第24話

 三層に到着しても、特に様子は変わらない。たまに罠を避けられるようになり、兎が三体前後で現れるようになったくらいだ。

 狼はだいたい一体だが、ときどき二体で現れることもある。一体は魔術で倒していたら、次からはエイコとメイで一体づつと言われてしまう。


 闘わせる事に関して、リラは厳しい。


「ダンジョンは奥へ行くほどモンスターが強くなるの。強くなりながら進まないと行き詰まるわ」


 モンスターに対して、余裕を持って対処できないなら先の層には進まない方がいい。今いる層が厳しいなら戻って力をつけた方がいいそうだ。

 無理や無茶が直ぐに死につながるのがダンジョンという場所で、五体満足でダンジョン探査を終える事が何よりも大事だと語る。

 何も失う事なくダンジョンから出れば、次の機会を得られるそうで、ダンジョンボスやフロアボスに命がけで挑んではいけない。


 蘇生薬や蘇生魔術というのは神話や伝説、おとぎ話の中にしかないそうだ。受肉って、たぶん蘇生とは違う。身体は生まれる時に得た物とは別物で、スキルに肉体操作があるあたり、人によく似せた別の物だと思ってもいる。

 何しろ偽装種族がヒューマン。受肉体が別種族となっている以上、何かは違うのだろう。


 狼に慣れてきた頃、山羊に出会った。ただ、デカい。狼の三倍くらいある。

 迷わず火弾を使ったら、避けられた。しかも、突進してくる。メイも魔術を使うが当たらない。


 ナニコレ。


 他のモンスターより明らかに強い。

 突進してくる間隔がかなりおそいから、一度避けたら態勢を立て直す時間はある。次の突進までに何度試しても火弾は当たらなかった。


 何か手はないかと考えて、手でつかめばいいとかと思いいたる。闇魔術でしか使ったことはないが、エイコにとって闇魔術以上に火魔術は使いやすい。

 火が手の形になり、山羊に絡みつく。悲鳴を上げ暴れるが、からみついた火の手は解けない。

 倒すには火弾では威力が足りないから、スキルが主張するまま槍のイメージを作りあげる。


 火でできた槍が山羊を貫き、モンスターが消滅した。

 モンスターは倒せたが、くらりとめまいに襲われる。魔力欠乏症のような反応だが、まだそこまで魔力は使っていないはず。


「エイコ、メダルと宝箱拾ったら休憩」

「魔力が残っていても、大きな魔力を使うと魔力欠乏症になることもある」

「今まで二つの魔術同時に使った事はないでしょ?」


 慣れたら平気になるが、最初はそんな物だと、モンスターが残した物のそばへ行って座りこむ。

 銀メダルが一枚と小さな宝箱が一つあった。


「銀メダルってことはやっぱり徘徊ボスだったか」

「探すと出会えないんだよな、まあ、三層なんて入り口近くにいるような物でもないんだが」

「運がいいんだか悪いんだが迷うとこね。でも、宝箱でたから、悪くはないか」


 同じ層の他のモンスターより明らかに強いモンスターに出会ったら、逃げるのが基本になる。ただ、他の冒険者にモンスターをすりつけるのはやってはいけない事なので、逃げる方向は選ばないといけないし、冒険者のいる方向に逃げるしかない時はいかに早く知らせるかが重要だ。


