンスターを殲滅できそう。


「カレン、投資した分はしっかり働いて返してね」


 無償ボランティアは嫌だ。

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