第5話
昨日はまだダンジョンの中にいたエイコは、騒ぎなんて知らない。終わった騒ぎになんて興味なかったが、ギルド職員が語り出すと、聞いとかないとダメだと判断する。
「ときどきいらっしゃるのですよ。異世界からやってこられる方が」
ダンジョンで最初の道選びを間違えて迷子にならなかったら、もっと早くダンジョンを出られていた。そしら、きっと昨日はこの町にいただろう。
実際、メイはいた。他にも巻き込まれたの人がいるなら、異世界人がいてもおかしくはない。
「彼らはこの世界でつながりがないですから、いなくなっても探してくれる人が居ません。そういうところは、田舎から一人で都会に出てきた人と同じなのですが、異世界人は持っているスキルが多いらしいんですよ」
悲しい顔を作って、スキル目当て誘拐されたらしいと教えてくれた。
「一昨日くらいから突然異世界人がやってくるようになったらしくて、一昨日は裏で騒がれていただけだったんですが、昨日たくさん見つかったようで、表沙汰になるほどの大騒ぎになったようです」
そのせいで憲兵が警戒しており、街中で見かける事も多くなっているそうだ。
「異世界人は現れる時にまとめて現れるものですから、もうしばらくはやってこないですよ」
空気を変えるように明るくもう大丈夫だと言われるが、まったく大丈夫じゃない。
「冒険者ギルドとしては異世界人が目立ってくれたおかげでこうして、田舎から出てきたスキル持ちの方を確保できたわけですし、悪いことばかりではないです」
「ん? あの、騒ぎが起きてなければ狙われた可能性がある?」
「エイコさんは町の外でポーション売ってますからね。町の外で連れ去られた可能性もありますよ。フレイムブレイドのみなさんには感謝した方がいいです」
「ですね。そうします」
腕つかまれただけで、身体が震えるほど怖かった。打算込みだとしても、町の中に一緒に入れるようにしてくれたし、冒険者ギルドにも連れてきてもらっている。
完全な善意と言われるより、目的がわかっている方が安心する部分もあった。
「あちらの狙いもポーションでしょうから、材料を用意してもらうのを条件につけた方がいいですよ。この町で個人が材料を買うのは難しいですから」
ポーション取り扱い注意。目立つの危険。と、覚えておく。
「後ですね、その腕輪収納機能ありますよね? それが理由で狙われる事もありますよ」
「サイフ持ってない」
「では、食事が終わったらまずサイフを買いに行きましょう」
なんだろう。今、無事なのは運に助けられている部分が多かったりするのだろうか。知らないところで綱渡りしてる状態だったのかもしれない。
「目立たずひっそりと生きて行かないといけないのか」
ひっそり、ひっそりと思っていたら何かスキルが反応した気がする。これが隠者かもしれない。
「えっ」
「待って、まだここに座ってますよね。ダメですよ、お店で気配消すとか姿消す系のスキルつかったら、犯罪者の疑いをかけられます」
スキル解除、スキル解除。
「よかった、見えるようになりました」
使い方次第で犯罪者とはさすが邪神さま由来のスキルだ。けれど、一人歩きしている時に絡まれないようやなするにはいいスキルぽい。そう思えば、好意と素直に受け取る事もできる。
ものすごく美味しいという物ではなかったが、久しぶりのまともな食事にエイコは満足した。
パスタがあって、パン屋のある街並みなら、主食は小麦粉だろう。そんな文化圏で、和食を求めるのは難しい。
ソース文化圏だと醬油がなくて、醤油文化圏だとソースが発展しない。薄味が好まれるのは水がいい地域で、と考えると、和食系の食事が発展できる土壌がここにはなかった。
食べれないとなると、塩おにぎりかかけそばを食べたいと願ってしまう。確か、海外旅行をした時も同じようなことを思った。
日本人にも人気の観光地だったから、和食の店も出店されていて、なんか微妙に違うそれぽい物が提供されていた。
ここではそんな微妙に違う和食さえない。
