第25話

 夜ごはんの準備は、先に戻って来ていたフレイムブレイドのメンバーがしてくれていた。

 ごはんとか見張りとか、そういう負担はフレイムブレイド持ち。マナポーションでフレイムブレイドが雇われている関係で、エイコとメイはお客さんだ。


 でも、もうちょっと体力がついて、戦えるようになったら、そういう練習もするらしい。


「ガチャしてきていい?」

「ミルク出たら困るわよ?」

「保存容器? みたいなの持って来たから使えるか確認したい」


 冷蔵庫もある。


「ごはん食べてからならいいわ」


 一緒に食べてくれないと片付けができないのでダメだと、待てがかかる。お腹は空いていたので、大人しく食事を先にした。


 草原の大地に直座りし、平皿にロールパンみたいなのが二つと、深皿にスープを入れてくれる。

 柔らかいパンは今晩までで、明日の朝からは保存用の堅焼きパンになるそうだ。

 スープは干し肉や干し野菜が入った塩味で、フォークで食べるようになっている。暖かい物ってだけでホッとした。

 味の方は空腹がいいスパイスになっていそう。


 食事が終わると、使った食器に清潔をかけて返す。それから立ち上がり、自分と身につけている物に清潔の魔術を使う。

 そうして、生産職専用のガチャボックスの前に向かった。


 最初に取り出したのは金メダル。ガチャっとやってでてきたのは黒っぽい卵だった。

 卵型をした石だろうかと思いつつ鑑定しながら手に取る。


 何かの卵。魔力を与えると孵化する。


 鑑定、どうやったら育つんだろう。もうちょっと情報が欲しいと思いつつ、与えるつもりもないのに、手しているだけでどんどん魔力を奪っていかれる。

 エイコはふらつく前に座りこむ。ヤバそうならマナポーションを飲むつもりでいたが、身体がだるいくらいのところでおさまった。


 卵にヒビが入り、嘴ぽいのが見える。色はともかく、ひよこだ。夜空のような黒に近い藍色の毛をしたひよこが手の平の上に乗る。

 卵から出てくると、卵の殻は消えた。どんな素材が興味あったのたが、ダンジョン品はよく消える。


 ひよこはじーとエイコを見つめており、じっとしている間に鑑定した。


 何かの雛。従魔、待機中。

 ※名前をつけて下さい。


 親切なのか不親切なのか、もうちょっと鑑定には頑張ってもらいたい。


 名前か。オスかメスかくらいわかればいいのだが、エイコの鑑定では不明なままだ。


「アオイ」


 鑑定結果が変わった。


 何かの雛。従魔アオイ。


 鑑定、本当に頑張ってほしい。とりあえず、大丈夫そうなので立ち上がり、踏まないようにガチャボックスの上にアオイをおいた。

 銀メダルを取り出してガチャる。


 指二本分くらいの厚みがある本が出てきた。本の形をしたレシピだったようで、情報量の多さにうずくまる。

 頭痛と耳鳴りがするほどの情報量に、油汗が出た。


 座っているのもつらくてその場で横になる。パタパタと小さな羽を動かして、アオイが落ちるように飛んできて、肩に止まった。

 メイとリラもやってきて、リラがフレイムブレイドが用意したテントに運んでくれる。


「大丈夫?」

「頭、痛い」

「ラミン、わかる?」

「病気の鑑定は出てない。寝てりゃ治るだろ」


 リラの視線の険しさに、ラミンは仕方なさそうに語る。


「魔術書取り込んで倒れた魔術士の話なら聞いたことがあるが、寝で起きたら元気だったらしいぞ」


 そうか、寝ればいいのか。情報がぐるぐるしすぎて寝れそうにないけど、目をつぶっていればちょっとだけマシになった気がする。

 先程の本は魔術書ではなかったが、獣車関連のレシピ集だった。

 アオイ、車引けるくらい大型化するのだろうか。成長後のことも気になるが、あのアパート、ペット飼えるかも心配だ。


 餌は何を食べるんだろう。生の小麦粉いけるかな。それよりは果物とか野菜だろうか、肉食の可能性もあるか。

 虫食限定だったら、飼うのは諦めよう。面倒見れないし、自分で餌とれても見せに来られたら受け入れられない。


