第19話

 叶うかどうかはともかく、要望は出しておこう。持ってきたもらった薬草でポーションを作りながら口を開いた。


「生産職ダンジョンに入れる冒険者って、どうやって探したらいいですか?」

「一緒にダンジョンを探索してくれる人をご希望ですか?」

「ダンジョンの中はどっちでもいいんだけど、ダンジョンと町の間が怖い」

「それでしたら獣車を借りられるのはどうでしょう」


 なんらかの獣が車を引いている乗り物を全部獣車と呼ぶらしい。牛や馬ぽいのもいれば、トカゲや鳥もいるそうだ。

 速さや運べる荷物の量、引く車の質で借りるお値段はかなり差がある。一日や半日といった単位で借りることもできるが、往復という借り方もできるらしい。


 日単位で借りるとその期間内に戻って来ないと追加料金が発生する。往復という借り方になると、帰りの迎えの時間に必ずダンジョンから出てなくてはいけない。

 ただ、相手はダンジョン前で待っていなければ、客なしで帰ってしまうが、迎えに来る方は時間を守らない事もあるそうだ。


 一泊二日までなら日借りで、数日ダンジョンに滞在することときは往復がお勧めらしい。

 せっかく寝具も頼んだところだ。夜は部屋で寝たい。


「日帰りしやすい生産職ダンジョンありますか?」


 ダンジョンの位置情報と難易度は無料公開されている。これがわからないと依頼が受けられないので、無料情報になっていた。

 ただし、モンスター情報やダンジョン内部の情報は有料な物が多い。難易度が低いダンジョンは安いそうなので買うことにした。


 ゲームならよっぽど行き詰まらないと攻略情報なんてエイコは調べないし、見もしない。けれど、ケチってケガはしたくないし、無駄に迷いたくもなかった。




 今日のエイコは積極的。なので、メイは隣で黙っていた。


 ヤベー姫が本気だしてきてるー!


 元の世界で、同性の同級生からのエイコの陰口は大きく分けて二つ。優等生とムカツクわがまま姫だ。

 エイコはなんちゃって優等生なので、これにムカついている人は外見とか本人の持つ雰囲気を嫌っている。基本同じクラスにいてもあまり関わりのない子たちだ。


 もう一方のわがまま姫は実害を受けた人たちのグチになる。何しろ人の話を聞かない自由人だ。協調性はない。

 それでも、オトモダチの彼氏とるのが趣味とか、恋人同士の間に揉め事な種をばら撒く人たちよりは良いと思う。


 エイコは何もわからないと質問しつつ、冒険者ギルドに手続き関係を全て丸投げする気だ。冒険者ギルドには是非ともがんばってもらいたい。

 メイもこの世界の知識は少なかった。問われても答えられないことばかり。それに、エイコのお世話をしてくれる人が多ければメイの負担も減る。


 収納ブローチ。エイコは気軽にくれたが、あれ買うと確実によいお値段だ。部屋着とか寝巻きとかカーテンなんかではお返しにならない。

 値段を調べると、毎食ご飯くらい作ってあげなくてはと思いそうなので、調べはしなかった。今のところ冒険者ギルドにもフレイムブレイドにも秘匿しているようなので、メイも口を閉ざしている。


 それにしてもエイコ、ダンジョンへ行く気満々だ。


「エイコ。今月は一緒にダンジョンへ行こう。あなたたちだけで生産職ダンジョンへ行くのはもう少しダンジョン慣れてからの方がいいと思うよ」

「そうですね。フレイムブレイドの皆さんと一緒ならダンジョンの往復も危険はないでしょう」


 そういえば、月末にオークションがあると言っていた。一人でふらふらさせていたら商品にされそうと、フレイムブレイドも冒険者ギルドも判断していそう。


「一人でならいつでもいけるんだから、教えてもらえる内に甘えておこう?」


 さすがにエイコ自身が商品にされたら、メイも気に病む。


「でも、レシピは生産職ダンジョンの方が出やすそうじゃない?」

「ダンジョンによって出やすい物はありますが、レシピは職業やスキルの影響を受けるだけで、どちらの方がということはありません。思い込みによるゲン担ぎみたいたものですよ」


