ラダバナに帰ります
第13話
急足のせいで、移動するのに必死なエイコたちとは違い、フレイムブレイドのメンバーは余裕そうだ。
「生産職の二人はダンジョンでお金払うから回してくれと言われても断るように。職業関連のレシピは一度出たら二回目は出ないってウワサがある」
ほぼ確定のようだが、完全に調べきれていないので、ウワサという扱いらしい。
「相手が譲ってくれなかったらレシピが手に入らなくなる可能性があるぞ。売ってくれても、足元を見られて高額で売りつけられる」
混合ダンジョンの星二個以下なら生産職だけのパーティーもちらほらおり、レシピでぼったくりするパーティーがいるそうだ。
「レシピ、出たよね?」
「心配しなくても全部渡すから、二人で分けてくれ。本人でないとどちらの関連レシピかわからない」
レシピは誰でも覚えられる物と、スキルか適性職業がないと覚えられない物があるそうだ。
同じ名前のレシピでも制限ありとなしがあるが、ガチャした本人が使えない制限レシピは出ないらしい。
なので、二人ともが使えるレシピはあっても、二人ともが使えないレシピはないそうだ。
駆け足に近い速さで進んでいると、エイコとメイは息切れしてきた。
「エイコ、自分に付与魔術使えるか?」
ピンとこなくて首を傾げる。
「身体強化付与か、俊敏付与、体力上昇、体力回復、なんでもいいが、使えたら息切れが治るかと思ってな」
使う魔術の名前を聞いたせいか、今度はピンときた。さっそく身体強化を使う。身体が楽になる。
「エ、イコ。使える、なら、こっちも」
メイに身体強化をかける。どうやら生産職の二人あわせてこれでもゆっくり進んでくれていたようで、速度が上がった。
身体強化だけでは足りない。エイコは俊敏を重ねがけし、自分で成功するとメイにもかける。
そうすると一番遅いのがトミオたち三人組になった。
「身体強化かける?」
「頼む」
「お願いします」
「やってくれ」
三人まとめてやりたかったが、どうも何かが足りない感覚がある。仕方なく、元世界の年齢順に身体強化をかけた。
「よし、間に合った」
太陽の色が変わる頃、入管の列の最後尾に着く。冒険者の手続きは早く、さすがに並んでいたら日が落ちても入れてくれるそうだ。
あまりに人が多くて制限がかかるなら、最後尾にお断りする兵士が並ぶらしい。年に何度か、そういう事もある。
月末はラダバナで大きなオークションがあるそうで、そういう事態が発生するかもしれない。出歩かないことをおすすめされた。
「素材があるなら、覚えたレシピ試したいし、部屋も住み心地良くしたいから閉じこもっているんだけど」
「人多いと絡まれそうだし、引きこもるのはいいけど、先立つ物がないとね」
ゆっくりとした列の進みにのんびりと話していたら、順番が来た。冒険者カードを出して、何かの魔導具に通すと中に入れてくれる。
「荷物分けたいから、フレイムブレイドの家に来てもらえる?」
「オレらは遠慮する。今日は戦い方を教えてもらっただけでもらいもらいすぎだ」
生産職の二人を守れるほど強くもない。騙されて搾取されるなら、心配はするが、問題無さそうなので別行動するそうだ。
戦闘補助してもらった分のメダルは全部もらっており、冒険者ギルドに売りにいけば今日の宿には困らないくらいにはなるらしい。
互いに手を振ってお別れした。
フレイムブレイドで借りている家は冒険者ギルド近くの住宅地にあった。この辺りの一軒家はだいたいパーティーで借りた冒険者が住んでいるらしい。
冒険者にとっては同業者ばかりの気楽さがあるが、町の住人はガラが悪いと近寄りたがらないそうだ。
生産職二人で来るのはお勧めしないので、話がある時は冒険者ギルドでフレイムブレイド宛に伝言を残せば迎えに行くと言われた。
悪い奴ばかりではないが、ちょこちょこ住人は入れ替わるし、パーティーが喧嘩別れして荒れている冒険者もいる。
