第32話

 冒険者ギルドの応接室で手続きを行う。

 まず、アルベルトがエイコの保証人になった。それにより冒険者ランクがFからEに上がる。

 カレンが冒険者ギルドの奴隷登録でランクなしとなり、アオイを従魔登録した。

 それから、屋根裏部屋と地下部屋を借りる事が決定しており、契約書にサインする。

 地下部屋には奴隷商の店主リクシンが素材を運び込むそうだ。


 奴隷の待遇はよくしすぎてはいけないらしい。犯罪奴隷ほどではないとはいえ、借金奴隷も罰則であり、相応の扱いをしなければいけないそうだ。

 そのため、カレンが使ってもいい質の物を、リクシンが今日中にアパートに送ってくれる。そのあたりの事が、エイコたちの到着を遅らせている間に決まっていた。


 お腹のすいたエイコは流れに身を任せる。たぶん、抵抗すると時間がかかってしまう。

 流れるように手続きは終わり、更新された冒険者カードを見る。


 保証人に従魔に奴隷と情報が増えていた。


「このような手続きは今回限りにして欲しいです」

「うん、明日はダンジョン行くから大丈夫」


 ダンジョンならお偉いさんに捕獲されることもないだろう。


「フレイムブレイドのみさなんと行かれるのですよね?」

「行くのは生産職専用ダンジョンだから、そのためにダンジョン情報買ったんだし」

「ちなみに、どちらへ行かれる予定ですか?」

「星二つの豊穣の畑。獣車で明日行って、明後日帰ってくる予定」


 獣車の手続きするから明日の朝冒険者ギルドに来いとか、奴隷は生産職だから連れていけとか、メイを誘ったらどうかとか、口うるさい人が多すぎる。


「お腹すいた」


 うんざりして、つぶやけばリクシンが冒険者ギルドの外へ連れ出してくれる。そのまま獣車に乗せられた。

 今度の移動はリクシンも一緒に獣車に乗っている。


「騎士団の二人はもう帰るからぁ、食事は一緒じゃないよぉ」

「それは朗報ですね」


 リクシンは笑い、奴隷と一緒に獣車に乗ることを拒否する人もいるので注意する様に言われた。


「小言ばっかりうんざりする」

「この世界常識がわからないとそうなるよなぁ。君ら幼児が知っていることも知らない状態だからぁ、小言が嫌なら成長してくれ」

「これでもがんばってるだけど」

「君は自らの価値を理解していない」


 ニヤリと笑うリクシンを怖く感じた。


「副団長さま。かなり君に対して甘く優しい対応だったとわかっているかい?」

「舌打ちいっぱいされたのに?」

「あっちがその気になればぁ、冒険者ギルドに囲われている程度、どうとでもなる権力者だよぉ」


 物を知らない子どもを相手だと見逃されただけで、エイコの態度は犯罪奴隷に落とされてもおかしくなかったそうだ。


「そういう貴族もいると覚えておけ」


 逆らうことを許さない怖さのある笑みから、穏やかなものへと変える。


「君が気配消すのに使ったスキル。スキルも隠せるから隠しとけ」

「へっ?」

「あの長髪の鑑定士の兄ちゃんには見えなかったらみたいだけどなぁ、オレの鑑定は人に特化してるんだよぉ」


 職業奴隷商の職能として鑑定スキルが使えるから、本人がステータスを見るより多くのことを知れるそうだ。


「君に好意で加護くれている神さまはダンジョンを作った神の一柱だとも言われている」


 そう言われている神様はかなりたくさんいるそうだが、マイナーな神様も多い。エイコに加護をくれたのは大神の一柱で、ダンジョンでなんらかの影響を受けているはずだと言われた。