 間違いない。冒険者ギルドの人、エイコをフレイムブレイドと一緒にいさせる気だ。


「一月くらい先輩についてダンジョンへ行くのはすごくいいことですよ」


 望んでも、先輩に連れて行ってもらえない新人冒険者はいっぱいいる。フレイムブレイドと一緒にダンジョンへ行けるのがいかに貴重な機会で幸運なことか熱弁していた。


 リラはその話に乗っかったが、ラミンは引いている。

 熱の入った言葉にだれてきたらしく、エイコはチラッとメイに視線を送ってきた。


「ダンジョンにいつ、どこにどらくらい行くかはフレイムブレイドの方と話します。今は、冒険者ギルドでないとできないことをしよう?」

「うん。武器というか、道具? の買取査定してほしい」


 そう言って出してきたのはナイフだ。


「投げても壊れないランプはまだ作れそうにないけど、光るナイフはできた。ナイフと柄の間にある魔石がスイッチで、柄の端にある魔石が魔力供給元。ナイフだから投げられるよー」


 さすが、自由人。気ままに変な物出してきやがる。鑑定持ちのギルド職員とラミンが驚いているのに気づいてほしい。

 ポーションを鍋から瓶に移してくれていた買取担当者が、ナイフをマジマジと見る。


「これ、一二本セットで作れますか?」

「作れると思います」

「なら、セットで用意して下さい。面白そうなのでオークションに出します」


 現金化するには時間がかかるが、驚くほど高額になることもあるそうだ。さして値段があがらなくて、手数料ばかりとられ、取り分が減ることもある。

 しかし、デメリットがあっても需要があるかどうか調べるにはいいらしい。


「オークション?」

「冒険者ギルド主催のオークションもありますが、小さい物なら毎日ように町のどこかでやってますよ」


 ついにエイコも、オークションの存在を知ってしまった。

 異世界人が商品として出てくるオークションは冒険者ギルド主催ではない。町でそういう興行を、合法的にする人たちがいるそうだ。

 連れ去られたのに、合法的という扱いにメイは恐怖を感じる。

 そしてこの町には、闇オークションという非合法のものもあるそうだ。


「オークションって、レシピも出る?」


 エイコの今の興味はレシピ。

 冒険者ギルドでレシピ依頼出したらどうかと勧められているが、オークションの方が好奇心を刺激されている。

 メイはがんばれとギルド職員を心の中で応援していたが、敗色は濃厚だ。


 空気読んで自重できるなら、エイコの陰口のあだ名がわがまま姫になんてなっていない。


「エイコ。レシピは自らダンジョンで手に入れる物よ。オークションなんて邪道だわ」


 生産職でもないリラがしたり顔で語り出す。もう、これは勢いだけで誤魔化す気だ。


「オークションなんて高い入場料金を払ってもほしい物があるとはかぎらないの」


 ガチャも出るとはかぎらない、なんてツッコミは思うけどだけにしておく。

 エイコはダンジョンにも行くが、冒険者ギルドに依頼も出す事にした。だからといって、オークションに行かないとはいっていない。


 エイコが出した依頼は錬金術レシピで、分類料理。素材に小麦粉を含む物と指定していた。

 エイコは食材を見て作るの諦めるくらいだし、生活することを考えるとメイも調合で簡単にできる料理があるならレシピがほしい。


 ギルド職員が一度席をはずし、ギルドに保管している分がないかとレシピの確認にいってくれた。

 しばらくして戻って来たギルド職員の手にはお盆があり、複数のレシピがのっている。


「全部錬金術のレシピです。条件にある小麦粉を使った物は一つだけでした」


 鑑定証によると、ホワイトソースのようだ。条件は合っているけど、これじゃない。


「ミルクってあるの?」

「酪農をやっている村が近くにありますから。ガチャからもでも出ますよ」


 ただ流通量は多くなくて、ダンジョンもミルクが出やすいところは少ないそうだ。


「ミルクの出るダンジョン知っている。ほしいなら連れていくわ」

「いいですね。ミルク。一緒に持ってきたレシピがチーズ、ヨーグルト、バターとなっておりまして、ミルクを手に入れるなら持っておくといいですよ」


 ミルク、入手難易度が簡単ではないようで、レシピを出した人は覚えるより売る方を選んだらしい。そんな不良在庫レシピをまとめて冒険者ギルドは売りつけてくる。


 よほどエイコに散財させたいようだ。そして、あっさりと全部買うエイコ。全部買った方が安いならと、買わないで。

 今ならおまけにミルクティーのレシピも付いてくるって、通販サイトか。


 エイコが詐欺に合わないか、メイは心配になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る