第14話
やっとレシピの取り込みが終わる。
レシピの三つに分けられた山の一つは共通レシピなんてほとんどなくて、鑑定では何かわからなかったファイルに入れるレシピだった。
どうもレシピ枚数が増えると、より複雑な物が作れるとらしい。
レシピ一〇枚、収納ブローチ。収納の腕輪のブローチバージョンだった。魔石と魔銀に魔法陣を刻み込むとできる。
収納の容量は魔石の質と作成者の腕によってかわるらしく、別のレシピで練習してから作った方ががいいかもしれない。
レシピ三枚で使用者限定サイフとポーチ。レシピ五枚で使用者限定ポーチ容量拡張が出たので、昨日買ったサイフに後悔し始めている。
レシピ四枚は温風機で、これから夏に向かうそうなので、是非とも冷風機を引き当てたい。
冷蔵庫と温風機のレシピを改造すれば、できそうな気もするしている。暑くなる前にレシピを入手できなければ、改造するかもしれない。
職業制限のないレシピは錬金術と調合と料理のレシピで、メイは覚えてもしかたないからと、錬金術レシピは全部エイコがもらった。かわりに調合レシピはメイに渡す。
調合レシピは染色に使う物が色違いでいっぱいあったので、もともとメイ用だったと思われる。
かぶりレシピの保湿軟膏と白粉はエイコも覚えた。調合は美容関係の物もあるみたい。
錬金術にも化粧水や洗浄液(身体用)がある。部位別洗浄液がどこまであるかはわからないが、髪用と布用もあった。
「まだ分ける物があるわ。でも、お腹すいたから夕食にしよう」
複数のおかずと温かいお茶が出たことにエイコとメイは喜ぶ。
「今日、酒なし?」
「酒飲むなら食後の話は抜けてくれ」
「マジ?」
「酒のんで口が軽くなるなら聞くな」
「ガチか」
最初に軽く触れただけで食事中はその話には触れなかった。
「お茶の葉はどこで手に入りますか?」
もう生水か白湯しか選択肢のない日々から脱却したい。今飲んでいるのも美味しいものではないが、選択肢がないよりはマシだ。
「ガチャでも出るわよ。今回も出てるわ」
交渉は食後だ。
「食材って調味料や油もありますか?」
「あったわね」
「鍋は?」
メイの問いかけには熱意があった。
「鍋、そんなに欲しいの?」
「近くのパン屋が鍋がないとスープ売ってくれないんです」
「あっ、鍋レシピ覚えた」
鍋より、保存容器が保温容器の方が惣菜を買ってくるには使いやすいはず。蓋付きで重ねることもできる。
「武器は何かレシピあった?」
「ナイフ、短剣(両刃)、小刀(片刃)、鏃」
「弓矢じゃなくて鏃だけ?」
コクリととうなずく。
「木材欲しがってたから、弓矢とか杖レシピ持っているかと思ったんだが」
「木材は椅子と机用。今、ご飯床で食べてるから」
悲しそうにメイもうなずいて同意を示した。
「まあ、町に来たばっかりだと無い物ばかりだよね」
「家に家具ついてなかった?」
「寝具なしの寝台だけだった」
メイの解答にエイコは深くうなずいて同意した。あと、台所に大きな水瓶はあったけど、使い方がわからない。
「前の入居者が机や椅子は持っていった可能性があるな。アパート出るなら、自分の店を持つためだ。家具を持って冒険にはいけないが、引っ越しなら持って行く」
「冒険者ギルドが生活するのにお金のかかる状態にして、ポーションを納品させるためだろ」
「そっちの方がありそう」
「そういえば、冒険者ギルドで、お金に困ったらいつでもポーション作りにきて下さいって言われてますね」
家具が揃ってないのはそのせいだという話になり、悪いのは冒険者ギルドということになった。だからといって、冒険者ギルドを恨むという話ではなく、適当にあり得そうな話をしているだけで、重要な話は食後となる。
食事が終わると、サッサっとテーブルの上が片付けられた。清潔の魔術もかけられ、きれいにされる。
