第17話
メイの部屋は物がごちゃごちゃしていた。なのでまず、収納ブローチを一つプレゼントする。
昨日作った容量の小さい方だが、ここにある分くらいなら全部入るだろ。
「これで、カーテン、タオル、敷布団、部屋着、寝巻き、カーペット、座布団、できれば、ソファーとか、クッションとか枕もお願いします」
「待って。まず、これ何?」
手を上げて止められる。
「収納ブローチ。ここにある物くらいなら全部入る」
「あっ、うん。それは、ありがとう。助かります」
ブローチを受け取りメイは服につけた。
「で、次ね。全部は覚えられなかったけど、ソファーは作れそうにない。ガーゼ生地のタオルはあるから持っていっていいよ」
メイは大きさの違うガーゼタオルを布を敷いた床に、大きさ別に折り畳んで置いている場所を示す。
「半分もらっていい?」
「いいよ。そっちまったくないんでしょ?」
「うん。朝顔も洗えなかった」
「あー、そらならシャワーもダメだったんだ」
「そっ、魔術の清潔て誤魔化してる感じ」
痒いとか匂うとかはないので、たぶん綺麗にはなっている。けれど、身体を洗ったという満足感はないし、体臭って自分じゃわかりにくいらしいから不安だ。
「服とか靴は洗濯するより楽だからそれでいいけど、お風呂は入りたいよね。場所わからないけど、公衆浴場あるみたいだしさ」
「それは行きたいけど、治安と衛生面が気になる」
そのあたりに問題ないなら、毎日通いたい。
「魔物素材がそっちで山になっている分なんだけど、使えそう?」
「鑑定できた範囲は使えそう。全部、錬金術で使えるみたい」
牙、骨、鱗、角、爪と硬そうな物がいっぱいある。
「皮とか
「エイコの方も使うのか。待ってて、持ってくる」
待っている間に魔物素材を回収する。
メイは両手に抱えて二往復するくらいあったようで、ドサっと皮の塊を置いた。
「メイ、皮系のレシピ多い?」
「うん。防具らしい服とか鞄に皮がいる」
「じゃ、こっちは皮一枚でいいや。今のところ収納ポーチだけしかレシピないから」
1番枚数の多いらしい大きな皮を一枚もらう。それから髭二本と鬣を半分もらった。
「こっち武器はないみだいだけど、いる?」
「あー、予備の武器はあった方がいいみたいだけど、付与つけてくれる? そのままじゃ重いし、包丁代わりになるナイフも欲しい」
木材が余っているならまな板もと要望を出された。
「予備の武器は今使っているのと似た感じにしたらいい?」
「うん。そんな感じ」
「ナイフは斬撃付与する?」
「そんな指が切れそうなのはイヤ」
まな板まで切れそうと拒否され、ナイフに付与魔術はいらないそうだ。
「あとさ、ボタン作れる?」
「ポーチ作れば、魔石でくっつくボタンぽいの、作り方覚えられると思う」
「それはそれで欲しいけど、丸い穴が四つ空いたヤツよ。制服のブラウスのボタンに使ってるの」
「それなら錬金術で作れると思う」
大きさを聞いて、魔物の骨をボタンに変える。色は染色で変えられるそうなので、サイズを変えて両手で小山になるくらい作った。
ホックも欲しいそうなので、形状がわかる物は作る。チャックも欲しいみたいだが、上手く図面にできなかったのであきらめてもらう。
「これで寝巻きと部屋着はできる。あとカーテンだっけ? カーテンレールないから、どうしようか困っているのよね」
「窓よりちょっと大きい感じで作ってもらっていい? 窓枠につっかえ棒はめられないから試してみる。ダメなら物干し竿の台みたいなのを窓の前に置くしかないけど」
「上手くいった方をこっちの部屋の分もお願い」
「わかった。ランプ別の形のもの作ったから、夜試してみて」
互いに作った物を交換し、これから作る物の交換を約束してエイコは部屋に戻る。
メイは布だけでできる物はだいたい作れるが、クッションや座布団は中身にできる物がほとんどないそうで布袋に布を詰め込んだような物しか今は作れないそうだ。
当然寝具は無理だし、この世界の安い寝具は藁らしい。藁を詰める布袋くらいなら作ってくれるそうだが、寝具には寝心地を求めたかった。
冒険者ギルドで金策して、ついでに買う事にする。
大量にあるレシピを、どれも一回は作っておくかと試していたら、お腹が空いてきた。昼ごはん食べておいた方がいいのかわからなくてメイに聞きに行く。
「冒険者ギルドには行くから、そこで食べたらいいんじゃない?」
冒険者ギルドに行きたいとは思っていたが、行くのが決定事項になっているのは知らなかった。
「お腹すいたならスープ食べる? 朝の残りだけど」
「メイ料理レシピあったの?」
「レシピなくてもスープくらい作れるよ。料理のレシピは調味料の調合ばっかりだった」
「それでスープ作れるの?」
メイは数回瞬きしてからにこっと笑う。
「すごい美味しい物にはならないけど、干し肉と野菜を入れて煮込めばそれなりに食べられる物にはなるよ」
「そうか」
鍋で煮ればよかったのか。レシピがないとできないとばかり思っていた。
「で、エイコは朝何食べたの?」
「外に食べに行ってきたよ。朝から肉が出てびくっくりだった」
「そう。からまれてないならいいわ」
アパート出るとき、そんな事考えなかった。お腹すいていて、食べることしか考えていない。
警戒心、足りなかったかも。すぐ近くだからとゆだんしていた。
何もなかったからいいけれど、毎回何もないとは限らない。
街歩きするときは隠者スキル使う予だったのに、すっかりと忘れていた。
メイはスープと小麦粉を水で練って焼いた物を朝食にしたそうだ。硬くて味気ないホットケーキみたいなのができるらしい。
美味しくするには努力が必要となるが、食べられないことはないそうだ。
「そうだ。調合でドレッシングできたけどいる?」
「欲しいげど、もう生野菜はない」
「えっ、食料は半分づつだからかなり量あったわよね?」
「錬金術のレシピが乾物だったから野菜や果物の生はもうないよ。ドライフルーツはそのまま食べられるけど、ご飯っていうよりはおやつだった」
メイはそっと服を出してきた。
「とりあえず寝巻きが2組と部屋着作ってみたの」
冒険者の硬そうな服じゃなくて柔らかい布でできた服。たたんであるから全貌はわからないが、今よりは寝心地を良くなりそうだ。
「ありがとう」
「カーテンはも少し待っていて」
それから温めたスープを持ってきてくれる。
「エイコ。わたしの部屋のも乾物にしてもらえる?」
「いいよ」
メイが果物を渡してくるので、錬金鍋に入れてもらう。食べながら魔力を流して、完成すると大皿の上に出していく。
「スープの味付けってどうするの?」
「塩ベースのスパイスが調合できたから、それよ。岩塩分けてくれるなら作るよ」
食材としては使い方の分からなかった物なので、作ってもらう事にする。紙袋入りの塩もあったが、メイの持っている調合レシピはだいたい岩塩を使うらしい。
調合と錬金術で作った調味料を交換しつつ、スープが食べ終わった頃、門番の人が訪ねてきた。
先にエイコの方を訪ねて不在だったから探していたらしい。二人ともいる姿を見つけて安心していた。
出かける準備をしに一度部屋に戻り、玄関の前までメイと待ち合わせしてアパートの門へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます