社会見学に行きます
第20話
ミルクはダンジョンで手に入れたい。酪農している村で直接買ってこられるならともかく、移動中の保存状態が気になる。
そんなミルクより、エイコは錬金術レシピに大いなる可能性を感じていた。チーズなんて発酵食品が作れるなら、味噌や醤油、
狙うなら、米と豆が手に入りやすいダンジョンだ。
ただ、入手できたからといって使えるとはかぎらない。炊飯器があれば米くらいは炊けるが、炊飯器のレシピってあるだろうか。
味噌が手に入れば、味噌汁くらいは作れるはず。具は入れすぎなければだいたいなんでも合うらしいから、きっと、この世界の野菜でも大丈夫だ。
でも、だしって、どうしたらいいんだろう。顆粒だしが食材として出てくればいいのだが、この世界ではまだ見かけたことがない。
だしの作り方、家庭科の授業で習った気がする。一番だしがどうの、二番だしがどうのという家庭科のペーパー試験があったのまでは思い出せたが、内容がスカスカだ。
メイ、料理できる系だったかな。そんなイメージはないが、ここは年の功でトミオあたりに聞いてみたい。
学生よりは、一人暮らし男子の方が料理できそうではある。でも、トミオに嫁がいたら期待できないか。
あった時の印象だとトミオは家庭がありそうで、アラサーだったというユウジは結婚はしてなさそう。チャラ男シオタは彼女いない歴=年齢。
なんの根拠もない推測でしかないが、エイコははずれていないと思っていた。
冒険者ギルドに何を売っても手元にお金がこないと思いつつ、買ったばかりのレシピを覚えてしまう。
これも自己投資になるだろう。もしくは、冒険者ギルドとの円滑な関係のための投資だとでも思っておく。
部屋の賃貸分のポーションを作り終え、いるかどうかわからないが、生産職ダンジョンへ一緒に行ける相手も探してもらう。
冒険者ギルドでやるべき予定を消化し、フレイムブレイドの棲家へ向かった。
昼間に行ってみれば、フレイムブレイド家はちゃんと認識できる。次は来ようと思えば来られるが、一人でふらふらするなと怒られてしまった。
この世界では一五歳は大人で、享年なら一七歳だから、子ども扱いはしなくていいいのにひどい。
戦闘職と生産職ではそれだけ強さに差があるんだろうけど、過保護だ。
生まれ持った職業と関係のない職種についている町の人は多いらしいし、戦闘職だからと誰もが身体を鍛えているわけでもないそうだ。
ただ、戦闘職は鍛えてなくても最初からある程度身体を上手く使えるらしい。
鍛えていない人同士でケンカすると、職業とスキルが優位な方が勝つ。この差を埋めるのは容易ではないそうで、騎士家系で生産職が生まれると廃嫡になるなんてこともあるそうだ。
職業とスキルはとっても大事なものらしい。
「職業やスキル狙いで人身売買されたいか?」
「ひどいところだと男なら種馬、女なら母胎としてしか扱われないわよ。死ぬまで産むだけの道具にされたいの?」
自衛は大事だと熱弁されるが、どうにもピンとこない。
「仕方がない。見せに行くか」
「語るより見るが早いわね」
フレイムブレイドの家の前を通り過ぎ、街の中心へ向かって歩いて行く。
街の中心を通る道は幅が広かった。片側二車線プラス歩道付きくらいは広いが、道の真ん中で屋台が出ていたり、オープンカフェがあったりと賑やかで、獣車が駆け抜けられるようにはなっていない。
獣車が駆け抜けられるのは町の外か専用の道だけだそうだ。
屋台で日持ちしそうなものを買いながら移動する。そのために背負い鞄を持ってきていた。
本当は腕輪の収納から保存容器を出しているけど、鞄から出す動作をするだけで多くの人は誤魔化せる。スリはリラとラミンが追い払ってくれていた。
そんな二人の守りを突破してサイフに手をかけた人もいたのだが、紐が付いているのでエイコも一緒に引かれこけそうになる。
