第6話
五〇エル硬貨は穴空き銅貨。真っ当な通過として存在しているのはここまで、その下は割れ銅貨や石貨があるらしい。
ラダバナで店舗を持つような店は割れ銅貨や石貨は扱っていないため、値段も五〇エルが最小値なる。
「忙しい時にお釣りが多くなるようなお金を出したら嫌がられるし、お釣りがチップ扱いになる事もあるみたい」
そんな注意事項を教えてもらいながら買い物をして、部屋に戻る。食べ物はメイに預かってもらい、エイコはまず部屋の掃除をすることにした。
掃除といっても一部屋づつ清潔の魔術を使うだけのお手軽なもので、魔術の練習も兼ねて生活魔法の清潔。火魔術の清潔、水魔術の清潔と試していく。
闇魔術も試してみたかったが、どうも闇魔術には清潔を使えそうな感覚がなかった。
魔術スキルはかなり謎な存在で、なんとなくできると思えば使えるが、使おうとしなければできることすらわからない。
感覚と、発想というかそうなって欲しいという欲望頼りな部分がある。
部屋をきれいにしたら、靴を脱ぎたい。部屋の中は靴を脱いで生活したいし、部屋着も欲しい。
着替えはあるけど、全部外で活動する用の物だ。ダンジョンガチャでも、服は出てない。いや、防具になる服はでたが、部屋着や寝巻きには向いていなかった。
寝台がある方を寝室にするとして、もう一方が作業部屋。錬金術を使うだけなら机一つ有ればいいが、職業魔導技師としてはそれじゃダメな気がする。
でも、雑貨屋でこっそり鑑定したランプは値切る前の状態で二〇〇〇エルから五〇〇〇エルだった。ランプの売値よりポーションの買取価格が高い現状、仕事はポーション作りにするしかないのかもしれない。
ランプを作っているの楽しかったし、アレンジするのも楽しかったから、魔導具作りはしたかった。
せっかくスキルもあるし、使いたい。
倉庫で腕輪に収納していた物を出して行く。倉庫は窓がなくて暗いので、作ったランプで照らす。
一部屋に一つ置いても余るくらいあるから、メイに使わないか聞いてみよう。
荷物整理は一つ一つどこに置くか考えていたらいつまで経っても片付かないから、ざっくり三つに分けることにする。
一つは錬金術素材。半分以上はポーションの材料だが、これが今のところ一番の収入源だ。倉庫に置いて保存できるかわからないので、腕輪の収納に戻しておく。
道具があれば出先でも作れるからそちらも倉庫に置くのはやめた。
次が魔導具の素材。収益化の目処はたっていないので、分類としては趣味になるかもしれない。
素材は倉庫の奥の方に種類別に置く。重いもが多いので魔石だけ棚の上にして、残りは床に置いた。
種類別に入れられる仕切りか箱かがあると良さそう。
魔導具として完成してる物は自分で使う。魔導コンロや魔導ポットは台所でいい。魔導具温熱器はホッカイロみたいな携帯用と湯たんぽみたいなのと電気毛布みたいなのがある。
今は冬じゃないみたいだし、今すぐ使うことはなさそうなので倉庫にしまっておく。
今は物が少ないからいいが、物が増えたらいる時にどこにあるかわからなくなりそうなので、ドアを開けたら見える位置に置いた。
最後が生活用品と冒険者として入りそうな物。一番分類しにくくて、困る。
とりあえず、陶器の食器類はダンジョンに持っていかないからキッチンでいいだろう。
初期装備として身につけていた物は全部、冒険者用でいいはず。食べた携帯食料は補充しておくべきだろう。
武器とか防具は部屋の中では使わないが、どう扱っていいのかわからなくて困る。わからない物は再び腕輪の収納に戻す。いらないとわかったら売ろう。
悩んでいる間にお腹すいたし、ご飯食べるついでに相談に乗ってもらおう。倉庫の灯りを消したら思いのほか真っ暗で、灯りを付け直す。
天井か壁にランプつけた方がいいかも。でも、穴開けたらダメか。高さのあるスタンドライトならできるかな。