 そっちは冒険者でもないリクシンは詳しくない。しかし、ステータスについては専門家ともいえるほど詳しいそうだ。


「商業の発展している町は鑑定待ちが多いからな」


 悪目立ちしないように、どのスキルを隠すか指導してきた。


 職業がまず珍しいそうだ。偽装スキルでもないとここはいじれないので、職能スキルを三つくらい残してあとは全部隠す。

 称号も魔導具神の戯れ以外全部かくして、称号スキルは火魔術だけにする。

 技能も二個あればいいそうで算術と水魔術だけにした。


「職能はどれを表示してたらいいか迷う」

「魔導具作成、錬金術、鑑定だなぁ」


 基本、希少職種なので職能スキルは人前で使わないように言われる。使うとしても鑑定と錬金術までで、付与魔術と魔法陣は邪な人間に誘拐を決意させるそうだ。

 契約書にサインを迫られたり、兵士に捕らえられたり、奴隷落ちしそうになったら保証人を呼ぶといいらしい。守ってもらえる分、一人では契約できなくなっていた。


 子どもを扱いに思うところはあるが、さっぱりわからない世界だ。一人で契約するのは心配だし、いいとしよう。


「えっ、あの人、もしかしていい人なの?」

「君にとっては悪人にはならないだろう」


 カレンが自らを指指す。リクシンは首を横に振った。


「直感スキル持ち同士だからぁ、わかりあえることもあるんだよぉ。君、鳥の籠にして大事に守っても、鳥籠を破壊する子だ!」

「えへっ」

「否定しろよぉ」

「安全は大事だけど、閉じ込められるのは嫌だ」

「神様の加護多い子はどうしてこう、困ったちゃんが多いのかねぇ」


 そんな話をしている間に到着したようで、獣車が停まり外からドアが開けられる。


「お店?」


 看板は見当たらない。目につくのは高く長い壁だ。


「家。奴隷に食事させてくれる店はありません」

「だましたの?」

「ご飯は食べさせてあげるよぉ」


 おそらく、この辺りは高級住宅街。よくもまあ、こんな邸宅が並ぶところでカレンは庭の土をもらおうとしたものだ。

 壁も背丈の倍は軽く超えており、そんな高い壁で隠せなかった火柱って相当なものではないだろうか。

 順当に扱えば犯罪奴隷なのも納得だ。


 家に通され、案内された先は庭に面した部屋で、窓ガラスから陽光が差し込んでいる。


 奴隷の食事はご主人様から下げわたしで、吝嗇家のご主人様にあたると極限まで食事を減らされるらしい。


 エイコはリクシンと同じテーブルで食事をし、カレンは庭に出された。


「無理やり買わされたのに、扱いを下にするのは嫌かい?」

「無理やり買わせた自覚あったんですね」

「アパートで暮らしている分にはぁ、君の食事が終わってから屋根裏部屋で食べてもらえばいい」


 問題は人の目のあるところだ。獣車はご主人様と一緒なら乗れるが、奴隷だけだと借りられないことが多い。

 屋台で買った物を買い与えるのはいいが、高い物と席のある飲食店はダメで、店の外で奴隷を待たせておくのも店側が嫌がる事が多いそうだ。


「外食したいなら一緒に出かけたらダメなのね」

「そうなるなぁ。その場合、奴隷用にごはんを用意しておかないとぉ、奴隷は飯抜きになるなぁ」

「料理の仕方覚えたんでしょう?」

「奴隷個人の持ち物なんてないよぉ。食材はご主人様の物だぁ。勝手に料理して食べるなんてできない」


 ご主人様が命令するまでもなく、盗みは奴隷の首輪により禁止行動とされたいる。暴力は、ご主人様が許可したときに許可した相手のみに可能になるそうだ。

 ダンジョンにいくならモンスター討伐許可と敵対冒険者制圧許可くらいは出しておかないと自衛もできない。


「ごはん美味しいのに、不味くなる話題ですね」


 ソーセージにサラダとスープ。パンは柔らかくてちょっと甘味があり、サラダには果物がついている。


「奴隷貸してくれという人が来たらぁ、断ってやって」

「そういう人って、魔術で攻撃していいもの?」

「町の外なら奴隷連れて行こうとする人は盗賊扱いでいい。君には自分自身と自らの財産を守る権利がある。抵抗するのは当然の権利だ」


 その権利がないのが、奴隷。だから自らの財産として守れと言われた。

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