食事を終えると雑貨屋に向かう。見たことのない物がいっぱいあるので、せっかくだから鑑定させてもらった。
「ポーションって、販売価格一五〇〇〇エルもするの」
しかも鑑定結果が偽ポーション。効果が、回復した気分がする。苦い。と、なっていた。
「秘薬ギルドの正規品ですからね。安くないですよ」
「なんだい? このポーションにケチをつけるつもりか。きにいらないなら、神殿にでも行って祈ってきな」
「この町、神殿があるんですか?」
「ありますよ。大通りを街の中心に向かって進んだら見えて来ます」
「あぁ、田舎きら出てきたばっかりか。田舎じゃポーションは見たことないよな」
「売っているのは初めて見ました。ジュースより量が少ないのにすっごく高い」
物を知らない田舎者と認識されたようで、ガハハッと笑い店のおじさんは機嫌を直した。
「ジュースじゃ、ケガは治らないからな」
「そうか、ならお値段分、美味しかったりします?」
「薬だからな。味は期待したらダメだ」
「えー、高いのに美味しくないの?」
「嫌ならケガしなきゃいいんだよ」
「料理したら指って切る物じゃないですか」
周囲が無言になった。たぶん、プルプル震えているメイだけは黙っている理由が違う。
「そうか、嬢ちゃんそれで田舎で結婚できなくて町に出てきた口か」
お店の人とギルド職員から憐れみ視線を向けられた。
「お仕事できるように手伝いますからね。強く生きて下さい」
この世界、料理の重要性にエイコは
「働けばお食事は買えます。そのためにもおサイフを買いましょう」
「サイフなら、この辺りだな」
食堂で三〇〇エルのお釣りをもらった。三〇〇エルは銅貨三枚で、サイフにはお札と硬貨を入れることになる。
「どういうサイフがいいか希望はあるのか?」
「お金が貯まるサイフ?」
「そんな物があるなら売らないで使うわ」
「じゃ、スリに遭わないサイフで」
「あれか、田舎でのんびりすごしていて、町に出てきたとたんカモられたクチか」
なんか、この店の人の中で、ものすごく残念な人にされている気がする。
「少し高いが、お勧めはこれだ。魔力登録してしまえば、登録者しか出し入れできない」
これなら中身だけ抜き取られることはなく、サイフごと持って行かれないようヒモをつけておけばいいそうだ。
ただ、ヒモを切ってまで持っていくような相手には持って行かせた方がいいから、切れない鎖や丈夫な革はやめた方がいいと言われた。
ヒモなら切られても持っていかれるのはサイフだが、切れない物を使うと腕を切り落として持って行くか殺して持っていかれると忠告された。
そこまでタチの悪いのは多くないが、そんなのに目をつけられたらサイフより身を守ることを考えなくてはいけないらしい。
異世界、優しくないし、甘くないな。
お店の人お勧めのサイフを二万エルから九〇〇〇エルまでギルド職員が値切ってくれた。
それでも素材こっちもちの瓶入りポーションの買取価格と一緒。安い高いというか、半額以下になる値切り交渉をやれる気がしない。
「冒険者としての活動の仕方も教えますから、ギルドにも来て下さいね」
雑貨屋の前でギルド職員と分かれて、メイと二人で歩く。ここのパン屋は惣菜も一緒に売っているそうだ。
ただ買うためには買う側が入れ物を用意していかなくてはならない。
「鍋なら何個かあったはず」
「えっ? 何で何個もあるの?」
「だって、ダンジョンで迷ってたから、たぶん銅メダル二百枚はガチャってる」
休憩したり、錬金したり、魔導具作成したりして、メイに二日遅れでラダバナに到着した原因がそれだ。
「なら、今日はもう食べ物買うだけでいいね。荷物整理しないと何が足りないかすらわからないでしょ。それじゃ」
深皿で惣菜を一種類買って、深皿に蓋するように平皿置いてパンを買って帰っていたメイは、鍋が有れば複数の惣菜が買えると喜んだ。
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