第18話

 迎えに来てくれたのはリラとユトだった。四人で歩いて冒険者ギルドへ向かう。近くのコンビニへ行くくらいの気軽な距離だが、冒険者ギルドの近くのせいか、行き交う人は武装している人ばかりだった。

 朝出かけた時も似たような感じだったのだが、空腹だったエイコの視界には食べ物屋しか映っていない。


 空腹は感じているが、なんでもいいから食べさせろというほどまだ飢えていない。フレイムブレイドの二人がいるので、安全確保もできている。

 そんな余裕ができたおかげか、周囲を見る事ができていた。


「思ったより人少ない?」

「混み合うのは朝と夕方だけよ」


 人がいないと依頼書が貼ってある壁と受付カウンターの間は広く、その奥に食堂がよく見える。食堂の方も昼時なのに閑散としており、この食堂が混み合うのは夕方以降だと教えてもらった。


 混み合っている時は席の取り合いになるが、今は大丈夫なのでみんなで食堂のカウンターに向かう。

 使い方説明を聞いたところ、食券のないセルフの店だ。注文品ができるのをその場で待って、お金と交換で受け取る。

 メニューはカウンターの上と下に同じ事が書かれていた。


 今日はフレイムブレイドの奢りだそうで、注文品も全部お任せする。


「混み合っている時は、注文した物も取り合いになるから。食堂はお金と交換だから、順番抜かししても放置される」


 夕方以降に食事をするのは難易度が高く、生産者には向かないそうだ。戦闘職に押しのけられて、注文品を奪われ、席も奪われるらしい。

 順番待ちする人の方がここではマイノリティらしかった。


 混み合う時間に冒険者ギルドへ来るのはやめておこう。人混みは嫌いだし、向いてない。

 あまり待たされる事なく注文品が出てきた。

 それぞれ肉団子がいっぱいのっているスパゲティに肉の塊がどーんと入っているスープを手にして近くの席に座る。


 冒険者は基本肉好きらしい。メニューのほとんどは肉か酒だそうで、サラダとか果物ジュースは一種類ずつしかなかった。

 あと、お金のない冒険者用に芋料理が二つある。

 メニューによると、揚げ芋と焼き芋になっている。これがジャガイモとサツマイモなら美味しそうなのだが、なんの芋を使っているか現状は謎だ。


 お金に余裕ができると誰も頼まないというのが、不安になる。混雑時に注文してもそうそう取り合いにもならないそうだ。

 世の中には知らなくていいこともいっぱいある。なんとなく、知らないままでいた方が幸せそうな味な気がしてきた。

 今は目の前の料理を楽しませてもらう事にする。


 スパゲティはパンチのないペペロンチーノ系で、スープは中華系ぽい。油分が多いのでお腹ははりそうだ。ただ、食べすぎると良くなさそう。

 食べたら運動必須って感じだ。


 お肉だけは文句なしに美味しい。スープに入っているお肉はとても柔らかった。お箸の方が食べやすそうだが、フォークとナイフの文化圏のようで、使うと悪目立ちしそう。


「夜どうしてもギルドで食べたいなら個室借りるといいよ。他所で買ってきたの持ち込んでもいいから」

「借りるのはランクが高いほど安くなるが、生産職は値段違うかもな」


 お金で避けられるトラブルは避けた方がいいらしい。Dランク以下の冒険者にとって、ポーションは消耗品としては高い。

 自分達が気軽に使える物ではないから、ランク下の冒険者が持っていたらからんでくることも多いそうだ。


「腕力こそ正義とでも思っているバカがいるのよ」

「夜なら酒も飲んでいるだろうから、会話が通じないと思っていい」


 自衛の大事さを語られながら食事をした。

 食事が終わるのを待っていたかのようににギルド職員がやってくる。


「昨日注文の品がそろいましたので、裏へ来てもらえますか?」


 連れて行かれたのは応接室のようで、昨日入った貸し出しされてる部屋とは趣きが違う。家具に高級感があるというか、傷をつけたり汚したりすることを許さない威厳がある。