リラがスリを蹴り一つでのして、ラミンが抱きとめてくれたのでケガはしないですんだ。
「この街犯罪者がいっぱい」
「いっぱいいても普通はここまで狙われないから」
「警戒心持て」
ラダバナ、ダンジョン都市じゃなくて犯罪都市だと疑いたくなる。異世界0歳児に犯罪都市は難易度が高い。
受肉が慈悲だというなら、もっと治安のいい街にしてほしかった。
「あー、アレだ。都会怖いってヤツね」
「うん、そうだね。エイコは平和すぎる田舎から出てきたばっかりぽく見えるよ」
「早々に騙されて転落人生歩みそうだが」
評価が辛い。
大通りに建物を構えている店はどこも大きく、足を止める人も多い。そんな店の一つが、奴隷商だった。
入り口の目立つ所に複雑な紋様のある金属板が掲げられており、鑑定すると公正奴隷取引証となっている。
合法で真っ当な商売をしている証明らしい。半年一回の検査を受け、三年から五年に一回更新手続きをしないと失効するようで、全ての奴隷商が手続きしてもらえるわけでも、証を手に入れられるわけでもなさそうだった。
「いらっしゃいませ」
明るく元気に迎えてくれたのは首輪をした女性。奴隷な従業員だった。
「どういったものをお探しですか?」
「元冒険者っている?」
「犯罪奴隷と借金奴隷がいますよ」
「やっぱ、冒険者の期間奴隷はいないか」
ラミンと店員の話から奴隷は三種類いると知る。
「冒険者さん自身が依頼の奴隷みたいなものですからね。奴隷商に来る前に冒険者ギルドで金額だけはいい依頼を紹介してもらうのではありませんか?」
「そういう依頼は生き残れるかも怪しいから、そんな依頼を受けるくらいなら期間奴隷の方がいいよ」
背後でこっそりとどんな依頼かリラに問えば小声で返事をくれた。
「
異世界言語ががんばったと思われる単語をつぶやかれる。
「ああいう依頼は扱いが犯罪者奴隷よりだから」
冒険者もなかなか闇の深そうな仕事らしい。でも、あの闇の中できいた声には冒険者ギルドをお勧めされた。
人生イージーモードではないってことか。ノーマルまでは許容できるので、ハードモードでないことを願いたい。
エイコは、すでに奴隷落ちしている受肉体がいることからは目をそらす。
首輪を付けた店員と付けてない店員が複数おり、客も複数いる。
条件だったり、用途だったり、道具を品定めするかのように奴隷を選んでいた。ものすごい特別な事ではなく、単なる買い物として商談が決まると奴隷を買って帰る。
冒険者が欲しがる奴隷とは、ダンジョンに連れて行ける者だ。目的としては荷運びが多く、それに加えて器用に雑用をこなせる者が好まれる。
そうして連れてこられたのは三人の奴隷だった。三人とも借金奴隷という分類で、お値段三〇万エルから五〇万エルだ。
高いのかが安いのか悩む。
「ねぇ、借金奴隷って、いくらの借金したらなるの?」
ボソボソとリラに問えば、聞こえていたようで、店員の方が答えてくれた。
「借金返済ができなかった場合に奴隷として売るという契約があれば、足りないのが一エルでも借金奴隷になります」
それは極端な例ではあるが、貧困から親が子を売るなんてこともある。しかし、冬が越せなくてその季節だけ生き延びてくれればいいのなら期間奴隷として売るか、親自身が出稼ぎのようにやってくるそうだ。
「冒険者の方ですと、依頼不達成による罰金が払えなかった方や、依頼失敗による賠償責任が発生して払えなかった場合ですね」
奴隷商は借金額や賠償額で奴隷を仕入れてはいないので、買値は奴隷個人の質によるそうだ。
奴隷落ちという罰則で支払えなかった金額分を補ったという考えらしい。
冒険者ギルドとやりとりするのは罰則のない売買だけにしよう。それで冒険者カードは維持できる。依頼は怖いと、エイコは記憶した。
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