 そなことを考えているうちに、エイコは眠りに落ちていた。

 寝て覚めたら頭はスッキリしており、フレイムブレイド以外の冒険者はいなくなっている。


 彼らは夜中の内にダンジョンから出ていったそうだ。ラダバナの開門に合わせて町に到着するようにしているらしい。

 気温の下がった夜の内に、ミルクを運ぶのを仕事にしている人だそうだ。冒険者ギルドを経由しないで、高級料理店や富豪を相手に契約している人もいるらしい。


 で、今は明け方前らしく、見張りで起きていたリラが朝食の準備を始めていた。


「ごはん食べれそう?」

「はい。食べたいです」

「それはよかった。もうちょっとでできるから、できたらみんな起こそうね」


 待っている間に銅メダルを回してくる事にした。

 草原だからだろうか、薬草やハーブがよく出る。ミルクティーとか封入瓶(大)とかレシピも出た。

 でも、出やすいと言われたミルクが出ない。


 おっ、レシピファイルが出た。五十か、集まるかな。銅メダルを全部使っても、レシピは一三までしか増えなかった。


「ミルク出なかった」

「エイコ、三十枚くらいはあったわよね?」

「うん。草とレシピばっかり」


 その中にはミルクパンレシピもあり、小麦粉を使った主食が作れる。ぜひとも試してみたいが、ミルクはない。

 魔導具のレシピでオーブンやトースターみたいなのもあった。パンがあれば、温め直しはできるはず。


 生クリームのレシピも悪くはない。悪くはないが、材料となるミルクがないと何にもできない。

 ポーションの素材もマナポーションの素材もでたので、金策はできそうだ。けれど、今欲しかったのはそれじゃない。


「エイコは職業やスキル補正が高いんだね。まあ、とりあえずご飯にしよう」


 みんなテントから出てきていて、すでにテントは解体されている。

 雨の降っているダンジョンでなければ、突然の雨にさらされることもない。時間変化で気温が変わることもないが、ダンジョンの明るさも変わらないままだ。

 寝るには明るすぎるとテントを持ち込む冒険者は多く、状況によってはダンジョンの外で泊まる事もある。

 しかし、ダンジョンの外へ出てしまうとダンジョンメダルは消えるてしまう。そのため、ここのダンジョンの様に、日持ちしない物が出やすいダンジョンは内部に泊まることが多いそうだ。


 朝食は昨夜とほぼ一緒。違うのはパンが堅くなったことくらい。


「ミルク欲しい。保存容器と冷蔵庫の確認に」


 そんなエイコの呟きに、メイがガチャしに行った。一〇枚回したら三本出たのでやめてたらしい。


 ミルクは三本とも種類が違っており、牛系のを保存容器に一本移し、もう一本を冷蔵庫にいれて収納の腕輪にしまう。

 残った山羊系のミルクは錬金術でチーズにした。

 八人と一匹でわけると、試食分くらいしかなかったのでその場で食べてしまう。


 朝食のスープやパンは食べなかったのに、アオイはチーズを食べるようだ。ミルク系の物がいいのだろうか。

 その場合、エイコじゃ今のところ出ていないので、メイに頼むしかない。

 エイコの魔力を勝手に取っていっているようなので、ミルクがなくても餓死はしないだろう。 


 試食の結果は臭いで苦手という人と、匂いはきついが味は好きという人に分かれた。たぶん、ミルクと一緒にいれた葉っぱが変われば味も匂いも変わるだろう。

 ただ、発酵食品用の素材になっている葉っぱは明らかに形が違うのに、エイコの鑑定だと全部何かの葉っぱと表示される。


 本当に、鑑定にはがんばってもらいたい。


 なんとなく、同じ素材でヨーグルトもできそうだし、錬金術がどうなっているのかも謎だ。

 美味しく食べられる物ができるなら、エイコはその過程なんて気にしない。


 食後の休憩も終わると、ダンジョンの五層へ向かった。

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