第8話
ポーションより瓶の良さを語るのは、フレイムブレイドで唯一鑑定スキルを持つ男、ラミン。熱弁しすぎてパーティーメンバーからも引かれていた。
「君、これいくらで冒険者ギルドに売った?」
「九〇〇〇エル」
「不当な扱いです。次から簡易鑑定ではなく詳細鑑定してから売りなさい。鑑定費用払ってもそっちの方が高く売れる」
「あー、ラミンさん。そろそろ黙っていただいてよろしいですか? 冒険者ギルドの予定潰さないで」
ずっと黙っていた、立会人のギルド職員が申し訳なさそうに口をはさんむ。
「まあ、そのなんですかね。詳細鑑定やってますよ。でもね、お金に余裕があったら家賃分しかポーション納品しないでしょ」
チラッとエイコの顔を伺いながら言葉を続ける。
「ほとんどの人は消耗品としてのポーションしか納品できないんですよ。君のポーションは備蓄品として緊急時まで置いておけるだよ」
ポーションも封入瓶も質がいいと褒めてくれた。
「なので、その、ね。ある程度確保できたら差額分をまとめて渡す予定だったんですよ。適正な値段になるように」
「冒険者ギルドが何も知らない新人をだましたのか?」
トミオを疑わしそうに問えば、メイも口を開く。
「もしかして、持ち金減らさせるために、昨日ムダに高いサイフ買わせた?」
「えー、サイフはワタクシの知るところではございませんが、担当者が忖度した可能性はなくはないかと思われます」
値切ってくれたけど、あのサイフ高かったのか。気づいていたならメイにはその場で止めてほしかった。
「ねぇ、ポーションの適正価格っていくらなの?」
「約二倍です。販売価格なら二万超えます」
「もしかして、普通にアパート借りれた?」
「収入だけで見れば可能ですが、君、騙されそうだから囲われていた方が安全だよ」
昨日、宿は危険だと語られたのも囲い込みのためだったかもしれない。
「おかげで友人に会えましたから、アパートの事はいいですよ」
それで全部許せそう。依存するほどべったり一緒にいたいとは思わないが、孤独は辛い。ダンジョンで丸二日会話の相手がいなかったのがきつかった。
一人でいるとの孤独にさせられるのは似たような状況でも、完全に別物でもう一度同じ状態にはなりたくない。
「確かに、一人にしておくのは不安な嬢ちゃんだな。この契約で定期収入確保すれば安全に生活できそうだな」
同郷のよしみだと、アラフォーの男が契約を頑張ってくれた。
素材はすべてフレイムブレイドが提供し、封入瓶に入れられたポーションを一本あたり一五〇〇〇エルでフレイムブレイドが買い取る。
素材が提供されたら週当たり最低一二本はフレイムブレイドに提供しなくてはならない。それ以上のポーションの売買はその都度話し合いをする。
薬草より瓶の素材が手に入りにくいので、薬草のみの提供された場合、ポーションのみのを作り、一本当たり一万エルでフレイムブレイドが買い取る。
こちらは封入瓶入りのポーションと合算で週当たり一二本。
封入瓶入りで全部作ったらこちらは作らなくてもいい。
本契約は互いの合意により、四ヶ月ごとに契約更新する。
これで瓶入りでポーションを売れば、週当たり一八万エルの収入になる。ポーションだけでも一二万エルあるので、散財しなければ暮らすには問題のない収入だそうだ。
ただ今週と来週は多く欲しいそうで、三〇本は用意する予定。瓶入りになるかどうかは素材が集まるかどうかにかかっている。
「何か聞きたいことがあるなら、今のうちに聞いておけよ」
「ポーションじゃないけど、傷薬ってどんな入れ物に入れたらいいの?」
異世界人組以外の視線がなんか圧がある。
「君、ポーション以外のレシピも持っているの?」
「材料があるのは傷薬だけですけど」
あとマナポーションと毒消し薬もあるが、こちらはまったく素材が出なかった。これ、黙ってた方がいいのかな。でも、素材を持ってきてもらうためには公開したほうがいいのかもしれない。