 逃げろと助けてくらいは、走りながら叫べるように練習しておくといいらしい。運が良ければ強い冒険者が助けてくれる。

 弱い冒険者なら、なすりつける前に逃げてくれるのて、なすりつけ行為は成立しなくなるそうだ。


 エイコは銀メダルを拾い、両手の上に置けるくらいの宝箱を持ち上げた。

 木製の箱で縁に黒ぽい薄い金属の飾りが付いている。重さはあまりない。飾りの一部が留金になっているようで、外して開けると金メダルが二枚入っていた。

 二枚のメダルを取り出すと箱が消える。残念。消えないなら持って帰りたかった。


「メイ」


 動くのがだるくて呼びよせ、金メダルを一枚渡す。


「いいの?」

「ん? そういうもんなんでしょ」


 メダルを手にするのが倒した人だけではパーティーは組めないと言っていた。分けられないもならともかく、二枚あるなら一枚づつ手にすればいい。

 フレイムブレイドの二人の報酬はマナポーションなので、モンスターが落とした物は渡す必要はないし、がんばった分として銀メダルはもらっておく。


「あれ倒せるなら五層のフロアボスは倒せるわね」

「休憩が終わったら狙いにいくか、そろそろ復活していてもいいころだからな」


 エイコとメイに任せたままならそろそろ一層に戻る予定だったらしい。しかし、フロアボスが倒せるならと、リラとラミンの案内で先に進む事になった。


「マナポーション飲んで回復させて方がいい?」

「やめろ。そんな収支バランスのおかしい使い方はダメだ」


 フレイムブレイドの金庫番でもあるラミンは、ダンジョン上層で使うようなアイテムではないと熱弁する。


「じゃ、ポーション? あれだと疲労回復効果ありそうだよね?」

「なくはないだろうが、やめろ。そんな事にポーションを使うな!」


 死にそうになっていたり、戦闘に影響のあるケガをしていれば、ダンジョンの入り口だろうが使う必要はある。それならラミンも文句はない。

 冒険者が稼ぐためには消耗品の消費をいかに抑えるかは大事な事だそうだ。ただ、ケチりすぎて死んだり後遺症が残るような判断をするのも間違いだと語る。


「でも、材料入手したら自分で作れる分、食事よりポーションの方が安上がり」


 売れば、食事何回か分になるのはわかっている。そのくらいの計算はできるが、自分で作れてしまうとありがたみが薄いというか、高級感がない。


費用対効果コストパフォーマンスとして問題ないなら、ありといえばありたが、オレは精神がもたん」


 その使い方はフレイムブレイドと一緒ではない時だけにしてくれと、お願いされた。


「これが戦闘職と生産職のさなのか?」


 モンスターの対処がリラだけでできてしまうせいか、ラミンは思考の沼にはまり込んでいる。ぶつぶつ思考を垂れ流す怪しい人になっているが近寄ってきたモンスターは危なげなく倒しているので問題はないだろう。


 休憩が終わると五層へ向かった。案内付きで、モンスターも間引いてくれるので、サクサク進む。罠だけは教えてくれないから、何度か引っかかった。それでも、最初の頃に比べれば避けられるようになっている。


 五層フロアボスとして階段の前で待っていたのは、またしても山羊ぽいモンスターだった。


「メイ、攻撃力高そうな魔術使える?」

「うん。たぶんやれる」


 エイコは突進される前に火手で、モンスターの動きを止めてしまう。まとわりついている場所から焼かれているので、モンスターは悲鳴を上げていた。

 メイは動けない相手に向かい魔術を放ち、縦半分に切断する。なかなかエグい映像になったがダラダラ血を流すこともなく消えてくれた。


 落ちていた銀メダルを拾い、メイに渡すと、階段を進み魔法陣に乗る。それで出入り口前の広場に戻ると他の冒険者やフレイムブレイドの面々がいた。

 不人気ダンジョンとはいえ、やって来ている冒険者はゼロではないらしい。


「はい、二人に問題です。今は日暮れ前でしょうか? 後でしょうか?」


 リラからの問題に少し考える。


「暮れた後」


 エイコが答えれば、メイもうなずいた。


「そこがわかっているなら、どうすれば日暮れ前に戻ってこられたでしょうか?」

「最初のボスモンスター倒したとこで、引き返す?」

「道案内してもらったから、戻るにしても同じくらいは時間掛ったんじゃない?」

「ボスモンスターに遭遇した頃には戻らないとダメだった?」

「それか、遭遇する前。三層に入ってすぐくらいじゃない?」


 エイコとメイがどのあたりが戻るのに適していたのか話してるのを、リラはにこにこと聞いている。

 考えるのは大事なことで、答えが合わないより何の意見もでない方が良くないそうだ。あと、冒険者パーティーとしては意見を出し合える環境をつくっていないと、ある日突然もうやっていけないと解散になるらしい。


 議論は必要だが、相手を非難するのはダメ。失敗を指摘するなら、改善方法もセットにすること。改善方法がない物はふせげないから、考えるのはその状況に陥らないためにどうするか。

 考えることを、今日一日のダンジョン探索を通してうながしてきていた。



 

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