手にランプを持ってエイコは部屋を出て行く。階段と短い廊下も真っ暗だ。
片手にランプを持っているとドアの鍵め閉めにくい。手で持たなくていいランプもあった方が良さそうだ。
短い廊下を進み、お向かいのドアをノックする。呼び鈴いるかな。レシピないけど、光じゃなくて音を出すだけなら魔法陣を少しいじれば作れそう。
どうやって作るか考えていたら、ドアが開いた。
「お待たせって、明るい。ランプ? そんな物あるの!」
「あっ、いる? ランプなら余るくらいあるよ」
「欲しい。夜になると、暖炉の火しか灯りがなかったの」
とりあえず、手に持っていたのを渡す。それから腕輪の収納からランプを出して灯りをつけた。
メイについて部屋に入る。
「一応、鍵閉めといて」
「はい、お邪魔します」
ダイニングキッチンの暖炉には火が入っていた。この暖炉は床より高い位置にあって、調理にも使うようになっている。
そのそばにメイは布を敷いて料理を並べていた。
「さっそくご飯にしよう」
「うん。いただきます」
「いただきます」
手に清潔の水魔術をかけてからエイコはパンに手を伸ばす。
「ランプ、何個いる?」
「そんな何個もガチャででたの?」
「ガチャで出たのでランプの素材。素材はいっぱい出たから作った」
「そんな物もガチャで出るんだ。余裕あるなら、あと二個下さい」
腕輪の収納から適当に二個だして渡す。
「どうぞ。魔石に触ったら灯がつく。ついている時に触ったら消える。反応しなくなったら底にある魔石を交換してね。見えている魔石はスイッチ用だから外すと壊れる」
「うん、ありがとう。何か返せる物が有ればいいんだけど、お金あんまりなくて」
「なら、相談に乗って。町暮らし先輩」
「先輩って二日しか変わらないよ」
二人で笑い合い、ダンジョンでずっと一人でいたのが辛かったのだと理解する。知っている人に会えてよかった。会話できる相手がいるのが嬉しい。
「部屋着とか寝巻き欲しいんだけど、どこで売っているかわかる?」
「服なら作るよ。わたし、裁縫師だから、ランプのお礼に作るから待っていて。あっでも材料が少ないからダンジョン行かないとダメか」
「なら一緒に行こう。わたしも素材欲しいし、ランプもこう上から照らす感じのスタンドライトにしたい」
床置きだと、二個あっても暗いし、ライトを明るくしすぎると、そばに置くにはまぶしかった。
「電熱器みたいなコンロとか、電気ポットみたいな魔導具も作るので、カーテンとか下着もお願いします。できればスリッパも」
「素材さえ手に入れば作れる物は作る。布を使う物ならだいたい作れそうなのよね。エイコは家電を作れる感じ?」
「あー、魔力を電気だと考えたらそんな感じ」
「ならアイロン作って」
「アイロンはレシピがないよ。熱を発生させるのはコンロと一緒だから、作れないか試してはみるけど」
二人であれが欲しい、これが欲しいと意見を出し合い、明日は一緒に冒険者ギルドへ行く約束をする。
元の世界では当たり前にあった物が、ここではない物ばかりだ。
ご飯を食べるための机や椅子もないし、食後のコーヒーやお茶もないし、ネットやテレビもなければ、雑誌や本もない。
やる事もやれる事もなくて、暗い夜は寝て過ごす。メイはこの二日で早寝早起きになったそうだ。
「火って、薪を消費するの。で、薪は買わないといけないのよ。夜起きているって事はお金を燃やすってことなの」
夜ふかしはお金に余裕がある人しかできないと、メイは語る。朝早かったから眠いというメイの部屋を後にして、エイコも寝る事にした。
今日が早起きだったかどうかはダンジョンの中にいたからわからない。けれど、疲れていた。
寝台に薄い二つ折りにする寝袋は寝心地がいいとは言えない。けれど、横になるとすぐに眠りは訪れた。
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