町で暮らす人に嫌がられるには、嫌がられるだけの理由があった。問題をおこしていない冒険者にとっては迷惑なことだが、冒険者として一緒くたに見られてしまうのは仕方ないことてもある。
冒険者はどうしても余所者扱いされてしまうし、冒険者も冒険者で町から出ないで暮らす人を町の人と一緒くたで考えてしまっている。
「ここです。どうぞ」
夕暮れも深まり、うす暗く周囲の家と似たような大きさで、治安がよくても一人で来たら迷いそうな特徴のない家だった。
玄関から入ると短い廊下があり、二階へ上がる階段のそばを通ってリビングらしい広い部屋に行く。
「ますば仕分けしようか」
全部出すと大変なことになるので、空の収納アイテム二つをエイコ用とメイ用にして詰め込んでいくそうだ。
「布と糸関係がメイで、鉱物とか金属がエイコでいいのよね?」
「木材もいります」
「綿? 羽毛? 鳥の羽とか、ふわふわ柔らかいのはこっちだと思います」
「適当に分けるから、間違っていたら君らで交換して」
コクリと二人ともうなずいた。
「先に瓶の素材もらえれば、待っている間に作ります」
「メイもポーション作れるんだよね?」
「はい、できます」
「一回、作ってもらっていい? 買い取るかは品質次第だけどね」
「がんばります」
メイのポーションは調合レシピで、メイは調合盤がなくても調合できるようだ。
もしかして、錬金盤や錬金鍋なくても錬金術使えるのかと考えたら、出来そうな気がしてきた。買い取ってもらう分の質が下がったら困るから、今はやらないけど、後で試してみよう。
エイコが封入瓶を作りメイがポーションを作って、フレイムブレイドの今週分のポーションを納品してしまう。
お金は木材の代金と銅メダルの代金を引かれてから、メイと半分にわけた。
現在仕分けしているアイテム、どっちの方が取り分が多くなるかわからない。そう考えれば、ポーション代なんて誤差だ。
「レシピは二人で分けて」
床の一角に巻物が山となっていた。よく見るとざっくり三つに分けられていたので、まずは専用レシピを覚え巻物の数を減らす。
製氷機、氷室、冷凍庫、冷蔵庫が別々のレシピだった。一つ覚えて改造すればできそうなのだが、全部別の物扱いになっている。魔導具改造スキルがないとできないのだろうか。
レシピ、数はあるが似たような物が多い。保存庫、保温庫、保存瓶、保温水筒、保温箱に保存箱。保存鍋に保温鍋、保存容器に保温容器。保存と保温シリーズどんだけあるのだろうか。
保存箱と保存容器はもう一緒でいいと思う。レシピの差も形状くらいしかない。
エイコが複雑な顔をしている頃、メイもまた複雑な顔をしていた。
「もう、全部一緒にしろよ」
そんな呟きをこぼしており、メイも微妙な差のシリーズレシピがあったようだ。
「サイズ違いならともかく、袖だけ三分から一分刻みで九分袖までいる? ノースリブと長袖が更に別レシピなんだけど」
よほど納得いかないようで、バシバシ床を叩いていた。
「うん、こっちも大きさ違いの似たレシピある」
二人して微妙な気分でレシピを取り込んでいてら、途中から取り込まないレシピが出てきた。
「これ、メイの?」
手渡すと違うと戻された。
「それ、ファイルのいるヤツ。たぶん、ここにある」
複数のレシピを集めないと覚えられないレシピがあるそうだ。その最初の一枚だけファイルと一緒に出てくるらしい。
表紙の下部にある数字が必要枚数だそうで、その枚数を集めてファイルに閉じると覚えられるレシピになるそうだ。
エイコに関係あるファイルは五つ。三と表示されたのが二つに四と五が一つ。最後の一つは一〇とある。
レシピをファイルに近づけると、どれに入れられるかなんとなくわかった。ファイルの上に置くと、沈むように吸い込まれる。
どのファイルも表紙の上部の数字は一だったのに、レシピを取り込んだ物だけが二に変わった。
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