第11話
五層も二手に分かれての行動になった。
どのくらいで魔力切れになるか、知っておいた方がいいと、まったく戦闘補助してくれなくなる。
複数体を相手に接近戦なんてできないからメイと交代で魔術を使う。基本は交代だけど、挟まれたらそんな事は言ってられないので、一緒に別々の方へ魔術を放つ。
「二人とも結構魔力あるね。優秀、優秀」
リラの褒め方が軽い。
移動、魔術使う、移動を繰り返しているとメイがふらついた。魔力切れの一歩手前らしい。その場で座り込んで休憩する。
メイが休んでいる間、近寄ってくるスケルトンをエイコ一人で倒す。スケルトンの現れる間隔は早くないけど、何度も続けていたら一瞬視界が暗くなってふらつく。
「はい、エイコも座って休む。しんどいなら横になって寝てもいいわよ」
とりあえず座っていれば大丈夫そう。魔力切れのサインって貧血みたいな感じなのか。頭がグラグラして、気持ち悪い。
「魔力は使っていたら増えるが、今の君らなら、三〇回魔術を使ったらダンジョンを出る様にした方がいい」
半分より多く残した状態で帰り始めないと、ダンジョンを出る前に魔力が足りなくなるそうだ。当然、今より魔力消費の激しい魔術を使えば、三〇回という目安は当てにならなくなる。
「生産職ダンジョンがどんな所かわからないから正確にはいえなけど、同じ星の数ならモンスターの強さは戦闘職、混合、生産職の順だから、混合ダンジョンなら星二つ、生産職なら星三つくらいまでは二人でも大丈夫よ」
何かいい事を言ってくれているぽいが、眠くなって来た。睡魔に抗えなくてエイコは身体を横に倒す。
寝てもいいと言われて、本当に寝れる人は限られている。そういうところがエイコは素直で図太いとメイは思う。
メイとエイコは高校一年のときのクラスメートで、比較的仲のいい相手だった。お互いに一番仲の良い相手ではないけれど、たまに一緒に遊びに行くこともある。
そんな仲だったけれど、髪を染めていたメイと真面目そうに見えるエイコが一緒にいると、いじめじゃないかと疑う先生が発生するくらいにはチグハグに見えていたらしい。
エイコは見た目ほど真面目でも優等生でもなくて、誰が校則違反していても興味がなかった。だからエイコがメイを注意してくる事はなかったし、エイコが校則違反していないのは、髪を染めるとかスカートを短かくする事に興味がなかったからでしかない。
見た目でわかる校則違反はやらないが、エイコはしれっとやらかす。気になっていた映画があっからとか、天気がよかったからとか、エイコなりの理由が有ればあっさりとサボる。
何しろ初めての一緒にごはん食べたのがお互い学校をサボっていたときで、それが話し出したきっかけだった。
他のクラスメートにはこの世界に来てから会っていないし、社会人の人が多いみたいだから、勇者召喚に巻き込まれたのは学校の外だろう。
遊びに友だちは性格悪いのもいるから、一緒に巻き込まれた相手がエイコというのはメイとしては当たりの分類だ。けれど、見た目のわりにかなりの自由人なエイコのお世話はムリ。
お隣さんはいいけど、ルームシェアはできない。金銭的にはたぶんその方がいいけど、ギリギリでもどうにかなるなら同居は絶許だ。
ストレスで潰れる未来しか予想できない。
「本気で寝るか。大物だね」
「気絶するほど魔力は使っていないはずだが、強いな」
「信頼してくれているってことなんでしょうけどね」
普通は護衛がいても、すぐそばにモンスターが現れると寝られない。メイも眠気はあるが、寝れそうにはなかった。
先に休憩したので、だいぶ楽になったというのもある。
「エイコには後で交渉する時に話すが、君のその剣。元々は三万エルもしないはずだが、今はその一〇倍はするから」
「どういうことですか?」
「付与魔術の付いた武器や防具は高い。斬撃一つだけでも安く見積もっても三〇万エルはする」
「わたしもなんて気軽に頼めることじゃないのよ。この世界の常識がないなら仕方ないことなんでしょうけど」
