豊穣の畑ダンジョン 難易度⭐︎⭐︎
第33話
昨日のうちにメイに声をかけたら、ダンジョンに行くというので朝から三人で冒険者ギルドへ行く。
ちょうど混み合う時間がだったので、どうしようか悩む。依頼受けるわけではないし、列にはならばない。
依頼受けしているカウンターじゃないところへ向かい、声をかける。
「買取ですか?」
「違います。昨日、ダンジョン行く前に声かけてと言われたのですが、忙しそうなのでこれから行くとお伝え下さい」
「こちらへ、どうぞ」
カウンターの一部がはね上げられ、カウンターのしたの壁がドアのように折れ曲がり中へ入れるようになっていた。
「ねぇ、なんで名前も言ってないのに対応されてるの? カレン、なんか知ってる?」
「ご主人様の情報はしゃべれません。察して」
「昨日、何かあったんだ」
深々とメイがため息をつく。
「ちょっと散歩してただけよ」
「散歩してただけで、どうして買う気のなかった奴隷買ってきてるの」
「相手が商売上手だったから、かな」
ぼそぼそとそんな会話をしていたら倉庫に案内された。
「こちら、 生産職で、Dランク冒険者のクリフさんです」
「どうも、料理師のクリフです」
にこにこと自己紹介してくれる愛嬌のある男。生産職のせいか筋肉ムキムキでもないし、強面でもない。
初対面で威嚇してこないのは好感が持てる。
「人物面は冒険者ギルドで保証しますので、ご一緒にダンジョンへ向かって下さい。獣車の手配もしています」
拒否権なくゴリゴリ押し付けられ、四人で冒険者ギルドを出た。
「名前聞いていいかな?」
「メイです」
「エイコです」
「奴隷です」
「名前でお願い」
「カレンです」
予約された獣車はどこの店のものかクリフが知ってるそうで、先導してもらう。
外壁近くにあるお店で、車を引いてくれるのは大きなトカゲ。前回の鳥より、ちょっと足が遅くてちょっと力持ちらしい。
そのせいか車が大きくて、四人乗ってもまだまだ余裕がある。
「目的に到着するまで僕のこと話させてもらうね」
基本ソロ冒険者で、食材と料理レシピのためにダンジョンへ通っているそうだ。獣車はいつも借りており、だいたい一泊二日でダンジョンへ行っている。
「獣車に護衛一人つけると夜の見張りをしてもらえるから、僕は夜寝る派だ」
信用できる店と護衛を見つけられたら、おすすめだと言われた。ただし、お金がかかるので、稼げるスキルやレシピを持っていないとできない。
よっぽどガチャの引きがよくないと戦闘職なら赤字になるそうだ。
「昨日ダンジョンから帰ってきて、冒険者ギルドにいったら、女性三人の新人冒険者をダンジョンに連れて行ってと、頼まれたんだ」
「もしかして、今日は休養日の予定だった?」
「いや、どっちか決めてなかった。朝起きたら決めようかなくらいだね。星二つの生産職ダンジョンだから、休養みたいなものだよ」
でも、いつくるからわからない新人のために、朝早くから冒険者ギルドで待っていてくれた。
「君たち、朝ごはん食べた? よかったら僕の焼いたパン食べない? 感想を聞かせてくれると嬉しい」
指輪がどうやら収納アイテムのようで、カゴを出してからパンを取り出して入れていく。
飲み物にハーブティーも用意してくれた。
「鑑定スキルがあるなら鑑定してから食べて。食べ物はスキルがあるなら鑑定した方がいいよ。これから夏になるからね。食中毒防止のためにも大事だよ」
クリフも鑑定してから人には提供しているが、自衛のためにも食べる物は鑑定するクセをつけた方がいいとお勧めされる。
「木の実の入っているパン好き」
「気に入ってくれるパンがあるのは嬉しいね」
パンをゆっくりと味わっていたら、カレンから下げ渡してとなきが入った。
「ごめん、忘れた」
クリフがくすくす笑う。
「ご主人様が奴隷に謝ったらダメだよ。下げ渡しを求めたことを怒るくらいでないと」
「カレン、さっさと借金分稼いでよ。めんどくさい」
「わたしの食事面倒がらないで。食事がないと生死に関わるから」
「あー、死なせちゃうと罰金刑になるんだっけ」