「まず、薬草と瓶の素材。これで今月のオレらのポーションを納品して欲しい」
「たぶんあまる」
「余った分はそっちの取り分でいい」
冒険者ギルドに売っていいそうだ。銅メダルの代金とられたけど、このくらいは許容範囲内ではある。
「それから傷薬と毒消し薬の素材もあるから作ってフレイムブレイドに売って欲しい」
「それ、わたしが作ったらダメですか? 調合レシピで食事前に覚えました」
「試しに作ってくれ、品質に問題がなければ買い取る」
「作るのはいいですが、入れ物と薬つかむ物がないんです」
「今朝エイコが頼んでいたから、冒険者ギルドに行けばあるよね?」
結論を出すのは後にして、ラミンを中心にメイと売る量と値段の交渉を始めた。エイコは自分には関係ないと、リラに声をかける。
「紙とペンありますか?」
「あるわよ」
紙の束とインク入りペンをリラが収納から出してくれた。
エイコはフリーハンドで三面図を書く。スキルによる補助もあるがすらすらかけるくらいには、もともと図面関係はエイコの得意分野だった。
「瓶の素材下さい」
リラは黙って素材を出してくれる。素材と図面を、テーブルの上に置き、錬金術を使う。メイが調合した時のように魔法陣が出てきて、素材と図面が魔法陣の光の中に溶け込む。
光が消えると、シャーレ皿が二種類、各三個とヘラが二本できていた。エイコは大きい方の皿を手にし、小さい方のお皿に蓋ができるか確認してする。
初めてやったにしては良くできたと、エイコは満足する。ピンセットも作りたいが、金属の硬さ調整に不安があるのでやめておく。
「木材出してもらえますか? 一番小さいのでいいです」
1番小さいのは角材で、ランドセルくらいはある。重そうだったので受け取らないでテーブルに置いてもらった。
この大きさならスリッパぽい木靴もできそう。ピンセット代わりにお箸と、食べる用のお箸と、菜箸もいけるか。それでも余りそうだからスプーンとフォークも描いて、あとは平皿でいいか。
再び錬金術を使うと、上手くてきた。
できを確認して顔を上げると注目を集めており、錬金術を使うのに光ったからかと納得する。
「メイ、これで作れる」
蓋付きシャーレ2組とヘラとお箸を渡す。残りは自分の収納へしまった。
「ありがとう。さっそく作るわ」
感謝してくれるのに、なんか疲れた声をしていた。
「エイコが作れるなら、日用品は全部メイの方にしておくわ。二人で調整して」
「食材はだいたい半分に分けた。使わなかったらギルドに売れ」
傷薬と毒消し薬の素材は一セット分エイコで、残りがメイになった。
「で、だ。まず、こればエイコに渡しておくな。君がモンスターを倒して得たメダルで出した分だ。これについては好きにしてくれ。フレイムブレイドで権利は主張しない。売って欲しいとは思うが」
そう言って渡されたのは黙っていろと即回収された薬草の束だった。鑑定するとマナポーションの素材セットになっている。
「エイコ、これのレシピ持ってるか?」
「持ってる」
「そっ、そうか」
呼吸一つ分間を開けてから、ラミンは収納から薬草の束を取り出す。
「この薬草の束、あと三つある」
「ほかの薬草より出にくいの?」
「出にくいどころか、現物を初めて見た」
「ラミン。もったいぶるな」
パーティーリーダーにうながされ、ラミンは重い口を開く。
「いいか、他でしゃべるなよ。これはマナポーションの素材だ」
「えっ、マジ」
「エイコ、レシピ持ってるって」
フレイムブレイドのメンバーが叫ぶほど驚いていたが、エイコとメイは共感できなくて顔を見合わせた。
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