街を散策します
第27話
朝起きて、身体に痛いところがない。寝具の良さを実感しながら目覚め、金属の洗面器(自作)に水魔術で水をためて顔を洗う。
タオルがある生活はいいと思いながら顔をふいて、洗面器の水を火魔術で蒸発させ、洗面器とタオルに生活魔術の清潔をかける。
もう魔術なのない生活はムリだと思いつつ、着替えをして闇手で木靴を取り寄せベッドから降りた。
寝室を出て、保存容器にいれた買い置き品を朝食に食べる。
飲み物はミルクティーだ。アオイが欲しがるので小皿に入れて分けてあげる。
ドライフルーツも食べるが、アオイは市販品には反応しない。どうも錬金術で作ったものを食べたがるようだ。
食事が終われば掃除と洗濯。全部、清潔魔術で終わらせて出かける準備をする。
昨日、町に戻ってから真っ先に行ったのが冒険者ギルド。人は増え始めていたがまだ、混み合うほどではなく。頼んでいた寝具を受け取り、ダンジョン情報を買取って、絨毯を売る。
絨毯はまたしてもオークションで、と言われてしまったので、ポーションを売り現金を手にした。
そのついでに、冒険者が買い物するのにいい店を紹介してもらう。ものすごくフレイムブレイドにもギルド職員にも心配されたが、この世界では成人している。元の世界でも成人ちょい前だ。
それに、からまれないよう隠者スキルも使う予定。認識されなければ散歩くるいできるだろう。
何より人と一緒に行動するのに疲れた。
もともと、学校をサボる時も一人でサボる派。みんなで一緒にというタイプでもない。
昨日手に入れたネックレスをつけて服の下に隠す。帽子を被り髪の毛を隠して、更にマントを来てフードかぶる。アオイはフードの隙間に収まった。
部屋を出て鍵を閉める。アパートの門番に外出を告げ、隠者スキルを発動させた。
人とぶつかりそうになって歩きにくい。仕方ない、人の多い通りを避けて道の隅を歩く。
住宅地だと、小さな広場に井戸があり遊具のない公園みたくなっている。あと、そばに洗濯場もある事が多かった。
もしかして、アパートの中庭に井戸があるのは珍しいのだろうか。使った事はないが。
今の時間だと洗濯している人が多いようで、だいたい女か子どもの仕事のようだ。どうやら黙々と洗うのではなく、井戸端会議をしながらのようで、誰それが結婚するやどこどこの家で子どもが生まれるなんて話をしている。
そんな光景を何度か見て商店街に出た。アパート近くの商店街とは雰囲気が違っている。
食べ物屋が少なくて、通りを歩く人も男性率が高い。どうも、武器や防具を扱っている店が多いようだ。
午前中の早いうちから酒を提供している店もあるし、赤ら顔で豪快に笑っている人もいる。
感覚的に、隠者スキルがしっかり発動しているのを再確認してから、フードを深く被り直す。
元の世界て、初めて夜の街を訪れた時のような危うさとドキドキが混ざった感覚に、エイコの足取りは軽くなる。
どうやらこの通り、怒鳴り合うのはコミニケーションの一つのようで、至る所で発生していた。その内のいくつかは手が出ていたが、一方的な暴力ではなくケンカになっている。
これが、男同士のコミニケーションというやつなのだろうか。そんなのにまざりたくないし、関わりたくない。
そんな男と一緒になって、にぎやかしてる女はエイコとは違う感性の世界の住人だ。
男友達か彼氏かわからないが、そんな相手が殴り勝つと嬉しいらしい。暴力が正義で、強いのが良いことなのだろう。
ここのコミニケーションには感覚が違いすぎて混ざれない。テーマパークのパレードを遠巻きに見る気分で見物して、通りを歩いていく。
道を一つ曲がると、職人街のような通りがいくつもあり、エイコは鍛冶屋が多く立ち並ぶ通りに足を踏み入れた。
武器を扱う店が多い中、素材屋が混じっている。金属類は鍛治職人も使うが、魔導具師も使う。