バレてる。
「そんなにわかりやすいですか?」
「異世界人騒ぎがあったばかりだから。もしかしたらと、疑えばわかるくらいには、ね」
「君ら、スキルの価値をわかって無いだろう?」
誰か一人でもわかっていたら、エイコの行動を止めているそうだ。
「あと、君らじゃどうにもできないが、話しかける言語を変えても気がつかないで話すのが異世界人の特徴として知られている。オレはダンジョンの中で三つの言語を使ったがわからなかっただろう?」
異世界言語、仕事しすぎだ。全部日本語にしか聞こえない。文字も書こうとしたら勝手にこの変換されている。
「それって、冒険者ギルドにもバレてますよね?」
「大事に囲い込んでくれる」
「この世界の常識を覚えるまで、囲われている方が安全だよ。犯罪組織と違って監禁されることもないし、奴隷にもされないから」
嫌な話をすると前置きしてリラが語る。
今月末開催のオークションの目玉が異世界人奴隷だと、告知があったそうだ。それ目当にこれからラダバナに人が集まってくるらしい。
「今週の内に自衛できるように強くなりましょう。人が増え始めたら食料買い込んで部屋に閉じこもっていなさい。足りなければたぶん、ギルド職員に頼んだら買ってきてくれるわ」
「どうして良くしてくれるんですか?」
「打算よ」
現在Bランクのフレイムブレイドは、ポーションを含む消耗品や武器や防具で頼れる生産職にツテがない。
そため、欲しい物を手に入れるにはダンジョンガチャで手に入れるか、いつになるかわからない冒険者ギルドが売りに出すのを待つしかなかった。
パーティーリーダーのミルタが一人だけAランクになれたのは、ダンジョンガチャで相性のいい属性武器を手に入れた強運のおかげ。パーティーメンバー全員に、それぞれに合った武器や防具が有れば、全員がAランクを目指せる。
腕のいい生産職はだいたいどこかのお抱えで、個人で店を持っていたとしても年単位で予約が埋まっており、なんのコネもなければ引き受けてすらもらえない。
「上を目指すにはそろそろ生産職の人を育成するしかないと思っていたの。そこにスキルを多く持つ異世界人よ。どうせ育てるならスキルは多い方がいいわ」
善意と言われるより打算の方がわかりやすい。
「有望な生産職が二人に増えたのは嬉しい誤算だな」
「わたし、たぶん武器は作れない。作れるとしたら防具だと思う」
自由でありたいとは思う。けれど、自由であるためには力がいる。冒険者ギルドとフレイムブレイド、この二つを盾に力をつけよう。
力をつけた先の関係は、関われている間の扱いによる。フレイムブレイドにとって、メイはオマケだったはずだが、エイコと比べて酷い扱いではなかった。
対モンスターについては、同等に酷い育成をしている。死なない様に配慮はされているし、ポーションを使わなくてはいけない状況にもなっていない。
休憩中の今は全てのモンスターを倒して守ってもくれている。
キツイけど、悪くない扱いだ。
「どうしてそんな話をわたしにしたんですか?」
「知っていれば避けられる危険もある。情報は力だ」
「メイに話したのは、あなたが話を聞いてくれるからね。エイコは聞いていないところがありそうよね?」
「あー、そうですね。聞いてないかも、あははっ」
何しろエイコは自分の契約の話なのに、トミオに丸投げしていた。あれは別のこと考えて聞いてない。部屋に戻ったら契約書を読ませておかないと、契約違反をやらかしそう。
面倒みるつもりなんてないのに、お世話することを考えている自分がメイは嫌になる。これは、そう、剣の対価。付与するのは高いみたいだから、契約書の確認を手伝ってあげるだけ。
エイコのお世話なんてストレス高すぎる、放置推奨案件。面倒をみる理由をつけて次はやらないと、メイは自らの心の平安を優先した。
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