第31話
借金奴隷の売買で、一〇万エルというのはぼぼ底値らしい。若い女の売買ではまずありえないそうだ。
そんな取引も、立会人をつける事で疑惑を払拭できる。そのため、立会人は偉ければ偉いほど契約書の正当性が高くなるそうだ。
副騎士団長という地位は、執政官、騎士団長につづき、ラダバナにおいて上から三番目に偉いらしい。
そんな役職を持つ人が立会人となって、カレンを買わされた。
応接室で一度、奴隷商の店主から冷凍車の代金の一部として、現金一〇〇万エルをもらう。そこから一〇万エルをカレンの代金として渡す。
「これ、残額をお偉い騎士さまに渡す感じ?」
「いらん。現金がなくて買い物に困っている者から受け取れるか」
渡さなくていいなら、適当に半分くらいサイフに入れて残りを腕輪の収納にしまう。
「立会人に謝礼を渡すのは慣例だねぇ。現金以外に高価な物や珍しい物を渡すこともある」
「それなら、絨毯かな? あと一枚くらいなら減っても足りるはず」
収納から出して、アルベルトは手を出さないのでパトスに渡す。
「ダンジョン産の絨毯か。これなら冒険者ギルドがオークションにかけるのも納得だ」
あと、何かあっただろうか。ポーションは入手しにくいだけで、すごく高価でも珍しくもない。
「マナポーションって珍しいになる? あっ、変わったのだと万能薬っていうのがあった」
収納からだして、封入瓶を中身の入った二本置く。
「錬金術で作られたマナポーション。上級品質。封入瓶入り。経年劣化(微)」
「万能薬もほぼ同じだねぇ」
鑑定スキル持ちの二人がため息ついて、アルベルトが舌打ちする。
「こんな物作れる子を、将来危険になるかもぉ、では殺せんなぁ」
「直感が保護しろと主張するのはこのせいか」
「そして、何を出したか自覚のない落ち人ですか」
男たち三人が視線で会話するから、エイコはカレンに視線を向ける。
「何かまずいの?」
「わかんない。でも、リクシンさんいい人だから大丈夫」
「それなら、ここにいればいいのに」
奴隷商は奴隷解放手続きはとれるが、自らが所有している奴隷は解放できない。そんな決まりがあるから、一度も売られないまま奴隷から抜け出すことはできないそうだ。
「ここで、何学んでたの?」
「この世界の奴隷についてと、料理と、わからないスキルはダンジョンで使えってことかしら」
「へー、変わったスキルあると大変ね」
目の前て上がった火柱は、使った本人も怖かったらしい。
「そういえば、どう呼んだらいい? ご主人様? エイコ様?」
「うわ、ひく」
「奴隷の作法だから。様式美よ」
「名前よりはご主人様がマシだけど、基本呼ばないでよ」
「人前だけはあきらめて」
そのあたりしっかりと線引きしてないと、処罰されるのはカレンらしい。
「あと、食事も同席したらダメとか、毒味はよくても食事はご主人様が先とかあるから、よろしく」
「犬の躾?」
「扱いが人じゃないから、そんな感じね」
「クーリングオフしたい!」
残念ながら、ラダバナにはそんな制度はないそうだ。子どもを守る法律も特にはないそうで、子ども労働力らしい。
「今日、何してたの?」
「異世界観光。見ものしてたら捕獲されたけど」
「で、代わりにわたしを売ろうとしたと」
「カレンこのタイプ好きでしょ。こんな感じの絵がついたクリアファイル持っていたし」
「な、なんで知ってるの」
「隠していたいなら、学校で使ったらダメでしょ」
顔が赤くなっているけど、隠せていたつもりなのだろうか。
「乙女ゲーの攻略対象にだいたい一人はいるのよ!」
「そうなの? ゲームはRPGとパズルしかしないから」
「べ、別に乙女ゲーにハマってたんじゃないわよ。攻略対象同士の同人誌が」
おほほとカレンは笑うが、何にも誤魔化せていない。
「ちゃんと観賞用ってわかっているから引かないで」