買って帰りたいが、そのためには隠者のスキルを解除しなくてはいけない。金属は重いので背負い鞄にいれて運びたくないから、たぶん収納アイテム持ちなのも知られる。
値段はわからないが、木箱に雑に置かれている物は高級品ではないだろう。折れてようが、錆びていようが、精製されてなかろうが、錬金術素材としては問題ない。
道の隅で立ち止まり悩んでいると声をかけられた。
「あんた、盗人か客かどっちだ?」
「あれ? スキルきれた?」
「あん、見えるスキルがあんだよ」
「へー、一応、客になりたいけど、これ、いくら?」
話しながら店の中へ入っていく。
「いくらあるんだ?」
「一〇万くらいはあるはず」
「店入るならスキル解除しろや!」
「えー、認識されるとスリに遭うからイヤ」
「オレが独り言しゃべっているみたいになってるじゃねぇーかっ。店の中までスリこねぇ、来るのは万引きだ」
店の奥の方へ入ってから隠者を解除する。
「で、何に使う物が欲しいんだ?」
「錬金術の素材になればとりあえずなんでもいい。レシピ手に入れたけど、素材が足りなくて」
「確かにそれじゃ、ガラクタでいいな。一箱一万でどうだ?」
「箱ごと売ってくれる?」
「あっ、まあ、いいか」
サイフから一万エル札を三枚出す。
「じゃ、三箱お願いします」
「三箱も買うなら値引き交渉しろよ」
「あーそういうの向いてないんで、あきらめた。あと出しで値上げされたらさすがに買わないけど」
いかつい店主に大きなため息をつかれる。
「重いが運べるか?」
「うん、そういうアイテムあるから」
「じゃ、入り口に置いているのは全部持って行っていい」
木箱は四つ置かれている。
「頼まれて置いてるが邪魔なんだよ。持って行けるなら持って行け」
お金を渡してから隠者を再び発動させ、腕輪の収納アイテムにしまう。再び、店の中へ戻り、スキルを解除した。
「ありがとう。ここって武器持って来たら買取ってくれる?」
「物による。基本は買わねぇがな」
「廃品専門なの?」
「ああいうのは付き合い上しかたなくだ。ウチは鞘の装飾に使う物が専門なんだよ」
そんなもの、見える所には何も置かれていない。だだ、店の敷地内面積に対してすごく売り場が狭くて、カウンターの奥は見える範囲が全て引き出しになっている。
「もしかして、魔物素材も扱ってる?」
「ガラクタに喜べる嬢ちゃんに売れるような安物はねぇーぞ」
「うー、それは稼げたら買いにくる。ナイフの鞘ならどんな感じになる?」
「物によるとしかいえねぇな」
それはそうか。現物見せた方が早いかもと思いつつ、口頭で伝えられる範囲はがんばってみる。
「投げナイフくらいで、金属の鞘ならどんな装飾になる?」
「見た目のいい金属なら彫金でもいいが、色味が欲しいなら魔石か着色した皮も使う」
着色はメイがてきるかな。染料の調合はできると言っていた気がする。
「彫金したの見てみたいです」
「お前が買取ったやつの中に割れたのならあるぞ」
「それは家で探します」
店主は仕方なさそうに細身の短剣を持ってきた。鞘と柄で一体感のある装飾がなされている。
「これは見本でな、片方が三万でもう片方が三〇万だ」
デザインは同じで、色味の違う短剣を二本並べる。短剣はどちらも同じ鍛治職人が作っており、差があるのは装飾だけ。切れ味や効果に差はない。
「三〇万の方は短剣の質に対して過剰装飾だがな、差がわかるか?」
「飾りについてる魔石質が違うくらいはわかりますが、あとは色が違うような気がするだけですね」
たぶん、魔石の質がいい方が高いはずだが、色味だけではどちらがいいかなんてわからなかった。
「まあ、素人じゃ、そんなもんだろうな。実際、冒険者がダンジョンの中で使うには安い方でいいからな」
高い装飾品を使うのは、貴族か変に稼いで金の使い所がわからない冒険者くらいらしい。
知らなくていい世界だと諭された。
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