「エイコちゃん。材料のないレシピも持っているのかな?」
「えーと、毒消し薬」
雑貨屋に毒消し薬はあったはず。ポーションと一緒で効果は気分だけみたいだったけど、そんな名前だった。
「容器準備しますね」
立会人のギルド職員が部屋のドアを開け、別の職員を大声で呼び手配する。
「傷薬も品質の差がはげしいんだよな。手荒れくらいにしか使えないものから切断部位の止血に使えるものまである」
ダンジョン産のポーションでも、切断されると再生されない。ハイポーションなら品質によっては再生される。
「もしかして、今作れって思われてます?」
「できれば」
ラミン、眼力が強い。圧がある。
「材料ないんですけど」
「用意します。作ってもらえれば容器に詰める方法教えますよ」
立会人ギルド職員。笑顔が胡散臭い。
断る方が大変そうだから作ることにする。
「机の上、開けてもらっていいですか?」
契約書を書くのに使った道具を片づけてもらい、腕輪の収納から調合盤を取り出す。
先に準備できた材料を持ってきてもらい、机に置かれた薬草を調合盤の上に置く。後は魔力を流すだけ。調合スキルはないから、ちょっと心配だったけど、調合盤に刻まれた魔法陣が光って消えるとなんかできてた。
白っぽい半透明のクリームで、鑑定すると傷薬(軟膏)とある。傷を治す塗り薬と表示された。
「調合のスキル持ちか。品質いいな」
「スキル持ってないよ?」
「えっ、偽証判定がない。本当に持ってないの?」
なんかギルド職員が慌ててる。
「これ調合盤だから、スキルなくても使える」
「スキルなくても使えるかもしれないが、スキルがないと品質が悪い。そうすると考えられるのは、んー、あっ、生産系の効果を上げるスキル持ちか?」
エイコは首を傾げる、あやしいのは技術者の指かな。
「わかんない」
「あー、ないって答えられないなら、あるよ。君がわかってないのは本当のようだが」
ウソをついているかどうかわかるスキルもあるようだ。便利そうでいいな。
「スキルはいいのに残念ずきる」
ギルド職員が嘆いているとドアがノックされた。キリッと表情を改めると、ドアを開ける。いろいろ乗っかっている大きなお盆を持って戻ってきた。
「まず容器ですが、蓋が閉まればなんでもいいです。容器に詰めるときは手でやらないで下さい。一般的に使われているはこういうヘラです」
クリームをヘラですくい、手際よく詰めていく。
「こちら、冒険者ギルドで売ってもらえませんか?」
「売るのはいいですけど、自分用のも欲しいので、容器とかヘラが欲しいです」
「雑貨屋で売っていると言いたいところですが、君に買い物に行かせるのは危なっかしいのでこちらで用意します」
「エイコちゃん。お姉さんにも売って」
「オレも欲しい」
フレイムブレイドの面々も同郷の人もみんな欲しいらしい。
「素材はまだあるから作るのはいいけど、容器がない」
「傷薬は後にしましょう。それよりも、毒消し薬の材料準備したので作ってもらえますか?」
お盆の上にあった、見たこのない薬草類が材料のようだ。
ギルド職員が調合盤の上にあるクリームを取り終えると、清潔を使って綺麗にしてから腕輪に収納する。
錬金鍋を取り出し、材料を入ると蓋をして魔力を流す。やっている事はほぼポーションと同じ。水を入れなくていい分、手間が少ないくらいだ。
蓋を開けると六個の錠剤ができている。
鑑定すれば、毒消し薬とあるので成功しているはず。
「どこに出したらいいですか?」
シャーレみたいなお皿を机の上に置かれる。
「基本、薬は素手で触るのはやめて下さい。劣化の原因になります」
清潔の魔術をかけられたピンセットを渡される。一粒づつ挟んでお皿に移した。
「材料が手に入るなら、こういう道具もいるのか」
お金、いくらかかるのだろうか。道具をそろえるのは大変そうだ。
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