「マジでS彼氏とかやめてよ。S彼氏って、基本勘違いDV彼氏がほとんどだから。わたしにだけ優しいんじゃなくて、お金くれる人に優しいのはヒモだからね。彼氏じゃないよ」
「何、なんか過去に失敗でもあるの?」
「ないよ。やらかした人が近所にいただけ」
ダメ男製造機とあだ名をつけられ、彼にはわたしがいないとダメなのと酔いしれていた。近隣の奥様はそんな彼女を、水曜日の女とも呼んでいる。
彼氏ほしいというクラスメートと、近所で起きる修羅場な恋愛(?)に、エイコは彼氏はいなくてもいいかなと思っていた。
近所でおしどり夫婦と呼ばれていたイケメンなイクメンは、救急車で運ばれている。どうも過労だったらしい。
悪グチあだ名が、仮面夫婦から恐妻家に変わっていた。
結婚もしなくていいかと思った。
「二次元の彼氏って平和でいいかも」
「待って、落ち着いて。この世界、元の世界ほど二次元発達してないから」
オンラインゲームとアニメは確実にない。本はありそうだけど、マンガはないか。美人画みたいなのはあるかも。
「音声なしだと、ときめける気がしない」
「うん。それでいいから、やめとこう。ご主人様が道踏み外すと奴隷は巻き添えになるから、本当にやめて下さい」
「ならさっさと稼いでくれ。職業活かせるようになったら、バスタブ頼む。最初は足湯でもいい」
ランプの外側を作ってもらうのもいいかもしれない。
「部屋は風呂ナシ?」
「シャワーはあるよ。タオルなくて困ったけど」
「カレンちゃん。屋根裏部屋にはシャワーもトイレもないぞ。共用トイレはあるはずだが」
冒険者ギルドのアパート、トイレとシャワー付きのよい部屋だそうだ。料理にも使う暖炉のある部屋と冬籠用の倉庫があるのが個室の主流で、複数の部屋があるならルームシェアしているらしい。
「ポーションの質がよくないとぉ、いい部屋にはならない。質の悪いポーションを多く納品してされてもぉ、困るからなぁ」
どんなに質のいいポーションを作っても、奴隷は部屋を借りられない。名義としてはエイコが追加で借りたことになる。
「君ら二人で冒険者ギルドへ行かせるのは不安だなぁ」
「放置はできん。そちらも立ち合おう」
「えっ、そろそろごはん食べに行きたかったんですが」
青い瞳に見下ろされると萎縮するが、エイコとしてはそろそろ解放してもらいたい。
「引き車の対価に素材も贈りたいからぁ、冒険者ギルドで地下倉庫も借りよう」
そのために店主もついて来てくれるらしい。
「おじさんと一緒に冒険者ギルドへ行くと、お昼ごはん食べに連れて行ってあげるよぉ? 奴隷と一緒に入れる店はぁ、ほぼないよぉ? 二人で大丈夫かなぁ?」
冒険者ギルドで食事をしようとすると、エイコだけ食べることになり、カレンは食べさせないまま、そばで待たすことになるそうだ。
基本、飲食店に奴隷が座っていい席はないから、奴隷は食事ができないらしい。
同行者を拒否できないまま、冒険者ギルドへ向かう。店主が貴族を歩かせられないと獣車を用意したので、獣車二台での移動となった。
獣車はエイコとカレンが一緒で、もう一台を男たちが使っている。
「家にある食材、小麦粉と乾物とミルクとチーズくらいしかないけど、料理できる?」
「野菜とか肉はないの?」
「全部乾物になってる。きのこもある」
「それならできると思うけど、鍋やフライパンはあるのよね?」
「あるよ。電気コンロみたいな魔導具もある」
カレンは料理は習ったと自信があるようなので、食べれる物を作ってくれると期待したい。
歩いて行けるような距離を移動しているのに、冒険者ギルドになかなか到着しなかった。獣車専用の道を使うと遠回りになるのだろうか。
そんな呑気なことをおもっていたら、もう一台の獣車はずいぶん前に冒険者ギルドに到着していたらしい。
あえて遅くなるように遠回りにされていた。
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