 気のせいでなければ、フレイムブレイドの二人はドン引きしていた。ラミンにいたっては顔を引きつらせてもいる。


 これはキリッと真面目にしないとダメな感じかな。見た目優等生と言われてきた本領を発揮するときだ。

 でも、見た目が受肉して変わっている。けど、面影は残っているから、いけるか。


 黙っているのが一番かしこく見えるらしいし、フレイムブレイドの二人もいるし、大事なことはきっとメイが覚えておいてくれる。

 エイコは全てを三人に任せる事にした。


 質の良さで上がっていたポーションの買取額の差額分を受け取り、薬を扱うならあっ方がいい小物類を差額分で買い取る。

 なんか、手袋だけで三種類もあった。薬草は直接触らない方がいいと、革製の手袋に魔法陣が刻み込まれ刺繍されている。

 残り二つは溶解耐性があるのと、毒物を扱うときに使う物らしい。直ぐに使うかどうかはわからないが、ダンジョンガチャで出てきた時にないと困るそうだ。

 使う時に手袋を鑑定してから使えば、間違えないはず。


 そんな感じでエイコの方は差額分がほぼ全部道具に変わった。メイは毒消し薬と傷薬を扱うのに必要な分だけで、その分のお金は貸付になる。

 月末までに払えないと、その分ポーションを作らなくてはいけない。


 冒険者ギルド、ポーション貸付をしたくて仕方ないようだ。露骨すぎて隠せていない。


「寝具、お願いしてもいいですか?」


 寝具店でもないのにカタログが出てきた。安くても藁は選ばない。


「冒険者ギルドは生産職に贅沢させて囲い込むのね」

「ポーション作る道具扱いしている方々よりはまっとうな対応だと自負しております」

「エイコはどこでもぼったくられそうだから、面倒見てもらった方がいいでしょうけど、露骨」

「こういった冒険者ギルドの努力があるからこそ、冒険者に提供するポーションがあるんですよ」


 今までその恩恵に預かっていた冒険者がグダグダいうなと、担当者は圧のある笑みを浮かべていた。


 返済できない借金を背負わされるよりは、ポーションを作れば済むだけマシ。寝具には労働するだけの価値がある。

 睡眠時間は一日の内の三分の一から四分の一くらいあり、残りの人生の三分の一から四分の一は寝具の上で過ごすことになる。ならば、なるべく良いものを選びたい。

 刺繍なんかの飾りはいらないので、シンプルな物の中で一番高いのにした。


「傷薬とポーション持ってきているので、代金は物納でいいですか?」

「ええ、もちろんです。担当者を呼んできますね」


 大きな保存容器を二つ取り出して待つ事にする。


「エイコよくギルドに寝具頼んだわね」

「たぶん、話聞いてないだけ」


 メイに聞いてないと断言されたので、そういう事にしておく。冒険者ギルドはポーションさえ作っていれば、仲良くいられる相手ってことくらいは聞いた。

 いろいろ作らなくていいから、フレイムブレイドより楽かもしれない。


 自衛能力が足りない以上、警戒心ばかり前面に出すより扱いやすいと思ってくれた方がいいし、きっと、メイたちはエイコより上手く周囲を警戒してくれるだろう。

 都合の良い子でいるのは慣れている。ちょっとどころではなく、軽く見られるのは面白くないが、今は妥協しておく。


 担当者が来たので保存容器の中身を買い取ってもらい、家賃分のポーション納品用の素材も準備してもらう。


「三ヶ月か四ヶ月くらい先の分まで先に作るのはダメですか?」

「今は素材があるので大丈夫ですよ」


 後納品はダメだけど、先納品はいいそうだ。


「じゃ、とりあえず、四ヶ月で」


 フレイムブレイドとの契約もあるし、そのくらいは最低でもこの町にいるだろう。周辺情報は全くないので、出て行く先もないが、せっかくの異世界なので旅行くらいしてみたい。

 問題は治安と移動方法だ。でも、この世界の知識が増えれば、いずれどうにかなるだろう。

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