そんな説明を聞いた気がする。
「お願い。本当にお願い。死なせないで下さい。本当に、お願いします」
「エイコ、うっかりで死なせそうで怖い」
「アオイみたいに勝手に食べてくれたらいいんだけど」
アオイは勝手にエイコの魔力をとっている。興味のある物は食べたそうに主張もしていた。
メイが仕方なさそうに、一緒にいる時は気にかけてくれると言ってくれる。これで、ダンジョンにいる時は大丈夫だろう。
「不思議なご主人様と奴隷だね」
「奴隷商がやり手すぎて断れなかったんです」
おしゃべりしながら獣車に揺られ、目的地にたどり着く。
ダンジョンの入り口は小さな小屋の前にあった。大きさ的にはお祭りなんかで設置される簡易トイレくらいで、ちょっと微妙な気分になる。
臭うわけではないし、木製の扉があるだけだ。
中に入るとガチャボックスの置かれた広場があり、魔法陣が三つ光っている。ここのダンジョンは三層ごとに転移魔法陣があり、ダンジョンボスは一〇層にいるそうだ。
クリフは今日は六層から攻略するらしい。
「新人ちゃんたちの夜営は手伝うから、夕方になったら戻ってきてね」
ひらりと手を振ってクリフは魔法陣を使う。クリフがいなくなると、魔法陣の光はなくなった。
「買ったダンジョン情報によると迷うほど複雑な構造はしてないみたい」
「じゃ、さっそく行こう」
「待って。ご主人様、何か忘れてないですか?」
「ん? あー、モンスター倒してよし。敵対者倒してよし。自衛しろ。あーでも、制御できない炎魔術はダメ」
カレンの初期装備品は奴隷落ちしたときに被害者の物となった。それらは、奴隷から解放されたから返してあげてと、被害者からリクシンに預けられている。
なので、カレンの装備は、エイコがガチャで出して使っていない品々を装備させていた。
剣の使い方も奴隷商店にいたときに習ったそうで、一応使えるそうだ。
ここのモンスターは、ぬいぐるみのようなデフォルメされた犬やネズミだ。そこにごくまれに動く植物が混じる。
フィールドはダンジョンの名前にもなっている畑で、たまに足首まではまる落とし穴があった。殺傷力はないが、油断していると足首がグキッとなる。
エイコとメイはそんな罠を避けられたが、カレンはけっこう引っかかっていた。これはフレイムブレイドのスパルタ教育の恩恵かもしれない。
サクサク倒して銅メダルを拾いながら進み、三層に降りる階段を見つけたところでお昼休憩にした。
材料を出したらカレンがスープを作れるそうなので、そちらは任せてエイコとメイは周囲を警戒する。
スープが出来上がると、エイコはカレンに警戒を変わってもらいミルクパンを錬金術で作った。
錬金術で作っても焼きたてで、湯気が出ている。
「メイ、包丁だと難しいそうだけど、魔術で切れない」
「やってみる」
さらっとメイは風魔術で、三等分にして見せた。
先にエイコとメイが食事をし、奴隷と差別化するためにチーズを一口分づつ増やす。
食べ終わったら警戒を交代し、カレンに残りを下げ渡した。
「誰かは警戒していないとダメだけど、一緒に食事できないのは面倒ね」
「でしょ、下げ渡しって習慣ないし」
文化の違いを実感する。
「慣れた頃には奴隷から解放されてそうだよね」
「慣れる前に解放したいから、カレンには金になるレシピを引き当ててもらいたい」
「陶芸でお金になるの壺?」
「茶器は国宝とかあったけど、そういう文化あるかな?」
「陶磁器とかティーカップとかでも高いのあるし、そっち系じゃない?」
たしかに、紅茶は見かけたが抹茶は見ていない。
なんでもいいので、芸術的価値のある物を作ってくれれば、きっと奴隷から解放できる。
「絵皿もいいかも。カレンって絵、得意だった?」
「同人誌系の絵なら描けるよ」
恥ずかしそうにカレンは視線をさらす。
「何もかけないよりはいいね」
見本があれば、ある程度描けるってことだろう。そうそうに奴隷を手放したいエイコは、どうにかなると願った。
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